ホンダが日本市場で上級ミニバン「オデッセイ」を復活させると発表した。2021年12月に日本での生産が終了したばかりだったから、このニュースには驚いた人も多いのではないだろうか。なぜホンダはオデッセイを日本で再び売ることにしたのか。ミニバン市場の現状も合わせて考えてみたい。
○オデッセイが日本で生産終了となった経緯は?
オデッセイは新感覚のミニバンとして一世を風靡し、その後のミニバンブームで大きな存在感を示した。何よりも、ワゴン車に近い存在だったミニバンの床を低くすることで実現した走りと乗降性のよさは、その後のミニバンにも大きな影響を与えた。
しかし、ライバルの進化やミニバンに求められるニーズを満たせなかったことで、次第に販売は縮小。生産工場であった狭山工場の閉鎖に伴い、2021年12月末で生産終了となった。実質的な後継車としては、2022年5月発売の6代目「ステップワゴン」がその役を担うことになった。
あれから約2年。日本で復活を果たすオデッセイは、なんと中国生産となる。つまりホンダはオデッセイを「輸入」して販売するわけだが、その背景とは。
ホンダの発表によれば、2023年冬に日本で発売するオデッセイは、2021年に生産終了したモデルの改良型であるという。つまりフルモデルチェンジモデルではなく、基本的な部分は「最後の日本製オデッセイ」と全く同じ改良(マイナーチェンジ)モデルとなる。
日本での再発売までは約2年のブランクが生じるわけだが、これほど時間がかかったのは、ホンダにとってもオデッセイの再登板が想定外の事態だったからだ。
ホンダは2017年に緊急記者会見を行い、国内の4輪車生産体制を集約すると発表した。そのプランには、オデッセイの生まれ故郷である狭山工場を閉鎖し、埼玉県の4輪車生産拠点を寄居工場に集約することも含まれていた。これに伴い、狭山工場製だったステップワゴンや「フリード」などの人気車種は生産工場が変更となった。
このタイミングでホンダはリストラ(4輪車ラインアップの集約)も行った。フラッグシップセダン「レジェンド」やオデッセイの生産終了を決断したのだ。
ホンダはオデッセイの抜けた穴を埋めるべく、新型ステップワゴンを大型化し、新たな上級仕様「スパーダ プレミアムライン」を設定した。しかし、困ったのはホンダの販売現場だ。合理化の結果は、ホンダ上級車の不在という結果をもたらしたからだ。顧客の中には、これまでの愛車よりもランクの下がるホンダの新車を購入することに抵抗があった人もいただろう。
そんな市場の声にこたえるべく、ホンダが打ち出した打開策がオデッセイの再登板だった。とはいえ、国内で新たに生産体制を整えるのは難しい。そこで現在のオデッセイの生産地、つまり中国から調達するという方法を選んだ。
近年のホンダには、タイ生産の「アコード」や米国生産の2代目「NSX」など、海外で生産して日本で売っている車種がある。ほかの日本メーカーでも、日産自動車「キックス」の前期型がタイ製(※マイナーチェンジ後の現行型は日本製に)であったり、スズキ 「エスクード」がハンガリー製であったりなど、こうした例は存在する。海外メーカーではテスラも中国生産車を日本に導入しているし、BYDの中国製電気自動車(EV)が日本に上陸したりもしている。中国生産車も今や、日本で当たり前の存在になりつつあるのだ。
○日本のミニバン市場で勝機はある?
さて、オデッセイに話を戻そう。ホンダはこのクルマを北米でも販売するが、そちらはボディサイズが異なる海外専用車だ。日本で売るオデッセイは、基本構造やデザインを共有する中国向けと同じ工場から調達する。ちなみに中国向けオデッセイは左ハンドル車で、より豪華な4人乗り仕様も選べるホンダのフラッグシップモデルである。
日本に再登場するオデッセイには勝機があるのだろうか。この国には、トヨタ自動車「アルファード/ヴェルファイア」(アルヴェル)の人気からもわかるように、需要旺盛な高級ミニバン市場がある。そのアルヴェルは2023年夏にフルモデルチェンジモデルを予定している。ホンダのオデッセイは改良型であるとはいえ、アルヴェルと真っ向から勝負するのは難しいといわざるを得ない。
オデッセイ復活の狙いは打倒アルヴェルではなく、ホンダの上級モデル愛用者とホンダファンを逃がさないこと、そして、定番モデルを避けたいミニバンユーザーの獲得にある。それには中国から輸入して現行型オデッセイを再販することが最も合理的かつスピーディーな方策だ。
再登板となる以上、ファンはオデッセイの成長に期待している。2023年冬に登場する改良型モデルはその期待に応えられるだろうか。改良型オデッセイは黒をアクセントにスタイリングを磨いたレザー内装の「BLACKE EDITION」を新設。電制シフトやワイヤレス充電器などの新機能も盛り込むとホンダは予告している。
見た目や機能も大切だが、やはりオデッセイといえば走りや乗り心地などが気になるところだ。ホンダらしさが感じられ、既存モデルのオーナーも満足させられるようなオデッセイになっていてほしいし、日本市場から「オデッセイがあってよかった」との声が聞こえてくるような復活劇を見せてほしい。
大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら