乳イチョウ“手当て”続く 牧野富太郎ゆかりの巨木 台風で塩害、幹裂け…住職「守りたい」 勝浦・高照寺

歴史ある勝浦朝市が開かれる通りに面した高照寺(勝浦市勝浦、佐々木光道住職)で、「乳イチョウ」と呼ばれる巨木の“手当て”が続けられている。台風による塩害で一時は葉が付かなくなり、枝の重みで幹が大きく裂けている。樹木医らに相談しながら樹勢回復を進めていて、本年度は東日本鉄道文化財団から一部費用の助成を受けることになった。
乳イチョウは境内墓地にあり、乳房状の突起(乳柱、気根)が枝や幹から垂れ下がっていることから「高照寺ノ乳公孫樹(ちちいちょう)」として1935年に県の天然記念物に指定された。樹齢は不明だが、昭和初期に木を見た植物学者の牧野富太郎が「千年の年輪を数えるか」と話したという。
火事の飛び火で主幹上部が枯れてしまい樹高は10メートルほど。現在は剪定(せんてい)によって低くなっている。根回りもおよそ10メートル。枝が横へ広がり、通常のイチョウとは異なる樹形をしている。
「子どもが木に登って遊んでいた」と佐々木住職。乳イチョウが元気だったころを振り返る。大きな転機は20年近く前の台風。「雨が降れば洗い流してくれるが、大風だけだったので海の塩が木に残ってしまった」。同寺は海から400メートル足らず。台風による塩害で枝が枯れて葉がまったく付かなくなり、幹がどんどん裂けていった。
樹木医や植木業者のアドバイスで木に栄養を与えたり、枝の剪定や支柱を7~8基設置したりして養生。数年を経て葉が茂るようになり乳イチョウは元気を取り戻しつつあるが、佐々木住職は「ここにきて太い枝が枯れ始めている。穴が空いて雨水が入ると根を腐らせてしまう」と心配。今後も管理が必要だ。
乳イチョウにまつわる民話がある。栄養不足で乳が出なくなった母親が、寺の僧にお経を上げてもらうと乳が出るようになった。その僧が亡くなるとイチョウを植えてしのび、大きくなった木から乳房のようなものが垂れ下がったことから、乳イチョウと呼ばれるようになった。
長く親しまれている乳イチョウに佐々木住職は「木の寿命はあるだろうが、高照寺の住職として木を守っていかないといけない」。大きく裂けた幹の根元からいま、若木が伸びてきている。