子どもから大人まで安心して集まれる場所を― 八王子「ほっこり食堂」の活動とは?

とどまることを知らない物価上昇に低賃金労働、ひとり親世帯の困窮など、現代日本を取り巻く状況は深刻さを増している。そんな中で、全国各地で重要な役割を担っているのが「ほっこり食堂」だ。コロナ禍によって変化したほっこり食堂を取材した。

○■知っているようで意外と知らない「ほっこり食堂」

ほっこり食堂とは、子どもたちに無料または低価格で食事を提供する食堂。このほか、食育や学習支援などの活動も行うところもあり、2000年代から全国で広がり始め、現在では全国に7,000か所以上あるとも言われる。

子どもの貧困問題のみならず、核家族化で希薄になった地域コミュニティーの形成にも貢献していると言える。

ここ、八王子の「ほっこり食堂」もその一つ。
○■親と子が安心できる居場所に

「ほっこり食堂」について、代表の石渡ひかるさんに聞いた。

――オープンの経緯を教えてください。

私は生まれも育ちも八王子です。昭和の時代なんて家のドアは開けっ放しで、近所の家庭が何を食べているかも知っているぐらい(笑)。みんなで食べようと集まる機会も多く、下町のようでした。ですが、今ではすっかり核家族化が進んで、窮屈で大変ですよね。孤立してしまうと、困難な状況でも誰に頼るべきかわかりません。

私は自分の家庭しか知らず、お父さんがいてお母さんがいてみんなでご飯を一緒に食べる、というのが普通だと思っていました。当然、周囲にひとり親家庭はあったのでしょうが、何も考えず、みんな一緒に遊んでました。そんな意識で生きる私たちの社会が、こども食堂を必要なものとしてしまったわけです。

――問題はひとり親家庭だけなのでしょうか?

両親がいても仕事が忙しすぎると、子どもは保育園からずっと一人ぼっちのような状態で過ごすケースが少なくありません。「孤食」という言葉が知られてきた通り、料理をみんなで取り分けて食べる経験が乏しい子どもたちも増えています。そんな状況をどうにかしたいというのがオープンのきっかけです。ほっこり食堂は本来子どもや親が安心できる居場所という位置づけです。誰かと一緒に食べるとおいしいし、そういう食事は心身も満たしてくれますよね。
2016年より活動開始! コロナ禍でピンチのほっこり食堂
2016年7月のオープン以来、地道に活動を続けてきたほっこり食堂。その内容は、毎月第2、第4月曜の17時から20時まで食堂を開き、高校生までは無料、大人は300円で食事ができるというものだ。開始当初はおよそ20世帯の利用者がいた。

――コロナ禍で、活動はどのように変わりましたか?

2020年3月は、全国小中高の一斉休校と同時に休業しました。手作りの料理を大皿で食べようというコンセプトは、コロナ禍では感染拡大につながりかねない「三密」となってしまうんです。それで、3カ月休んでからは、パントリー方式に形を変えて再スタートしました。食料品店やメーカー、生産者などから食品を寄付してもらい、それを必要とする人々に提供する活動です。

――パルシステム社もその活動に賛同しているのですね。

パルシステムさんからは、2021年より本格的に供給していただいています。「フードバンクTAMA」や「フードバンク八王子」に窓口になってもらい、支援品の申し出があると、手を挙げた団体が受け取りに行くという仕組みです。以前、大雪による道路通行止めで配達できない商品があったときは冷凍食品をいただくこともありました。いただくのは青果が中心で、果物は人気が高いです。日々の食事が精一杯だと果物とか甘いものまでは手が出ません。果物が食べられるのは幸せなことだと思います。

――食品だけでなく、衣類などもありますね。

衣類や絵本など、いろいろですね。いつ、どんなものがどれくらいの量やってくるかはそのとき次第です。

○■地域の子供からお年寄りまで安心して食事ができる居場所を

ほっこり食堂の利用者は増加を続け、現在はおよそ80世帯が利用しているという。

――利用者さんはどんな方が多いのですか?

半数以上はひとり親家庭です。開始当初は1回に40人ほどで、子ども20人、大人20人といった割合でした。大人20人からの300円と寄付で食材費が賄えました。食堂をお休みしてパントリー方式にしてからも、1度いらした方はずっと通ってくれていますね。

――パントリー形式よりも食堂のほうがより良い支援になりそうですか?

「地域の子どもからお年寄りまで一緒にご飯を食べる」のがコンセプトなので、子どもたちに手作りのものを食べてもらう、子育て中の親御さんには田舎や実家に帰る感覚でくつろいでもらうという原点に立ち返ります。

2023年6月から食堂を再開する予定ですが、パントリーも続けてほしいという声は少なくありません。食堂なら1食ですが、パントリーなら複数回の食材になりますから。ほっこり食堂の活動は今、第2と第4の月曜日なので、第2はパントリー、第4は食堂と、ハイブリッド方式にすることも考えています。

木村悦子 きむらえつこ 出版社勤務後、編プロ「ミトシロ書房」創業。紙・Webの企画・編集・執筆を行う。著書に『入りにくいけど素敵な店』『似ている動物「見分け方」事典』など。関心領域は、食文化・動物学・占いなど。 この著者の記事一覧はこちら