戦闘機配備されたことない空自基地に「ファントムII」なぜ? 愛称「ヨサク」YS-11と並んでいるワケ

航空自衛隊の美保基地には、人気の高いF-4「ファントムII」戦闘機が展示されています。ただ、この基地に戦闘機が配備されたことは一回もないとか。とはいえ、同基地と「ファントムII」には縁があるのです。
鳥取県にある航空自衛隊美保基地。民間の米子空港と滑走路を共用する形で設けられているこの基地には2023年5月現在、航空自衛隊の第3輸送航空隊が所在し、C-2輸送機とKC-46A空中給油・輸送機の拠点となっています。
特にKC-46Aは、ここにしか配備されておらず、機数も極めて少ないため、レア機と言えるでしょう。そのような特徴を持つ美保基地の南側には「航空自衛隊美保基地南地区展示場」というエリアが開設されています。ここには航空自衛隊から退役した航空機の実物が展示されており、米子空港へ向かう車両が通る内浜産業道路沿いにあることからも、地元住民や自衛隊好きには割と知られた場所です。
ここに展示されているのは、美保基地でかつて運用されていた国産輸送機C-1や、戦後初の国産旅客機であるYS-11。そして、日本でも知名度の高い戦闘機F-4EJ改「ファントムII」です。
戦闘機配備されたことない空自基地に「ファントムII」なぜ? …の画像はこちら >>航空自衛隊美保基地の一角で展示されているF-4EJ改「ファントムII」戦闘機(布留川 司撮影)。
F-4EJ改は、元々アメリカのマクドネル・ダグラス社が開発したF-4EJ「ファントムII」をアップグレードした機体です。航空自衛隊ではF-4EJを1970年代から運用していましたが、能力向上と寿命延長を目的に1980年代前半にF-4EJ改へとアップグレード。これによって運用期間が大きく延びたことで、2020年までF-4EJ改は第一線で使われ続けました。
長年に渡って日本の空を飛び続けた「ファントムII」は、その特徴的なフォルムなどから戦闘機の中でも人気が高く、航空自衛隊での退役が迫ると、その姿が見られなくなることを悲しむ声も多かったようです。そのため、いくつかの機体は退役後に全国の基地や博物館などで展示機となっており、美保基地で展示されている17-8439号機もそのひとつとして2020年9月に最後のフライトでこの地へとやってきました。
ちなみに、この機体は番号の下3桁の数字「439」から、語呂合わせで「与作(よさく)」というあだ名が現役時代に付けられています。
しかし、いくら人気のある「ファントムII」とはいえ、輸送機が主役の美保基地にとって、ある意味で異色の存在といえます。戦後、自衛隊が発足してから美保基地は一貫して輸送機が中心の基地であり続けた歴史を持っており、戦闘機がここに配備されたことは一度もありません。
ただ、美保基地と「ファントムII」に接点がまったくないかというと、違います。実は過去に「ファントムII」に関する人員育成で、この美保基地が重要な役割を担っていたことがあるのです。
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2020年まで航空自衛隊が運用していたRF-4E偵察機(画像:航空自衛隊百里基地)。
正確にいうと、美保基地が関わりを持つ「ファントムII」とは、戦闘機型のF-4EJではなく、偵察機仕様のRF-4です。RF-4は、外見上は通常のF-4とよく似ていますが、機体には武器の代わりに偵察用カメラを搭載し、その任務も戦闘ではなく目標地域の写真撮影と情報収集でした。
こうした任務を鑑みて、コックピットの後席には偵察航法士と呼ばれるRF-4だけにしか設けられていない特別な搭乗員が乗っていたのですが、かつてその隊員の訓練は美保基地で行われていたというわけです。
航法士とは、航空機へ実際に搭乗して、その機体の飛行ルートや航法関係の任務を行う搭乗員のことです。航空自衛隊ではC-130H輸送機やB-777-300ER政府専用機など、一部の大型輸送機でいまだに搭乗していますが、過去に運用していたRF-4にも航法士は搭乗していました。
美保基地での航法士の訓練は、特別改造されたYS-11を使って行われていました。最終的には偵察機RF-4に乗り込む偵察航法士も、最初は大型機などに乗り込む他の航法士と同じ訓練を美保基地で受けていたのです。
もっとも、偵察航法士になるには、美保基地での訓練は初歩的なもので、その後はRF-4に搭載された偵察機材の使用法や、偵察任務に関する独自の技術を習得する必要があり、一人前になるまでには長い期間が必要だったそうです。
航空自衛隊のRF-4偵察機は2020年に退役しており、その任務は無人機RQ-4 「グローバルホーク」に引き継がれました。一方、美保基地も2017年にすべてのYS-11が退役しており、以後、航法士の訓練は愛知県にある小牧基地のC-130H輸送機が担っています。
美保基地と「ファントムII」の繋がりを示す痕跡は、今の航空自衛隊にはもう残っていません。しかし、「南地区展示場」では、その過去の繋がりを示すかのようにYS-11とF-4EJ改が並べて展示されています。F-4EJ改は偵察機仕様ではなく、YS-11も航法士訓練に使われた機体ではありません。しかし、こうして改めて歴史をひも解いてみると、一見すると繋がりがないような戦闘機と美保基地が、意外と、関係性を有していたことがわかります。
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2023年5月現在、美保基地の主力機であるC-2輸送機(布留川 司撮影)。
中国四国地方で偵察仕様を含めて「ファントムII」が展示されている場所は、美保基地が唯一です。また初の国産大型ジェット機C-1についても、展示機は2023年5月現在、この1機のみです。これら展示機を眺めながら、意外な繋がりについて思いを馳せるのもいいかもしれません。