クルマの魅力はいろいろあるが、エンジン音が好きな人はけっこういるに違いない。これから電気自動車(EV)が増えていくと、音の楽しみは確実に減ると落ち込んでいるクルマ好きも多いのではないだろうか。そんな中で期待したいのは、クルマのエンジンで実績のあるヤマハ発動機が開発中のサウンドデバイス「αlive AD」(アコースティックデザイン)だ。EVの走行音を人工的に作り出す新技術を体感してきた。
○EVの音づくりに活用できるヤマハの知見とは?
エンジンを積まないEVにとって、走行中の音をどうするかは大きな問題だ。「ヒュイーン」というインバーターの音をそのまま聞かせるか、それとも人工の走行音を車内に響かせるか……。まだ大勢は決まっていないし、おそらく正解のない問題でもある。
ヤマハが「人とくるまのテクノロジー展 2023」で展示したサウンドデバイス「αlive AD」(アコースティックデザイン)は、走行中のEVの車内にスピーカーを通して走行音を流す技術だ。ドライバーの操作やクルマの状況に合わせた走行音を出せるのが特徴だという。「ドライバーが最も盛り上がる音にするにはどうすればいいのか」(以下、カッコ内はヤマハの説明員)を考えながら作り込んでいるそうだ。
デモ機では「V型10気筒(V10)エンジン」「V型8気筒(V8)エンジン」「EV」の3種類を聞くことができたが、これが人工音なのかと思うくらいリアルなサウンドで驚いた。
EVの走行音については各自動車メーカーからさまざまなアイデアが出ていて、例えば著名な作曲家を音づくりに起用している海外メーカーもある。ただ、ヤマハとしては「実際にクルマを運転している時にどう感じるかが重要」だと考えており、そのあたりについては「エンジンでさんざんやってきた」知見がいかせるという。αlive ADは「試作段階」の技術だが完成度はかなり高く、すでに「売り込み」を始めているとのこと。
ヤマハの社内では、バイクの音づくりにもこのデバイスを活用している。実際、「MT-10」というバイクでは最初にαlive ADで理想の音を作り、そこに近づけるべくエンジンや給気・排気系のチューニングを進めたという。実際にモノを作ってトライ&エラーを繰り返すよりも効率のよさそうな開発の進め方だ。
αlive ADの用途はクルマとバイクに限らない。「人間が操作して動くものなら何でも可能性があると思っていますし、音が出た方が上手に使いこなせる道具もあると思います」というのがヤマハの考えだ。では、具体的にはどんなものに使えそうなのか? 「例えば、パワースーツに作動音を付けるとか……」とヤマハの説明員は話していた。
EVのドライバーには疑似エンジン音を聞きたい人もいれば、宇宙的・近未来的な新しい走行音を楽しみたい人もいるだろうし、むしろ無音の静粛性が電気の走りの魅力だと感じている人もいるかもしれない。乗る人が好みに応じて音を選べるサウンドデバイスは、今後のEV時代に普及が進んでいきそうな技術だと感じた。