書籍の執筆にChatGPTをどう活用したのか?『生成AI導入の教科書』作者・小澤健祐さんインタビュー

日本最大級のAI専門メディア「AINOW」の編集長でAI関連のインフルエンサーとしても活躍する小澤健祐さんが9月28日、書籍『生成AI導入の教科書』(ワン・パブリッシング刊)を上梓する。驚くべきは、この新刊を制作する“ほぼ全ての工程”でChatGPTが活用されたという点だ。

一体、ChatGPTをどのように活用したのか、小澤さんにその舞台裏を聞いた。

『生成AI導入の教科書』著者 小澤 健祐さん
ディップ株式会社 AINOW 編集長
「人間とAIが共存する社会をつくる」がビジョン。持続的な次世代社会を創るべく、コミュニケーションを起点に多角的に活動している。メディア運営に特化し、AI専門メディア「AINOW」編集長、SDGs専門メディア「SDGs CONNECT」編集長、45歳からのキャリア自律支援メディア「ライフシフトラボ・ジャーナル」編集長を兼任している。株式会社Cinematorico 共同創業者COO、合同会社BLUEPRINT PRディレクター、日本大学文理学部次世代社会研究センター プロボノ、フリーカメラマン。好きな食べ物は焼肉。

○書籍執筆に「ChatGPTを使わない手はなかった」

――今回出版される『生成AI導入の教科書』は、執筆にChatGPTを活用されていると伺っております。ChatGPTを使って執筆するというアイデアが生まれた経緯を教えてください。

私自身「AINOW」というAIメディアの編集長をしていますし、 生成AIも以前からずっと使っていたため、アイデアが生まれたというよりも「使わない手はない」と考えていましたね。ChatGPTも日々の業務で使わない日がないほど身近なものですから、今回の書籍もこれほどメディアの方々に注目していただけるとは思っていませんでした。

――執筆にあたって、どのようにChatGPTを使ったのでしょうか?

ほぼ全工程で使いました。まず最初の「企画」フェーズでは、どんな見出しが良いのか、どんな構成が良いのか……といった部分でChatGPTを活用しています。

そこから「 執筆」のフェーズでは、解説的な本文を書く部分でフル活用していますね。また『生成AI導入の教科書』ではAIを活用する企業へのインタビュー記事も収録していますが、こちらについては聞いた話の音声記録をAI技術を使ったサービスでテキスト化したあと、ChatGPTで記事に整えています。

――ChatGPTに見出しや構成を活用しているとのことですが、小澤さん自身の考えはどう盛り込んでいるのでしょうか?

私の意見や独自性を出したい部分は、 ざっくりと下書きして、ChatGPTに記事としてまとめてもらいますね。

――「ChatGPTにまとめてもらう」と言われますが、自分の意見をChatGPTへどのように伝えているのでしょうか?

『生成AI導入の教科書』でも触れていますが、私はよく「生成AIのあり方を考えるうえで重要なのは、ドラえもんとひみつ道具の関係をイメージすること」という話をしています。この話を例にしてみますね。

「ドラえもんとひみつ道具の関係性」についてChatGPTに聞いてみると、いろいろと情報をまとめて出してくれるんですよ。でも、当然ながら私とは捉え方が違う部分も多いので、その都度、指摘していきます。

「ドラえもんがスゴいというよりも、のび太くんの課題に合わせてひみつ道具を出せることがスゴいんだよね」「ドラえもんはネジが抜けているという欠陥があるからこそ、のび太くんと友達になれているよね」「そういった観点も追加してよ」という感じで私の視点を伝えることで、より私の考えに近い情報にまとめてくれるようになるんです。
○人間とChatGPTの関係は「編集部のデスクとライター」、その心は?

――何度もやりとりを重ねて、自分の求めているものに近い内容を導き出していくんですね。

雑誌やWebメディアに例えると、「デスク」と「ライター」の関係に近いと思うんですよね。「デスク」とは記者が書いた原稿をチェックする役職です。自分はひたすらデスクになりつつ、ChatGPTが書いた記事に「君、それは違うよ」って言い続けるようなイメージです。なので、今回出版する『生成AI導入の教科書』の著者はChatGPTで、私はデスクのような立場じゃないかなと思っています(笑)。

――一般的に、書籍を企画してから出版するまで半年から1年かかると言われています。『生成AI導入の教科書』は、ChatGPTを活用した結果、企画から校了までわずか2カ月間ほどと驚くほどのスピード感で作られたそうですね。

完成までは2カ月ですが、書籍を通して言いたいことはすでに明確に決まっていました。「AINOW」の編集長としてAIについては長年考えていますし、取材や講演も重ねています。今回は私の頭の中身をChatGPTで変換してアウトプットしたという感覚ですね。ChatGPTを活用する際、言いたいことが決まっていれば作業はスピーディーに進みますが、逆に言うと、言いたいことがない人はChatGPTを使いこなすことが難しいと思います。

――ChatGPTで執筆されていますが、「ChatGPTさえあれば誰でも簡単に本が書ける」ということではないのですね。

そうですね。「何も言いたいことがない人が、何か言いたいことを考える」という作業が一番大変なんですよ。僕はどちらかというと言いたいことありすぎて、書籍化する際かなり削ることになりました(笑)。もちろん、自分自身でのリライトもたくさんしましたよ。ニュアンスとしては、8割くらいはChatGPTが書いて、それを最終的に私が編集したイメージですね。

――ChatGPTを使ううえで、大変だったことや苦労はありましたか?

強いて言えば、ChatGPTには2021年9月までの情報しか持っていないため(※2023年9月8日時点)、 ここ最近のトレンドや新しいサービスの内容などについては自分でカバーしました。もちろんその際も、私が最新情報の特徴を箇条書きにしてChatGPTに文章化させ、再び私が編集するという流れなのでChatGPTは使っています。
○ChatGPTはどんな職種でも活用できる!

――書籍の執筆にあたり、ChatGPTの今後の課題は感じましたか?

ChatGPTに課題があるというよりも人間側の指示の仕方に問題があると感じています。指示が上手くできないからChatGPTを使いこなせない。なので今回は、「この観点は入れてね」「こういう観点は入れないでね」とプロンプト(ChatGPTへの質問文)にかなりこだわりました。

――書籍の執筆における、ChatGPTのメリットと限界は?

ChatGPTだけでなく、他のツールとの組合せもちゃんとしないといけないなとは思いました。当然ですが、ChatGPTに入力できる情報はデジタルデータだけです。例えばインタビューの文章を作るときは、AI音声認識技術を活用した音声記録・文字変換サービスの「CLOVA Note」で音声データをテキストにしてからChatGPTで整えました。ChatGPTだけでなく、対話型AI検索エンジン「Perplexity AI」やGoogleの新しい生成AI「SGE」もリリースされましたし、ツールに合わせた使い分けが大事だと感じましたね。

――書籍執筆以外ではどんな活用方法がありますか?

私の場合、最近はオウンドメディアの戦略なども出してもらっています。企画書作りなどは一通りなんでもできるんじゃないでしょうか。普通の写真を白黒画像に変換してもらうこともできるからクリエイターも使えるでしょうし、文章評価もしてくれるのでプレスリリースの作成にも役立つと思います。サイバーエージェントではSNS投稿にもChatGPTを活用していて、もはやディレクターの仕事がなくなるんじゃないかというくらいAIの活用が進んでいるそうです。他にも、営業のロールプレイングや、商談での質問案の作成、社内教育で先生役を任せることもできますし、どんな職種でも使いようはあると思います。

――便利な割に、日本ではまだChatGPTの活用は進んでいない印象です。

帝国データバンクの調査によると、ChatGPTを活用している会社は2023年の6月時点で9.1%だというデータもあります。具体的なイメージが沸かないから使っていない、という会社が多いみたいですね。まだまだChatGPTを検索ツールだと思っている人が多すぎるのだと思います。生成AIはbotではありません。その本質をちゃんと理解していただくためにも、この本を読んでいただけるとありがたく思います。

認知度に反して、まだまだ導入が進んでいないChatGPT。ぜひ小澤さんの新刊『生成AI導入の教科書』でその真価を計ってみてほしい。
○『生成AI導入の教科書』(ワン・パブリッシング刊)

気鋭の若手が生成AIの本質から企業での導入プロセスまで完全解説

本書の著者である小澤健祐さんは、日本最大のAI専門メディア「AINOW」の編集長を務め、ディップ株式会社で生成AI活用推進プロジェクトを進めるほか、AI活用コミュニティ「SHIFT AI」のモデレーターとしても知られるなど、若手ながらAI業界で幅広く活躍するキーパーソンのひとりです。
そんな著者が、これまでのAIやDXの動向を振り返りつつ、生成AIの概要や企業のデジタル活用の現状から、本質的なDXのプロセス、生成AIを活用するためのプロンプトエンジニアリング、各社の活用事例まで網羅的に解説しています。

生成AIを活用中の企業&推進する団体のキーマンにもインタビュー
本書では、すでに生成AIを導入し、活用を推進している「日清食品HD」「ベネッセ」「ディップ」といった企業の担当者のインタビューも掲載。導入までの経緯やステップ、そして現状の課題などを語っていただいています。
また、企業のAI導入をサポートする「マイクロソフト」や「SHIFT AI」、「ABEJA」、「STORIA法律事務所」、さらに〝生成AIの社会的実装″というミッションを掲げる生成AI活用普及協会(GUGA)といったキーマンたちにもあらゆる観点から最新事情と今後の見通しをうかがいました。

生成AIの効果を高める実戦的プロンプト(質問文)の実例集も収録
生成AIの代表格であるChatGPTを例に、AIからより正確で有効な回答を得るためのプロンプト(質問文)テクニックの実例集も収録しています。
「Zero-Shotプロンプティング」「Few-Shotプロンプティング」「Chain-og-Thoughtプロンプティング」といった基本テクニックから、「Self-Consistency」や「知識生成プロンプティング」といった応用的なものまで、わかりやすく解説。さらに、生成AIの仕組みに根差した実践的な活用術全般も紹介しています。

著者:小澤健祐
出版社:ワン・パブリッシング
発売日:2023年9月28日
価格:1,760円
ページ数:288ページ
ISBN-10:4651203795
ISBN-13:978-4651203799