「どの街に住むか?」マンション購入において、建物の良し悪しや好みよりもまずそこから考える方が大半ではないでしょうか。実際、どの街を選ぶかは、非常に大事な要素です。「この街に住みたい」と思う人が多ければ資産価値は維持されやすく、将来的に売却・住み替えもしやすくなるからです。
とはいえ、あらかじめ「このエリア」というのが決まっていない場合、どこの街(駅)にすべきかを膨大な選択肢の中から絞り込んでいくのは大変です。そこで今回は、「今、東京近郊で人気のエリア」をランキング形式でご紹介。どこが人気のポイントなのかも踏まえて解説します。ぜひ街選びの一つの指針として、参考にしてみてください。
■東京近郊「分譲で住みたい駅」TOP30発表!
今回は、中古マンションの購入・売却ができるアプリ「カウル」のデータを元に、「住みたい駅」をランキング化した(※)のがこちらです。上位30位をピックアップしています。
まずは全体的なトレンドから見ていきましょう。
こうしたデータでは、「みんなが知ってるブランド立地」がランキング上位を占める傾向にあります。TOP3位のビッグターミナル3駅はもはや固定メンバー感がありますが、しかし今回、全体的にみて住まいの周辺の住環境を重視する方が増えていることが見受けられます。大きな傾向としては、下記が挙げられるでしょう。
●郊外化
●交通利便性よりも生活利便性を重視
●東急沿線人気
私がまず気になったのは、4位にランクインした武蔵小杉(神奈川県川崎市)と、11位にランクインした日吉(神奈川県横浜市港北区)です。どちらも派手さはありませんが、ともに東急目黒線・東急東横線が通る駅です。実はこの2駅、昨年と比較して大きく順位を伸ばしているのです。同じ期間の前年度(2022年)と比較したのがこちらの表。武蔵小杉が9位から4位、日吉が29位から11位と大きくジャンプアップしているのがわかります。
武蔵小杉が復調、綱島と一体開発進む文教エリア・日吉も人気
武蔵小杉は、2019年10月の台風19号の際に、増水した多摩川の水が下水道管に逆流、武蔵小杉のタワーマンションが浸水し全戸停電になったという災害が全国的なニュースにもなりました。これを期に消費者側もディベロッパー側も災害への意識が高まり、以降の新築マンションの設計にも影響を与えました。弊社のデータ上でも一時期人気に翳りが見られたものの順当に回復し、すでに4年が経ち各種課題が解決された今、復調が確認できるのは嬉しいことです。2023年10月現在、積水ハウスによる新築分譲マンション「グランドメゾン武蔵小杉の杜」がエントリーを開始しているほか、武蔵小杉駅の北側に位置する日本医科大学 武蔵小杉病院跡地に、三菱地所レジデンスによるツインタワーが令和7年度に完成予定(学校法人日本医科大学武蔵小杉キャンパス再開発計画)。1,400戸ほどの住戸供給に加えて、保育所・小学校・病院・公園・高齢者施設などが一体となった区画開発が行われることになっています。2005年ごろから続けられてきた武蔵小杉周辺の再開発は、いよいよ大詰め。駅前の生活利便性は完成に近づき、子育て世代からシニアまで安定した居住ニーズが見込める街といえるでしょう。
また、11位の日吉は、慶応義塾大学 日吉キャンパスが街の大部分を占める文教エリア。キャンパス関連施設が点在することもあり、緑も多い落ち着いた街です。駅の西側には駅から放射線状にのびる街区設計がなされています。地図上だけで見ると田園調布のような形ですが、実際には昔ながらの親しみやすい商店街が複数あり、賑わいと懐かしさが漂います。東側と西側で大きく顔が異なるのもこの街の特徴でしょう。また、このエリアは、隣の綱島駅と一体で「日吉綱島東部地区まちづくりビジョン」(2019年)のもとに、開発が続けられています。今年3月には東急新横浜線・新綱島駅が開業。綱島駅前東口側には再開発により2028年に高層マンションや商業施設が完成予定です。すでにランキングに入っている東急目黒線・東横線の新丸子駅~日吉駅に加えて、来年には綱島も入ってくることになるか。注目したいところです。
■都心の複数路線利用よりも整った郊外へ。東急沿線が人気強し
2023年と2022年でランキングを見比べて見ると、元住吉、大森、三鷹、用賀、新丸子など新しく加わった駅が計8駅。顔ぶれを見ると、マンション購入を検討されている方が、東京の中心部から郊外へ意識を向けている変化が見受けられます。今回顕著だなと感じたのは、4路線以上の複数路線を使える駅がランキングから減り、代わりに1~2路線のみの駅が増えたことです。また、JR線の路線駅が減り、東急目黒線・東急東横線・東急田園都市線など東急電鉄の沿線が目立ちます。
東急グループは、現在渋谷を中心に、周辺の東急沿線駅に対して「点」から「面」へと広げる「広域渋谷圏構想(Greater SHIBUYA 1.0)」を掲げて、まちづくりを行っています。ハード面ばかりでなく、入居者・入居企業へのコミュニティ形成に寄与するサービスやメディア開発などソフト面もともに実装・計画を進めており、渋谷及びその西側が新たな時代のカルチャー中心地として盛り上がる可能性もあります。その中心地から距離的に離れていたとしても、東急線で簡単にアクセスできるとすれば、立地的なアドバンテージになるはずです。
■足元の住環境へのニーズが増加。コロナ禍を経て住まいへの価値観が変化
ここには価格上昇を続けるマンション市況と、物価高騰を受けてより抑えめの価格帯である郊外へ人々の意識が向いたことが背景にありそうですが、それ以上に住まいに求めるニーズの変化も感じています。テレワークが進み、オフィスへの出社が戻りつつあるものの、コロナ禍は家族との暮らしを見直し、自分や家族の幸せやそこに寄りそう住まいの形や街とは何か、をみんなが考える契機となりました。「同じ価格を払うなら、もっと広くて快適な家を」「自宅で仕事をする機会が増えたから、自宅周辺で買い物しやすく緑が多い環境が欲しい」と人々が思った結果、都心部への交通利便も担保しながら、計画的に街がつくられた郊外へ・・という流れがありそうです。実際に、カウルのユーザーアンケートでも、住まいに求める条件として広さを重視する人が増えた、という結果も出ています。
今後30年以内に70%の確率で発生が予測される首都直下地震や近年の自然災害を考えると、防災観点からも整備された郊外都市は避難や救助がしやすいともいえます(地盤やマンションの立地によっても災害リスクの大きさは変わりますので、一概に「この街であれば大丈夫」ということにはなりません)。郊外都市の購入時には、その街がどういう計画の元で開発が進められているのか、今後どうしたまちづくりがなされていくのかをきちんと調べることが重要でしょう。街の名前と再開発、まちづくり計画、などのワードで検索すれば簡単に出てくるので、目を通して見てください。
■いつの時代もマンション選びのポイントは変わらない
もともと1900年代前半に実業家・渋沢栄一により進められた田園都市構想により開発された東急線沿線。1923年の関東大震災によって急速に需要が高まり居住希望者が増えて発展した歴史がありますが、コロナ禍を受けて人々が住まいのあり方に目を向けた結果、今の流れがあることには、なかなか考えさせられるものがあるように思います。
注文住宅など自由度が高い戸建てと異なり、すでに完成された「商品」を買うマンションの場合、立地が何より重要です。どんな時でも、基本的なマンション選びのポイントは変わりません。将来的な街のプランニングがどうなっているかを確認して、その街の将来的なニーズを推し図りながら、自分や家族にとって暮らしやすい「ベスト」を見つけていただけることを願っております!
針山 昌幸 はりやま まさゆき 株式会社Housmart 代表取締役。相場を確認しながらかしこく中古マンションが売買できるアプリ「カウル」やメディア『マンションジャーナル』、不動産仲介会社向けの営業支援システム「プロポクラウド」など、住まい選びをより自由にすべく幅広く事業を展開。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』(日本実業出版社)。 この著者の記事一覧はこちら