日露戦争でロシアのバルチック艦隊を旧日本海軍の連合艦隊が打ち破った日本海海戦。このとき旗艦を務めた「三笠」は、いまも横須賀市内で保存展示されています。日本海海戦記念日である5月27日を前に訪れてみました。
横須賀に今も残る、旧日本海軍の戦艦「三笠」。実はその艦内には多くの歴史的資料が展示されており、博物館としても楽しめるようになっています。
とはいえ、建物内を歩く博物館と違い「三笠」は艦内そのものが展示物と言えるものです。かつ収蔵品や艦内模型など、歴史に関する資料もかなりの点数があるため、情報量がものすごく、見れば見るほど深みにハマっていくのが自分でもわかるほど。たとえるなら、噛めば噛むほど味が染み出るスルメのような施設なんです。なので、私も含め、リピーターが多いのも頷けます。
日本海海戦の戦艦「三笠」=“艦オタのワンダーランド” になっ…の画像はこちら >>神奈川県横須賀市の三笠公園に保存・展示されている記念艦「三笠」(たいらさおり撮影)。
まず、左舷には艦隊模型コレクションが展示されており、旧日本海軍の艦船から海上自衛隊の現用艦まで、数多くの精密模型がズラリと並んでいます。
とはいえ、これらを単なる模型と侮るなかれ。一つ一つがディテール細かく再現されているほか、なかには旧日本海軍から海上自衛隊へと艦名が引き継がれた同名艦が展示されていたりするので、新旧の艦影を見比べると案外、楽しめたりします。ほかにも、戦艦の艦橋のゴチャつき加減を手に取るように眺められるのも一興かも。
増築に増築を重ねた戦艦「扶桑」の艦橋など、もう“ジェンガ”そのもの。頭を抱えながらいろいろ逡巡するだけで1日過ごせそうです。一方で戦後、海上自衛隊向けに建造された艦艇に目を移すと、途端に外観がシュッとしたものばかりになるのも潮目を感じます。
濃密なひと時を過ごせそうな模型エリア、海自オタクである筆者(たいらさおり:漫画家/イラストレーター)にとっては楽園すぎて、うっかりここに泊まってしまいそうなほど各艦を眺めていましたが、これでは先に進めないので、後ろ髪を引かれる思いで足を動かします。
中央展示室には日本海海戦を体験できるVRコーナー(激ムズ)や、当時の艦隊の動きをまとめたジオラマ、測距儀などがあります。なお、ガラスケースの中には「三笠」の艦首飾りも展示してあり、その大きさにも驚かされました。
「三笠」は日本海海戦後の1912年に、佐世保港で弾薬庫の誘爆により爆沈してしまうのですが、引き上げから保存に至るまでには相当な困難があったと思われます。ちなみに艦内には保存を目的とした募金箱もあります。維持管理にも相当なお金がかかりますから、推し課金として「三笠」を応援してみるのもおすすめですよ。
右舷左舷の展示室は主に世界情勢や主な戦争のパネル展示になっています。長い文章を読むのが苦手なら、映像でガイドしてもらうことも可能です。艦尾は士官エリアとなっており、長官公室や士官室などは当時のまま残されているので、突然の赤絨毯に上品な木製の調度品が広がるエリアに入ると、一気にタイムスリップした気分になれます。
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記念艦「三笠」司令長官公室のトイレと風呂(たいらさおり撮影)。
最後部には「三笠」の目玉の一つでもある長官公室と長官室があり、ぐるりと回ることができます。ここは天井にも装飾が施されていて豪華絢爛。室内には東郷元帥の遺髪も祀られていますので、より歴史の重みを感じられる空間でもあります。
このエリアでは長官室などに加え、とても貴重な当時の艦内の水回りである浴室も公開されています。レトロな洋風の佇まいは想像以上に清潔感がありました。比較として一般の兵隊たちの艦内生活の様子も写真パネルで展示されていて、身分の違いによる待遇の差が垣間見えます。
海上自衛隊の艦艇でも艦長室は豪華な作りで水回りも個室ではありますが、効率や防火面を重視し隊員の居住区と素材自体は大きく変わらないので、いかに昔の司令官たちが雲の上の人であったかを感じることができます。
このように記念艦「三笠」は、艦の内外に貴重な資料や展示品がこれでもかというぐらいあります。まさに、日本の歴史を伝える貴重な「生き証人」として、これからも大切に保存されることを願っています。
ちなみに、アメリカ海軍施設を横目に見ながら三笠公園から15分ほど歩くと、海上自衛隊横須賀基地とアメリカ海軍基地を一望できるヴェルニー公園に出ることができます。5月27日は日本海海戦記念日だったので、初夏の空気を感じながら横須賀をのんびり観光してみてはいかがでしょうか。