麻雀、パチンコができるデイサービスを発見 施設で目にした光景…の画像はこちら >>
パチンコ、競馬、麻雀──。金銭や品物を賭けて勝負する娯楽であるギャンブルに夢中になる人は多い。
そんな”ギャンブル”を介護の現場に導入したデイサービスがあるのをご存知だろうか。
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デイサービスに斬新なサービスを導入したのは、介護施設「ラスベガス」だ。同施設には、パチンコ、麻雀、トランプゲームのブラックジャックといった娯楽を導入しており、利用者はレクリエーションとしてそれらを楽しむことができる。
「ラスベガス」は2013年に東京・足立区にオープン。その後、関東・中部・九州地区で22店舗を展開するなど、順調に拡大している。
通常、デイサービスのレクリエーションといえば、塗り絵や体操、クイズなどが一般的。一見、麻雀やパチンコは介護とは程遠い存在に思える。
なぜ、これらを取り入れようと思ったのか。ラスベガスを運営する日本シニアライフ株式会社に取材を申し込んだところ、「ぜひ施設に足を運んで欲しい」と快く引き受けてくれた。
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今回訪れたのは、ラスベガス横浜都筑店。窓にカーテンが敷かれ、黒色のドアには黄色と赤文字でラスベガスのロゴが描かれている。
知らなければ介護施設だとは思わないだろう。ドアを開けると、パチンコ台が並びジャラジャラと音が聞こえる。
さらに奥へ進むと、本場・ラスベガスで見るような本格的なブラックジャックのテーブルがあり、その近くでは利用者達が麻雀卓を囲んでいた。
雰囲気は本格的だが、パチンコ店のように大音量で音楽が流れているわけではなく皆、真剣な表情を浮かべている。どの利用者も元気そうに見えるが、平均年齢は80歳を超え、認知症を患う人もいるそうだ。
13時になると、利用者が体操を始めたのだが、流れる曲はレディー・ガガの「Born This Way」。独特の雰囲気に気圧されつつ、日本シニアライフで代表を務める森薫さんに話を聞いた。
森さんは以前一般的なデイサービスの現場で働いていたが、そこで課題を感じていたという。「男性の利用者が少なかったんです。当時、男性はデイサービスに行きたがらず、自宅に閉じこもりがちな方が多かった印象を受けました。施設の名前が入った送迎の車で迎えに行くと『ご近所に知られたくない』と怒る方、切り絵や塗り絵などのレクリエーションをやるのが負担な方もいました。そういう状況を変えたいと思っていたんです」(森さん)。
転機となったのは2011年の東日本大震災。世の中が一変する中、今後の介護業界に不安を感じるようになり、森さんは海外の高齢者の暮らしを学ぶためアメリカに足を運んだ。そこで大きな発見があったそうだ。
「視察の一貫でラスベガスのカジノに行ったのですが、平日の昼間は現地の高齢者の方がたくさん来ていました。言葉は通じなくても、テーブルゲームのルールの話題で自然とコミュニケーションを取ることができました。こういうのを日本でやれないかと考えたんです」(前出・森さん)。
たしかに、麻雀やブラックジャックといったゲームを利用者同士一緒にやれば、競い合って刺激を受けつつ、自然と会話も生まれる。かくして、日本でデイサービス「ラスベガス」が始まったのだ。
ギャンブルをやったら、日常生活に支障を来す「ギャンブル依存」に陥るのではないか──。中には、こうしたイメージを抱く人もいるかもしれない。失礼ながら、森さんにこちらの疑問をぶつけた。
「開設当初から現在まで一人もいません。ケアマネージャーが正式なケアプランを立てて、計画的に運用していますからね。利用者の方にギャンブルをやらせて放置することもありません。ゲームという共通の話題を介して、スタッフと利用者がしっかり話すことを心がけています。麻雀をやったことのない若いスタッフは、利用者の方にルールを教えてもらいながら覚えていきます」(前出・森さん)。
施設で使われるお金に関して補足しておくと、1日2回の体操後、「ベガス」という1万円くらいの価値の「施設内通貨」を利用者に渡し、利用者はそれを使ってパチンコや麻雀をやるという仕組みだ。
一日のゲームを終えると、その日の勝ち負けや活動を集計する。ここにもメリットがあるようだ。「日常生活で要介護になると、計算する機会が失われます。麻雀は頭を使いますし、四則計算も必要です。従来型のデイサービスでは、計算ドリルをやっていただくことが多かったのですが、利用者の方からは『なんでこんな簡単な問題をやらせるんだ!』と反発する声もありました。また、他の利用者の方に『あんた、なんでこんなのもできないの?』と指摘して、傷ついてしまう方が多かったんです」(前出・森さん)。
計算ドリルも当然効果はあると思うが、高齢者に限らず苦手意識を抱く人も多いはず。その点、麻雀はゲーム感覚で自然と計算する力が付くのだろう。
今回の取材を通して、どの利用者も生き生きした表情を浮かべているのが印象的だった。そうした姿を見て喜ぶ人がいるようで…。
「利用者のご家族が施設に来て、元気に麻雀をしているのを見て喜ばれる方が多いです。『うちの親父がパチンコやってるよ!』と嬉しそうに話されるご家族もいます(笑)」(前出・森さん)。
最後に、今後の目標について尋ねると、「ずっと家にこもっているとどうしても気持ちがふさいでしまいます。外に出ることが大切なので、ラスベガスが一つのきっかけになってほしいです。期待を寄せる方の力になりたいと思うので、何かしらゆかりのある場所に出店していきたいです。単に施設の数を増やすのではなく、社員の地元や昔仕事でお世話になったなど、縁のある場所に施設ができればと思います」と、力強い言葉が返ってきた。
”ギャンブル介護”はたくさんの老人を救う可能性を秘めている。
(取材・文/Sirabee 編集部・斎藤聡人)