成果を上げながら定時で帰る仕事術 第191回 既存の資料ありきで電子化しようとしていませんか

本連載の第191回では「なぜ、定時で帰るのか。」という話をお伝えしました。今回は定時で帰れるようにするためのカギとなるDXの入り口、業務の電子化/ペーパーレス化を進める上で大事なことをお伝えします。

これまで紙やFAXでやり取りしていた業務を電子化/ペーパーレス化するときに、今まで使ってきた紙資料のフォーマットをそのまま変えずに電子化しようとするケースをよく見かけます。今使っているフォーマットをそのまま使いまわすので、電子化を推し進める人にとっては楽かもしれません。この方法でも電子化自体は達成できますが、業務効率を上げる効果はあまり得られないでしょう。

本稿では「業務の生産性を上げる」ことを目的にしたDXや業務の電子化、ペーパーレス化といったプロジェクトを推進する際に気を付けるべきことを、資料にフォーカスして説明します。
○1. そもそもその資料は必要なのか?

電子化を進める際、真っ先に問うべきなのがこちらです。とはいえ日々、その資料を作っていたり使ったりしている人に「この資料って必要なんですか?」と安直に尋ねてはなりません。「必要だから作っているんでしょうが」と相手の機嫌を損ねるのがオチです。

必要かどうかを直接聞くのではなく「この資料がなくなったら、どのような不都合があるのか?もしくは不都合はないのか?」という問いを立てて現場の方と話すのが良いでしょう。

そうすると「この資料がなくなっても自分は困りませんが、提出先の部署の人が困ると思います」などと言われる場合があります。その場合には当該部署の人にも同じ問いを投げかけるのです。

「この資料は、なくても特に業務には支障がない」というケースは案外あるものです。それならわざわざ手間と時間をかけて電子化などする必要は全くなく、資料そのものの作成をやめるだけでよいでしょう。
○2. その資料の情報に過不足はないか?

上記の問いを突き詰めて資料そのものが必要だという結論に至ったとしても、資料に記述する情報に過不足がないかどうかは別問題です。資料の情報を精査する際には「この中に不要な情報は含まれていないか?」と考えるより、その資料の作成目的に照らし合わせて「最低限、必要な情報は何か?」とゼロベースで考えることをお勧めします。

なお、各情報が必要かどうかを判断する際には「その情報は何に使うのか?」という観点に加えて、「他の資料との重複はないか?」という観点からもチェックするとよいでしょう。もし重複があれば、情報を残す資料を決定し、もう一方の資料からは項目を削除することを検討します。
○3. その資料のフォーマットは最適か?

ここまでの間に資料と記載する情報の必要性を精査できたら、ようやくここからフォーマットの検討に入ります。フォーマットを検討するにあたっても「今のフォーマットをそのまま使う」のではなく、どうすれば最も効率的に入力できるかを考えます。

ではどうしたら効率的に入力できるフォーマットにできるのでしょうか。この問いには唯一絶対の解があるわけではないのですが、考えるべき要素を2つご紹介します。

○要素1. どこからアクセスするか

その資料へは主にパソコンからアクセスするのか、それともスマートフォンからアクセスするのか、もしくはその両方からなのかによって最適なフォーマットは異なるでしょう。パソコンなら一度に全ての情報が見えるように幅にゆとりを持たせたフォーマットにするのがよく、スマホに合わせるなら縦にスクロールするだけで全ての項目に入力できるようにするのがよい、といった具合です。
○要素2. どのような情報を入力するのか

入力する情報は文字なのか数字なのか日付なのか、情報量は多いのか少ないのかなどを考慮して、最適なフォームを選択します。その際、回答のバリエーションが限られるのであれば選択肢を用意して選んでもらうようにするとか、日付ならカレンダー形式のデータから選択してもらうなどの工夫を凝らすとよいでしょう。

なお、入力したデータを集計・分析するニーズがもしあれば、不適切なデータを最初から入力できないように入力制限をかけておくことも有効です。

以上、見てきたようにただ資料を電子化するということだけでも、そのまま何も考えずに行うのではなく「そもそもその資料は必要か」などの問いを立てて考え抜くことによって、はじめて効率化を実現できるのです。職場での検討の際に本稿の内容を参考にしていただければ幸いです。

相原秀哉 あいはらひでや 株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役 慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 “Lean Master”に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。著書に『リモートワーク段取り仕事術』(明日香出版社)がある。 この著者の記事一覧はこちら