“変な人”もう言わせない 突然体が動き出す#トゥレット症と生きる酒井隆成さん(23)の夢「穏やかな生活を手に入れたい」手記公開~僕と時々もう1人の僕~

トゥレット症と生きる神奈川県の酒井隆成さん(23)が思いをつづった手記をCBCテレビに寄せてくれました。
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(酒井隆成さん)僕には大きな夢があります。1つ目は、穏やかな生活を手に入れることです。皆さんは穏やかな生活と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?のどかな自然に囲まれた生活や、昼下がりのティータイムを優雅に過ごす日常とかでしょうか?どちらも魅力的で素晴らしいと思いますが、僕にとってのそれは違います。
僕にとっての穏やかな生活とは、声をあげても、変な体の動きをしても迷惑にならない、お叱りを受けない、誰のことも気にならない、そんな生活なのです。
トゥレット症には、チックと呼ばれる症状があります。チックは大きく分けて2つに分類され、勝手に声が出たり喋ってしまう「音声チック」と、首を振ったり、体が勝手に動いてしまう「運動チック」があります。僕はこれらの症状によって、意識がある間は常に大きな声で叫び、体を動かし続けるという日々です。
父富志也さんと旅行先で撮影
例えるなら、カラオケで熱唱しながら筋トレをし続けるような生活だとお考えください。残念なことにトゥレット症に効果的な薬や治療法はなく、詳しい原因も未だ解明されていません。
大きい声を出して近所迷惑だと苦情がきますし、体を動かしながら電車に乗れば周りから避けられます。症状がひどい時には絡まれることもあります。最近も市役所に行った際、あるおじいさんに怒鳴られました。現状、穏やかとは程遠い生活です。
就職活動中の酒井さん
僕が求めているものは、そんなに特別なものではありません。ただ、健常者の人と同じように社会に参加し、電車やバスに乗って好きなところに出かけたり、カフェでお茶したり、家族と一緒に暮らしたりということを悩まずにやってみたいのです。しかし、そう簡単にはいきません。
同じトゥレット症の人たちの中には、周囲とのトラブルがトラウマとなって、電車やバスには乗れなかったり、就職先が見つからなかったり、住むところが見つからないという経験をしたことがある人も。大事な家族とひとつ屋根の下で生活することだって難しい人たちもいっぱいいます。
CBC
僕も正直、辛いです。体は痛いし、喉も枯れたまま。周りに『迷惑だ』と言われることもあるので、『辛い』と素直に口にするのも難しい。迷惑をかけている自覚もあるので申し訳ない気持ちもあります。それでも、電車に乗ってどこにでも気兼ねなく出かけ買い物をしたいし、旅行にだって行きたいし、カフェでパンケーキを食べてもみたい。好きな人と一緒にいたいし、生活だってしたい。そんなに特別なことでしょうか?
取材に応じる酒井さん
多くの仲間に支えられて病気の認知度はこのところ大幅に上がりました。最近では『外に出られるようになった』という当事者も増えています。嬉しいことです。しかし、まだまだ僕の目指す『穏やかな生活』を送るまでには至っていません。
電車に乗れば一駅ごとに避けられ、道を歩けば子どもに真似され、ファミレスではおじいさんに怒鳴られる。そんな日常が続いています。僕たち当事者は、真に社会の一部として認識されることを強く願っています。世の中に当たり前に存在する1人として加わりたいのです。
時折、『話してみれば普通の人だね』と言われることがあります。それ自体はとても嬉しいことで感謝しかないのですが、たまにこうも考えてしまいます。
話さなければ一生怖い人、変な人、おかしい人ですか?病気があること以外はなにも変わりはしないのに…。
これから先、僕たちトゥレット当事者が社会に受け入れられるためには今まで以上に外に出て多くの人と関わるべきで、大変なこともたくさんあると思います。しかし、その先には、電車で隣に人が座り、道行く子どもたちと笑顔で挨拶を交わしたり、きっと今よりも穏やかな生活がある。そう信じています。
この文章を読んで、少しでもトゥレット症やチックのことを知ってもらえたなら、これほど嬉しいことはありません。
大学時代 トゥレット症の啓発活動で表彰された経験も
街中で、声を出している人や、体が動いてる人がいたときに、(もしかしたらトゥレット症なのかな?)と考えてくれる人が1人でも増えてくれることを願っています。
最後に、僕にはもう1つ大きな夢があります。
猫を飼うことです。
僕は大の猫好きなのですが、猫は僕が突然出してしまう声や音を聞く度に敵だと思い、威嚇してきます。
猫を飼ってみたい、、、。
CBC
(2023年6月9日 酒井隆成)