いよいよ16日に解散表明? 岸田首相の動向にピリピリ。決断の重要な判断材料を探る政治部「総理番」の日常とは。長男・翔太郎氏らの「公邸忘年会」はなぜ記者にバレなかった?

「解散、あるかな」――。人が2、3人集まればもれなく解散の話題になる、ここ最近の永田町。議員、秘書、記者、官僚……全員の視線が、普段以上に岸田文雄首相に集まっている。その首相の動向を朝から晩まで一番近くでチェックしているのが、新聞・テレビの政治部に所属する「総理番」と呼ばれる記者たちだ。どんな人が、日々どんな風に首相の動向をチェックしているのか。「週刊文春」が報じた、首相の長男や親戚との「公邸忘年会」には、なぜ気づけなかったのか。知られざる総理番の日常とは。
「今の通常国会、会期末間近になって、いろんな動きがあることは見込まれます。よって、情勢をよく見極めたい」6月13日の記者会見で、そう答えた岸田首相のニヤリとした笑みに、永田町はこれまで以上に浮足立っている。自民関係者は「首相は解散の可能性を否定しませんでした。自民党の議員たちも、解散があるんじゃないかと思って、具体的なスケジュールを調整しています。天皇陛下の17日からのインドネシア訪問を前に、16日にも解散するのでは」と見立てる。
国会の様子(岸田首相facebookより)
つまるところ、国会会期末での衆院解散はあるのか、ないのか。その判断をする首相の行動を一番近くでチェックし、解散に向けた動きをキャッチするのが新聞・テレビ各社の「総理番」と呼ばれる記者たちだ。テレビで、首相が官邸エントランスで総理番の記者団の質問に答えている場面を見たことがある人も多いだろう。「解散があるかもしれないこの時期は、総理番もとくに入念に、首相の面会者をチェックします。首相の日程や面会者で、事前に記者団に公表されているものは、ごく一部。突然、自民党幹部と面会することもあり、そうしたときは解散に向けた布石ではないかと、取材にも熱が入ります」(全国紙政治部記者)
だが、そんな総理番も、首相の動向をすべて把握できるわけではない。「午後5時46分、公邸着。午後10時現在、公邸。来客なし」これは、「週刊文春」で、首相の長男・岸田翔太郎首相秘書官(当時)や親戚らとの忘年会が公邸で行われたと報じられた12月30日に、時事通信が配信した首相動静だ。各社の新聞にも、同様の首相動静が政治面に載っている。この首相動静を作っているのも、総理番だ。12月30日の忘年会には首相自身もパジャマ、裸足姿で顔を出し、記念写真も撮ったことがわかっている。ではなぜ、首相動静は「来客なし」となっているのだろうか。全国紙政治部記者が解説する。「年末は多くの政治家も地元に帰っている時期。12月30日の夜にわざわざ重要な来客があるとも思えず、総理番も少し油断していた節がありました。一部の会社の総理番しか公邸の出入りを見張っていなかったそうです。それでも、どこの社の総理番も気づかなかったのですから、親戚たちは『裏口』から出入りするなど、総理番の目をかいくぐるようにして、公邸に入ったのではないでしょうか」
岸田首相と長男・翔太郎首相秘書官(共同通信社)
首相には、誰と会っているか知られないためのさまざまな裏技があるのだという。「公邸には、記者が見張れるだけでもふたつの出入り口があります。ただ、正面玄関は、朝から夜まで記者がチェックすることができますが、裏口まで見張ることはほとんどありません。仮に見張って、公邸の敷地内に入る車を確認し『先ほど入った車は首相の面会者ですか』と首相秘書官に聞いても、『違います』『業者です』などと言われれば、本当に首相の面会者でなかったのか、確認のしようがありません」(前出の政治部記者)裏口からの出入り以外の可能性もあるという。「首相が外出中は、総理番も公邸を見張っていませんから、『公邸忘年会』の日も、首相が公邸に帰る前に親戚が公邸に入り、総理番が見張りを終える夜10時以降も親戚が帰っていなければ、総理番に気づかれずに忘年会をすることは可能です」(同)
ときには首相に秘密の行動をとられても、可能な限り首相の動向に目を光らせる総理番。そもそも、どんな人がなっているのか。「一日中、首相官邸やレストランといった首相の行先について行くなど、体力的にハードな仕事であること。さらに、日々首相の面会者をチェックすることで、政治スケジュールや政局など政治記者としての基本も学べることから、各社、20~30代の若手記者1人~数人を総理番にしているケースが多いです」(全国紙の総理番経験者)そんな若手の総理番には、さまざまな仕事がある。「官邸のエントランスで、1日何百人と来る訪問者に『首相に面会ですか』と尋ね、首相との面会者には、何時何分から何時何分まで首相と会ったか、同席者には誰がいたかを尋ねます。首相と面会した大臣や政治家、官僚を知ることで『このトピックについて詰めの協議をしているのでは』『この政治家とは距離が近いんだな』など、首相の頭の中を知るヒントになるのです」(同)
首相官邸
総理番がチェックする首相の行動は、官邸の中だけでなく、プライベートにも及ぶ。「たとえば、安倍首相(当時)は夏休みに河口湖近くの別荘で過ごしていたので、緑豊かな別荘の出入り口にキャンプ用の椅子を置いて、蚊に刺されながら朝から晩まで、首相に会いに来る人を確認していました。時の首相が美容院やジムに行くときも、近くで待機。ずっとそんな状況ですから、社を超えて総理番同士が仲良くなります。会社が違う総理番同士で結婚するケースも珍しくありません。すると周囲の記者が余興として新婚のふたりを取り上げた“結婚新聞”をつくることもよくあります。もちろん出回ることはなく、身内で楽しむだけのものですが」(同)衆院解散という伝家の宝刀を抜くか抜かないかは、首相の決断次第。総理番は今日も、首相の「ニヤリ」も含めて、一挙手一投足に目をこらしている。取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班