神奈川県に住む酒井隆成さん(23)は自分の意思に反して声や体の動きが出てしまう「トゥレット症」という病と闘っています。症状は重く、箸を上手く持てなかったり、自分の名前を書くのも一苦労。突然現れる大きな声や体の動きに、街では驚かれてしまうことも…。
大声が出たり突然体が動く #トゥレット症 の若者を採用した企…の画像はこちら >>
就活生の酒井さんは、大学時代に学んだ心理学を仕事にも活かそうと「医療」や「福祉」関連の企業を志望していました。
しかし面接中も体が動いたり、突然、大声を上げてしまう酒井さん。面接官には「静かにできないならウチで働くのはちょっと…」とやんわり断られてしまう日々が続き、取材中も内定を掴めずにいました。
CBC
相談のために訪れたハローワークでも、担当者がトゥレット症について知らず、どんな病気なのか“説明するところ”からのスタート。トゥレット症の認知が、行政側でも進んでいないことを痛感したといいます。そんな酒井さんは2022年12月、福祉関連のベンチャー企業の面接を受けることに。重度障害者の生活をサポートする会社で、社員の数は約10人。アットホームな雰囲気に惹かれたと言います。
当日、面接してくれたのは25歳の社長でした。
これまでの面接では、病気の説明に時間を取られてしまい、上手く自己PRができませんでしたが、この会社では病気について理解を示してくれた上で、自身の「人間性」の部分まで見てくれたと言います。
初めて感じた手応え。結果は…「内定」。ことし3月から正社員として働けることになりました。
実はこの時、面接を行った松野竜一社長(25)も、酒井さんに特別な思いを抱いていました。
松野社長が酒井さんを採用した経緯について綴った手記をCBCテレビに寄せてくれました。
僕は物心がついた頃から「吃音症」という障害に悩んでいます。話し始めの言葉に詰まったり、言葉がすらすら出てこない発達障害のひとつです。
自分の意思に反して勝手に声が出てしまう酒井くんとは「反対」の障害と言ってもいいかもしれません。
幼少期から母子家庭で育ち、親の都合で、3回の転校を経験しました。転校した先々で「吃音症」が原因で誇張して真似されたりと辛いイジメを受けておりました。
左が松野さん
学校の先生に真似されたこともあります。相談する相手もおらず、家に帰るのもしんどくて家を飛び出したこともあります。
就活でも苦戦を強いられました。
書類選考は通過するものの、面接では「吃音症だったら仕事にならない」と何十社も落とされてしまいました。
社会から否定された気持ちになり、どうする事もできませんでした。タウンワークや様々な求人票を片っ端から電話をかけたり、直接店舗に行って応募し続けたり…。もがき苦しみながらようやく福祉関連の企業の内定を貰えた時は本当に嬉しかったです。今は、「マツノケアグループ」という小さな会社を立ち上げました。
創立から半年ほど経った2022年12月。新宿で酒井くんを面接することになりました。
確かに、症状は重く、初めはびっくりしましたが、話してみると、すごくお話し好きの好青年で、人柄が良く、彼の魅力に惹かれた私は気づいたら2時間近くも話しこんでいました。
CBC
話を聞くと、他の企業では人間性を十分に見てくれず「体が動く」、ただその1点だけで選考を進むことができず、悩んでいることを打ち明けてくれました。「吃音」で就活に苦しんだ自分と酒井くんは重なるところがありました。
私は病気と闘いながらも常に前向きな彼の性格やコミュニケーション能力を評価し採用しました。
入社後には、パソコンを使ったイラスト作りも得意だということで、チラシ作りも担当してもらうことにしました。
声が出たり体が動いたりしてしまう以外は、他の人と何も変わりません。
CBC
今や主に広報担当の要として、会社に欠かせない存在となりました。最後に、「マツノケアグループ」の企業理念の1つを紹介します。
「全ての人がその人らしい生き方を実現できる社会」
私は酒井くんが、それを自ら実践し、世の中に提示してくれると信じています。障がいの有無に関係なく、活躍できる環境を整える会社が増えることを心から願っております。