「入管法改悪」につき岸田首相にメールで質問を試みたところ、質問自体が改ざんされて官邸報道室のウェブに公開されていた〈首相の聞く力はどこに?〉

6月9日に、2年前の廃案時とほぼ同じ内容で成立してしまった入管法改悪。強行採決翌週の首相会見(2023年6月13日)に参加したフリージャーナリストの犬飼淳氏が会見後に行った事後質問によって、岸田総理の見解が明らかになった。
2年前に国民の反対の声で廃案に追い込まれた内容とほぼ同じ中身で、岸田政権が今年再提出した入管法(出入国管理及び難民認定法)改正案。「難民の強制送還が容易になり、外国人差別に繋がってしまう」という法案の根幹は変わっていないため、深刻な外国人差別に直結し、日本の人権意識の更なる低下に繋がる恐れが高い。国会前の反対デモには5千人以上が参加するなど国民の反対の声はかつてない広がりを見せたが、6月8日に参議院で強行採決。立法事実は根底から崩れていたにもかかわらず、翌9日に成立してしまった。
入管難民法改正案に反対し、議員会館前から国会に向かって抗議する人たち(写真/共同通信社)
翌週の6月13日、岸田文雄総理は約3ヶ月ぶりに官邸で首相会見を開催。抽選に当たり参加が叶った筆者は、当然ながら国民の大きな関心事である入管法について質問するつもりだったが、残念ながら最後まで指名されなかった。質問を許された9名は入管法に一切触れなかったため、この国民的関心事に岸田総理は一言も言及しないまま会見終了。*当日の質疑の詳細は首相官邸ウェブサイト参照これで筆者は参加した首相会見で3回連続指名されなかったため、打ち切り時に「入管法について質問させていただけませんか?」と大声で呼びかけたものの、岸田総理は聞く耳を持たずに退出。「聞く力」とは対極の岸田総理の振る舞いは当日の映像でも確認できる。
*外部配信サイト等で動画を再生できない場合は筆者のYoutubeチャンネル「犬飼淳」で視聴可能こうした経緯を経て、筆者は1問限定のメールによる事後質問で、前回(今年2月24日) に続いて2回連続で入管法改悪について質問。強行採決直前に5千人以上が参加した国会前デモを踏まえて、総理の「聞く力」の実態を問い質した。本記事では、質問者である筆者自身が質問・回答の全文を紹介していく。*首相官邸ウェブサイトで公開される内容は、総理があたかも質問に回答したように見せるために質問を省略して公開されることが常で、質疑の正確なニュアンスが伝わらないため
まず、6月13日夜の会見終了直後に筆者が官邸報道室に送った事後質問は以下の通り。
入管法改悪について、質問します。強行採決直前の先週、国会前では5千人前後が参加する大規模な反対デモが複数回開かれ、今回の改悪で命の危険に晒される当事者たちが廃案を訴えました。そのデモの中継映像はインターネットで公開されて誰でも容易に観れますが、特技が「聞く力」であると公言されている総理はこうした反対デモの当事者たちのスピーチを1つでも聞いたのでしょうか?聞いたのであれば、どのような話を聞いて、何を感じたのでしょうか。聞いていないのであれば、なぜ聞かないのでしょうか。出典:筆者 事後質問(2023年6月13日)
質問の意図としては、岸田総理本人の基本的な振る舞いにあえて焦点を絞った。法的根拠が崩れたことを始め根本問題は他にも多々あったが、そうした法改正の正当性を問うても国会答弁同様のゼロ回答が返ってくることは目に見えているため。また、「入管法改正」ではなく、より実態に近い「入管法改悪」とあえて明記し、官邸報道室が質問内容をウェブサイトで公開する際、この表現を丸めてしまうのかどうかを確認する狙いもあった。
6日後(6月19日)、官邸報道室を通して岸田総理の回答が届く。
【犬飼淳氏(フリーランス)】入管法改正について○ 今般成立した、出入国管理及び難民認定法の改正法は、出入国在留管理制度を、外国人の人権を尊重しつつ、適正な出入国在留 管理を実現するバランスのとれた制度とし、日本人と外国人が互 いを尊重し、安全・安心に暮らせる共生社会の実現のための基盤 を整備しようとするものです。○ 今回の改正について様々な御意見があることは承知していま すが、入管法の改正内容及び重要性について、広く国民の皆様に 御理解をいただくべく、法務省・出入国在留管理庁において、引 き続き丁寧に説明していくことが重要であると考えています。出典:岸田総理回答(2023年6月19日)出典:官邸報道室から筆者にPDFファイルとして届いた岸田総理回答(2023年6月19日)の実物
実際に首相官邸ウェブサイトに掲載された筆者の質問
懸念した通り、筆者の質問は「入管法改正について」という極めて曖昧な9文字に省略。文字数の都合で省略したという言い訳も通用しないことはないが、少ない文字数であっても「入管法改悪反対デモのスピーチを聞いたか」(19字)のように質問の大意を伝えることは十分可能であり、質問内容を曖昧にするために大幅に省略したと判断せざるを得ない。さらに、筆者が質問文で意図的に用いた「入管法改悪」は「入管法改正」に変更。もはや「改ざん」と表現して差し支えないほどの省略と言える。回答の中身は、1段落目では国会答弁と同様に表向きの導入根拠を繰り返しただけ。2段落目では「丁寧に説明していく」というポーズのみ。要は、「反対デモの当事者のスピーチを聞いたのか」という筆者の素朴な質問に一言も答えていない。仮に岸田総理が聞いたのであれば「聞いた」と答えるはずなので、「聞いていない」が答えなのだろう。ところが、同日に首相官邸ウェブサイトで公開された質疑では、回答時と同様に筆者の質問は大幅に省略されたまま掲載され、あたかも岸田総理がそれなりに質問に回答したように見える。しかし、ここまで説明した通り、実態は全く異なるのだ。ちなみに、こうしたミスリードは同じく入管法改正について質問した前回(今年2月24日) 首相会見の事後質問でも発生している。*詳細は筆者かtheletter「犬飼淳のニュースレター」て公開した「【独自】入管法改正に正当性はあるのか。岸田総理の回答結果」(2023年3月6日)参照首相会見をめぐっては他にも問題(5類引き下げ後も人数制限だけは都合よく継続する、予定調和な質問をする内閣記者会ばかり指名される 等)があり、国民の知る権利は侵害され続けている。さらに、事後質問についても質問だけ都合よく省略することで、総理があたかも質問に回答したように装う小細工がまかり通っている。文/犬飼淳