服役後にもらえたはずの功労金1000万がパー。「賞揚等禁止命令」で“鉄砲玉”はただの捨て駒に? そこまで組に尽くしても「組織のトップの顔を見たことがある組員は1、2割」と暴力団関係者

警察に逮捕される前提で敵対組織を捨て身で攻撃する、いわゆる“鉄砲玉” 。あたかも使い捨てのように思われるが、出所後にいろいろと厚遇されるため、これによって報われる組員も少なくなかった。しかし、このたびその褒賞が一部の県で禁止に。さらに、そうまでして組に尽くしても、そのほとんどは組織のトップの顔さえ見たことがないという。裏社会の実情を暴力団関係者が語る。
カラダを張って抗争相手を攻撃する“鉄砲玉”――。組のために尽くすこの行動も、出所後に報われることが今やなくなった。特定抗争指定暴力団六代目山口組と神戸山口組の抗争をめぐり、兵庫、岡山、佐賀の公安委員会が6月27日までに、六代目山口組司忍組長らに対して「賞揚等禁止命令」を出したのだ。賞揚等禁止命令は、出所祝いや功労金、慰労金など名目のいかんを問わず、金品などの報償を組員に与えることを禁じる命令だ。財産上の利益だけでなく、地位を昇格することも禁止令に含まれている。兵庫県公安委員会と岡山県公安委員会は、六代目山口組司忍組長と傘下の暴力団組長ら4人に対し、佐賀県公安委員会は、六代目山口組司忍組長と傘下の暴力団組長ら3人に対し、この命令を出した。兵庫県では司忍組長に対してこの禁止令を出すのは昨年5月に続き2度目。佐賀県では2008年、九州誠道会、現浪川会の組長に対して出されて以来2例目となる。
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出所祝いを禁止されたのは、事件を起こして服役中の六代目山口組傘下組織の組員らだ。それぞれ銃刀法違反や建造物損壊の罪で実刑判決を受けている。兵庫県公安委員会が対象としたのは、2020年12月に倉敷市で神戸山口組系の組事務所に発砲して服役中の組員と、2022年8月に福岡県福津市の神戸山口組系の組事務所に車で突っ込み、服役している組員の2人。佐賀県公安委員会も福津市の事件で実刑判決を受けて服役中の組員2人、岡山県公安員会は2021年5月に倉敷市の神戸山口組系組長宅に発砲して服役中の組員と、2022年5月、岡山市の池田組関連施設に車で突っ込み建造物損壊の罪で服役している組員を対象にした。
刑期が短い組員で懲役3年だが、禁止令の期間は組員が出所してから5年。違反すれば命令を出した組長らに3年以下の懲役、もしくは250万以下の罰金が科されることになる。つまり、服役中の組員らにとっては、カラダの懸け損だったことになる。「今までは、抗争にからんで服役したら、組によって出所するときにはかなりまとまった額が出た」と話すのは、指定暴力団組織の関係者T氏だ。「組織のために実刑判決を受けて服役している者には各組が毎月、積立している金がある。金額は組や肩書、地位によって変わるだけでなく、事件によっても異なる」この「積立金」というのは功労金や慰労金のことだ。禁止令が出なければ服役中の組員らは、いったいどれぐらいもらえたのだろうか。「組によって異なるが、抗争と準抗争で金額が変わる。組員は抗争で月に30万円、準抗争で10~15万円が相場」とT氏。抗争とは六代目山口組と対立組織の争いを指し、準抗争は山口組傘下の各組と対立組織の争いのことだ。抗争にからんで懲役3年の実刑となれば、30万円×36ヶ月(3年)で1080万円になる。出所後にまとめて渡す組もあれば、差入れ金の形で毎月のように渡す組もあるという。だが、この金は確約されているわけではない。
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「組によってきっちり積立し面倒を見る組もあれば、そうでない組もある。所属している組が末端の弱小で、資金力がない場合はいくら積立できるかわからない。積立金は所属している組員が負担し、組員10人の組が毎月10万円を差し入れるなら、1人あたりの負担は1万円、それが何年も続く。負担は大きい」(T氏)。何百人と組員がいれば1人あたりの負担は微々たるものだが、新型コロナでシノギがなくなった組は、積立金どころか組が消える可能性すらある。
だが、直参の組長や幹部らとなると別格だ。抗争で服役すれば毎月の積立金は100万円を越えることもあるようだ。さらに、傘下組織が毎月、毎週、順番に拘置所に面会に行き「差入れ金」も渡される。「差入れ金の相場はおよそ20万円。それが毎月、毎週、積立金とは別に入ってくる。“義理”と呼ばれる金だ。拘置所では家族などと被らないよう、組織の者が週2回ほど決められた曜日に面会へ行く。山口組であれば80近い団体が、毎週2組は面会に訪れ、差入れ金を渡す」とT氏はいう。下部組織の組員が差し入れ金を受け取ったとしてもその額は高が知れているが、直参組長や幹部クラスは「1面会で20万×週2回×4週間」で、それだけで最低でも月160万円になる。そして、出所時には出所祝い金が贈られ、放免祝いの会が催される」(T氏)昨今は暴排条例などで警察の規制や監視が強化されており、放免祝いは激励会などに名前を変えて行われている。しかし今回、禁止令の対象となった組員らには、出所時の放免祝いどころか迎えすらないのではないだろうか。
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だが、それ以前に「組のため、親分のためと命を懸けても、その親分の顔を実際に見たことがない組員も少なくない」と関西に拠点を持つ暴力団関係者E氏は話す。「六代目山口組に稲川会、住吉会、暴力団はどこもピラミッド組織。そのなかで一番大きく堅牢なのが、六代目山口組のピラミッド。その頂点に君臨するのが司忍親分だが、山口組関係者の間では総理大臣より、その顔を見ることが難しいと噂もあるほどだ」E氏によると「『オレは山口組だ』と威張る組員の8割、いや9割近くは親分の顔を実際に見たことも声を聞いたこともなく、マスコミやネットの写真などで顔を見るだけだろう。アサヒ芸能や週刊実話の記者のほうが、よほど親分の顔を直接見たことがあると思う」と話す。
公安委員会が決定した事務所の使用制限前は、持ち回りで行われていた山口組総本部の当番があった。組員が六代目の顔を見ることができるのはこのときくらいだと言われるが、それも容易なことではないという。「せっかく当番で本部へ来ても六代目が乗った車にはスモークが貼ってある。乗り降りの際も直接見てはいけないことになっているから、六代目が建物から出て車に乗るまで全員後ろを向いていなければならない。だから本部に行っても六代目の顔を見られる機会は滅多にない。さらに傘下の下部組織は総本部へ行く機会すらないし、行っても中に入れない。ただし、弘道会の組員だけは別。六代目は自分たちの組の親分でもあるので、事務所に出入りしていればその姿を見ることもあるだろうし、世間話をしたことがある者もいるはずだ」(E氏)
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自分たちの親分を直接見てはいけないとは驚きだが、その決まりは「相当昔、山口組が分裂する前からそうだったはずだ」とE氏。「警察の監視があるので、行動や行き先は前もって知らされることはない。事前に日にちと場所がわかっていても六代目の顔を見られる機会は、恒例の餅つき大会ぐらいだ。幹部や直参以外は話し声を聞く程度だと思うが、間近で六代目を見ることができる唯一の機会かもしれない」(E氏)そんな親分や組のために、嫌とも言わず命を懸ける。「それがヤクザ稼業といえばそれまでだが、カラダを懸けた分だけ見返りが欲しいのが組員の本音だ」とE氏は代弁する。賞揚等禁止命令が出されたと聞き、服役中の組員らは、何を思うのか。取材・文/島田拓集英社オンライン編集部ニュース班