長野県中野市で警察官を含む男女4人が殺害された事件をめぐり、長野県警は7月7日、60代の女性を殺害した疑いで青木政憲容疑者(32)を再逮捕した。同容疑者は警察官2人を殺害した疑いですでに逮捕されており、これで3度目の逮捕となる――。
再逮捕容疑は、5月25日の夕方に青木政憲容疑者(32)の自宅近くを散歩コースにしていた村上幸枝(66)さんを待ち構えて、刃渡り約30cmの「ボウイナイフ」と呼ばれる刃物で刺し殺したとしている。同容疑者は県警の調べで、村上さんを含めた2人の女性を殺害した動機について「2人から『(ひとり)ぼっち』と言われたように聞こえ、恨みを爆発させた」と供述しているという。「ふたりは日頃からウォーキングの際に大きな声で話していたようだ。ふたりとも政憲容疑者の母親が自宅で開催していたフラワーアレンジメント教室に通っていたが、容疑者との接点はなく、笑い声が聞こえたと勝手に勘違いした可能性が高い」(社会部記者)事件当時、集英社オンラインは、青木容疑者一家について徹底取材した。親族、同級生、近隣住民から話を聞いていくうちに、同容疑者の両親は、これまで強い愛情を持って息子を育てあげてきた。当時の証言の一部を抜粋する――。
青木家(撮影/集英社オンライン)
青木家は13代続く農家で、父親の正道氏は中野市議会議長も務めた地元の名士として知られる。一方、母親のA子さんも地元では有名人で、フラワーアレンジメントやフルーツカッティングの講師として、長年にわたり講演活動なども行なってきた。そんな両親のもとに3人兄妹の長男として生まれたのが政憲容疑者だ。青木家の分家の男性も、幼いころの政憲容疑者については「ひょうきんな性格で友だちともよく遊んでいた」と語る。「ウチの子供とも会ったらよく遊んでいましたし、昔は毎年お年玉をあげていましたが、今みたいに人と喋れないということもなく『ありがとうございます』とお礼を言う子でした。お父さんもお母さんも厳しく育てているというよりは、政憲にとても優しく声をかけ、接していた印象です。もちろん叱るときは叱っていたと思いますが、それでもあの2人なら優しく諭している感じだとは思います」小、中学校では野球に打ち込み、キャッチャーとして活躍した政憲容疑者。野球部で一緒だった同級生が当時を振り返る。
野球部だった政憲容疑者(知人提供)
「僕たちの代は学年120人ぐらいのうち野球部員が16、7人ほどいて、一番人気の部活でしたが、その中でも政憲はキャッチャーのレギュラーとして活躍してました。小学生の頃から地元の少年野球チームに入っていた子が野球部に集まるんですけど、その中でもキャッチャー経験者が政憲ぐらいしかいなかったのもあって、レギュラーが取れたんですよ。特別バッティングが上手いとか、肩が強いとかいうわけじゃなかったんですけどね。性格はちょっとクセがあるというか、独特な世界観を持ってる子でしたね。自分から話しかけるわけではないけど、こっちが話しかけたら、普通の返しじゃなくて、ちょっとひねった返しをしてくれるというか…。別にまったく嫌味なヤツではなくて、くだらない話でもうんうんと頷いて聞いてくれたり、たまにボソッと面白い答えを返してくれるんです。そんな独特なキャラクターがウケて、野球部ではけっこう愛されていたし、クラスの輪の中でも中心というわけではないけど、ふつうに友達は多かったと思います」
成績もよく、公立の進学校である須坂高校に進み、山岳部に所属した。このころから政憲容疑者はどんどん内向的になっていったという。親戚筋の男性はこう証言する。「政憲は農業が好きで、地元の高校を卒業した後は東京の私立大学で農業を学んでいたんだけど、人間関係に悩んで中退して帰ってきたんだよね。むこうで精神を病んだというウワサもあったな。こっちに戻ってきても人付き合いが悪いのは相変わらずで、消防団や祭りの寄り合いなどには一切顔を出さないし、友達と外食したり飲みに行ったりというのも聞いたことがない」
射撃場に通っていた政憲容疑者(知人提供)
両親に大切に育てられてきた本家の跡取り息子は、実家を離れて東京の大学に進んだが、一皮剥けることなく舞い戻ってきた。そこで、見かねた正道氏は息子に農家をやらせようと、母は「マサノリ園」と名付けた果樹園やジェラート店を切り盛りした。当時、政憲容疑者は母親が経営するジェラート店の店長でもあったが、そこでは母親A子さんの過保護ぶりが目立ったという。
卒業文集に書かれた政憲容疑者の将来の夢(知人提供)
「A子さんはやり手で、政憲のことを溺愛していた。そもそもジェラート屋を始めたのも、ブドウ栽培をはじめた息子を助けるため。店長というのも名ばかりで、A子さんが接客しているのを横目に、ボーっと突っ立てるだけだったし。政憲は根っから大人しいけど、悪くいえば一般常識に欠けているとこがあったわな。お客さんがきてもロクに挨拶もできねえんだ」(同)周囲からは家族の深い愛情によって育てられたように見られていた政憲容疑者だったが、人知れず深い孤独を抱えていたのかもしれない。農業好きの、大人しい青年は、やがて日本中を震撼させる事件を起こした――。
現場で倒れたままで救助が遅れ、最後に死亡が確認された竹内靖子(70)さんの息子は、当時の取材で、こう声を振り絞るのが精一杯だった。「今朝方、警察から電話がかかってきて『確認してほしいことがある』と言われました。それで、確認に行くと遺体安置所で母の遺体を見せられました……。今混乱していまして、ちょっと話ができないのですが……青木市議についてはもちろん知っています。母は散歩だったようですが警察の方も亡くなってしまっていて…ご迷惑をかけてしまってというか…悔しい思いではあるのですが、混乱していて今は話ができません」
送検された際の政憲容疑者(共同通信)
◆7月9日、青木家の近所に住む60代・女性は、今回の再逮捕についてこう話した。「あの事件から1カ月が経ち、ようやく町内も落ち着きを取り戻してはいますが、それでもショックが消えることはありません。近所の方とも、あの事件のことを触れるのはタブーというか、世間話すること自体減りました。青木さん一家も見かけることはなくなりましたし、夜も窓が真っ暗なので、たぶん今は住んでいないと思います。ジェラート屋も閉まったままですし、どこかに引っ越したんじゃないでしょうか」
※「集英社オンライン」では、今回の事件について取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected]@shuon_news
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班