「高齢者は無理して眠らなくても良い」睡眠の権威が高齢者の理想の睡眠を語る

「若いころのようにうまく眠れない」睡眠不安を抱く高齢者はどのようにして睡眠と付き合っていくべきか。グーグルやフェイスブックの創業者らが立ち上げた世界的な学術賞である「ブレイクスルー賞」を受賞した睡眠の権威に、高齢者にとっての理想の睡眠について伺いました。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の柳沢先生が語る「睡眠論」。
みんなの介護ニュース編集部(以下、――)国際的な学術賞である「ブレイクスルー賞」を2022年に受賞された、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の柳沢先生に高齢者の睡眠をテーマにお話を伺います。
「眠りたいのに眠れない」といった睡眠不安を高齢者の方が抱いてしまう原因をどのようにお考えでしょうか。
柳沢 睡眠の変化を受けいれることが重要です。
まずはこちらの図をご覧ください。「健康」な若者と高齢者の睡眠のパターンです。

出典:厚生労働省e-ヘルスネット
眠りに入ると、「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」(※)をセットにした「睡眠サイクル」が始まります。1サイクルはおおよそ90分。睡眠中に4~6回程度繰り返されます。
ノンレム睡眠は3段階に分けられており、上図の青い部分が“深い睡眠”(最もゆるやかに脳波が波打つ状態)です。
簡単に言えば、夜の前半は深いノンレム睡眠が多い。夜の後半はノンレム睡眠が浅くなり時間も減って、レム睡眠がその分増えます。
※睡眠中の急速眼球運動(Rapid Eye Movement)を特徴とする。頭文字を取ってREM(レム)睡眠という。感情を司る「扁桃体」や視覚イメージを作り出す「視覚連合野」などが活発に活動しているため、喜怒哀楽を伴う夢を見ることが多い
―― 若者と高齢者の睡眠とでは、異なる点のほうが多いですね。
柳沢 高齢者の方はたいてい「早寝早起き」です。また「深い睡眠」だけでなく、レム睡眠の量も減っています。全体的にガタガタとしていて、中途覚醒が増えます。
脳の加齢現象として睡眠が変化するので、これは「健常な加齢」の結果です。ですから、この健常な加齢現象を素直に受け入れている方は、睡眠不安を持たないのです。
―― 「考えすぎ」だということなのでしょうか。
柳沢 そうです。例えば「8時間眠らなきゃいけない」と思い込んでいる高齢者がたくさんいらっしゃいます。そのために、起きる時間を逆算して早い時間帯から「もう寝なきゃ」と寝床に移動する方もたくさんいるのです。
上図の高齢者の場合は22時に寝て翌6時に起きていますが、中途覚醒もしているので実質的な睡眠量はそれほど多いとは言えません。
中途覚醒が増えることで、高齢者の実質的な睡眠量が減っていきます。一方、「床上時間(time on bed)」は必ずしも減らないのです。
―― ベッドにいる時間ですね。寝られずに“悶々”とするような時間でもあるのではないでしょうか。
柳沢 そう。ベッドにいた時間の内、客観的にどれだけ眠っているかを「睡眠効率」と言いますが、高齢になるとどうしても睡眠効率が下がります。
床上時間はそれほど変わらないけれども、客観的睡眠量は減っていきます。そういうことを受け入れて、「もう年寄りなんだからそんなに眠らなくたって大丈夫」と思っている方は睡眠不安を持ちません。

―― 寝付けないことで、さらに眠れなくなるケースもありそうですね。
柳沢 途中で起きてしまうのが当たり前なんですよ。私も63歳になりますが、何度か起きます。「それが当たり前だ」と思っていれば、不安になりません。
―― 不安を抱える方の多くが、若い頃の「睡眠」と比較してしまうのではないでしょうか。
柳沢 その通りです。日本人は特にそうですが、働き世代はとにかく睡眠不足。世界で一番寝不足なのです。
ひとたび寝れば設定した起床時間まで、1回も起きずに「ガー」っと寝るのが働き世代にとっては当たり前なわけです。若者はそういうふうに「できている」ので。高齢者になると、そのような時期の睡眠状況と比べてしまうんです。
働いていた頃と比べてリタイア後は時間が自由に使えるので、裏をかえせば床上時間を取ろうと思えばいくらでも取れるわけです。
要は、必要以上に長い床上時間を取ってしまって、実質的に眠れている時間が非常に少なく、「全然眠れない」「途中で起きちゃう」といった訴えになるわけです。
―― 個々で睡眠パターンは違うと思いますが、睡眠状況を改善することは可能なのでしょうか。
柳沢 簡単ですよ。眠くなるまでベッドに行かない。床上時間を短くする。これだけです。
「自分はもう高齢者なんだから、7時間も寝られれば御の字、6時間でもいい」と思っていればいいんです。
例えば朝6時に起きるとしたら、23時まではベッドに行かない。開き直ってそういう生活をすれば、睡眠も良くなるし不安もなくなります。
高齢者の多くの方が21時ぐらいになって「もう寝ないといけない。これ以上起きていたら『健康に悪い』」と信じているのではないでしょうか。……それは根拠がないんです。そんなに早く寝る必要はありません。
―― 確かに睡眠の俗説が蔓延っています。
柳沢 よくあるパターンとして、寝られないのに21時になったらベッドに向かうような悪しき習慣です。寝られないですよね。ベッドで“悶々”として。すると心理学的な条件付けが起こります。
―― 「パブロフの犬」ですね。
柳沢 そう、自分のベッドが「寝られない場所」になってしまう。そうすると余計に寝られなくなります。ベッドに入った途端に目が覚めるようになってしまいます。
―― そのような高齢者の方へのアドバイスとしては、ご家族の方が率先すべきなのでしょうか。
柳沢 そうすべきです。「そんなに早く寝ないでもいいよ」と、言ってあげればいいんです。
「6時間寝られれば御の字だから」と。“たくさん”寝ないと、不健康だと思い込んでいる高齢者がたくさんいらっしゃいますから。寝られないことに安心してもらうことです。

―― 「老人ホーム」の生活環境においてもお伺いしたいです。多くの「老人ホーム」では、起床時間や消灯時間を設けています。例えば消灯時間を各々の自由にすると、どのようなことが起こると考えられますか。
柳沢 危険を秘めていると感じますね。先ほども申し上げましたが「早く寝すぎる」方が出てきてしまいます。例えば、22時に寝れば5時ぐらいに目が覚めます。それで自分なりに生活を始められるのであれば何の問題もありませんが、「早く起きすぎた。どうしよう」となってしまう可能性があります。そのようなことが続くと、睡眠不安につながるわけです。
床上時間が長くなり過ぎないように、「〇時までは寝ない方がいい」という指導を各施設で可能な範囲でした方がいいとは思います。
―― 「食」に比べて、睡眠指導はそれほど浸透していない印象です。
柳沢 浸透していないでしょうね。もちろん施設や職員の方々の都合があるので一概には言えませんが、夕食が早まることで、どうしてもその後にやることがなくなってしまうというケースがあり得ると思います。ですから、夕食時間は早くない方が理想ですね。
―― 続いて認知症について伺います。認知症と睡眠の関係について判明していることを教えてください。
柳沢 もう研究者の間ではほぼ常識となりましたが、睡眠障害は認知症のリスクを高めます。ある調査を紹介させていただきます。
65歳の1000人を対象に「十分に眠れていますか」という質問と「日中ずっと起きていますか。日中起きていることが困難ですか」という質問をしました。
つまり、昼寝をしないといられないかどうか。その問いに両方とも「all over the time」とか「none of the time」、要するに「いつも駄目です」と答えている方の3割か4割ぐらいが4、5年で認知症の症状が見られるようになりました。
「大丈夫」と答えた方と比べたら、3倍~4倍のリスクがあることがわかりました。
―― 原因の解明はされているのでしょうか。
柳沢 具体的なメカニズムは分かっていません。ただ、睡眠中になんらかの「脳のリペア」というのか、メンテナンスが起きています。認知症の原因となる「アミロイドβ」などの物質が睡眠中に洗い出されているという説もありますが、、確証には至っていません。「まだよく分からない」というのが現状です。
―― 「突破口」となりえる研究はありますか。
柳沢 レム睡眠が最近注目されています。これまではノンレム睡眠が最も重要だと考えられていました。ですが、最近出てきた論文で「12年間の調査で全睡眠に対するレム睡眠のパーセンテージが1パーセント減るごとに、その12年間の認知症発症リスクが9パーセントも上がる」という研究結果もありました。
―― こちらも原因は分からないような状況なのでしょうか。
柳沢 よく分からない状況ではありながらも、死亡率も増えていることが分かっています。レム睡眠が減るごとに、総死亡率も上昇している。
メカニズムはまだ分からないことが多いのですが、私たちIIISの林 悠さんのラボでいろいろなことが研究されています。例えば、マウスでレム睡眠を人為的に増やすとアミロイドβの濃度が減ることや、アルツハイマー病のモデルマウスの認知機能がレム睡眠量と相関しているといった興味深い所見が出てきています。

―― レム睡眠を人為的に増やすことは可能なのでしょうか。
柳沢 マウスの遺伝子操作をしてレム睡眠を人為的に増やしている段階です。実は、こちらも最近出てきた論文で、人間のレム睡眠を増やす方法が言及されています。
「オレキシン拮抗薬」という私達が発見したオレキシンの機能を抑える不眠症治療薬には、レム睡眠を増加させるという性質があるのです。
さらにごく最近出てきた論文で、「スボレキサント」というオレキシン拮抗薬を飲んだ被験者において、その晩のアルツハイマー病の原因物質の濃度が下がるという所見が得られています。しかし、これは一日だけの急性実験なのでまだまだ慎重に考えるべきです。しかも40人程度の規模の実験なので、今後もっと大規模かつ長期的な試験に期待したいです。
一方、従来の睡眠薬、いわゆるGABA-A作用薬という薬ですが、アルツハイマー病の患者さんの認知機能を低下させてしまうという研究結果があります。「ベンゾジアゼピン」という従来のGABA-A作用薬を飲んだことのある方は、認知症になるリスクが3倍ぐらいに上昇するというデータも出ています。
もちろん因果関係は分かりません。「ベンゾジアゼピン」を飲む必要性のあった患者さんは、認知症のリスクがそもそも高いのかもしれない。飲んでいることは結果に過ぎない可能性もあるので、因果関係は断定できませんが、このようなデータがあることは事実です。

―― 続いて介護者についてもお伺いしたいです。介護による心理的なストレスは睡眠にどのような影響を与えますか。
柳沢 日中のストレスや心配は、不眠症の最大の原因の一つです。介護に限らず、日中に強いストレスがあったり心配事があったりすると、眠れなくなるのは当たり前です。
ただ、「数日間よく眠れませんでした」という程度では病気ではなく、正常なリアクションです。ですが、ストレスが慢性的に加わっていると、もしかしたら人によっては不眠症になる可能性もある。
それから何よりも介護が大変で睡眠時間そのものが削られてしまうことが問題です。寝る時間がなかったり、夜中に何度も起きなければならなかったりする状況です。
―― 睡眠障害を感じた場合、どのような段階で専門家に相談すればいいのでしょうか。
柳沢 個々人で違うので難しいですが、やはり慢性的な睡眠不足の状態が続いている状況は危険です。介護者が「昼間眠い」「昼間の調子が悪い」というレベルになってきたら、一度は睡眠専門医に相談したほうがよいと思います。
それから不眠も一緒です。夜、眠ろうとしても眠れない。睡眠時間を確保しようとしているが、なかなか眠れないという状態となり、そのせいで昼間の調子が悪いという状態が数か月以上も続いているようなら一度、相談した方がいい。
―― 睡眠で悩まれたら、まず病院の何科に相談すればいいのでしょうか。
柳沢 睡眠クリニックにかかることはひとつの手です。そうでなければ内科や神経精神科でもいいと思います。アメリカやヨーロッパには睡眠科がありますが、日本にはありません。日本では睡眠医療が診療科として認められてすらいませんよね。
―― なぜないのでしょうか。
柳沢 「睡眠学会に力がなさすぎた」ということもありますが、医療行政もそこに目を向けてなかったということでもあります。
例えば「国際疾病分類」(ICD)(※)では、睡眠疾患という一つの独立したカテゴリが、2022年の改訂によってできました。それまでは「精神疾患」とか「神経疾患」に分類されていたものが「睡眠疾患」として独立したんです。
※WHOが作成する国際基準による死因や疾病の分類
―― 「独立」とはどのようなことでしょうか。
柳沢 厚労省の部局は、「国際疾病分類」に準拠してできているわけです。例えば呼吸器の病気の部局といったように。今までは神経精神が睡眠も担当していました。ところが「睡眠」が独立したものだから、対応する部局が浮いてしまったのです。それで今、厚生労働省が大慌ての状況です。
そういう状況からも分かるように、日本の睡眠分野は民も官もすごく遅れています。だからこそこれから急速に変わっていってほしいと思いつつも、標榜科として存在していない。
私たちIIISはあくまでも基礎研究の機関で、診療などに携わっておりませんが、睡眠専門医にご相談いただくように奨めています。
―― 専門医に相談するのではなく、「どこかのタイミングでたっぷり寝られる日があればいい」と考える方も少なくない印象です。
柳沢 介護の場合は土日に十分な睡眠をとることもできませんよね、毎日ですから、そこも問題だと感じます。基本的には介護に休日はありません。
うまくワンデイケアなどを利用するなどして、介護者の方にも適切なインターバルを取らないと、場合によっては危険です。
それからもう一つ、私の立場からアドバイスできることは、被介護者の昼夜の行動習慣のメリハリを浅くしてはいけないということです。極端に言えば被介護者の「昼寝禁止」です。
起きていられる方だったら昼間は「寝させない」。昼寝をすると夜に眠れなくなるのは当たり前で、昼寝をすることによって睡眠要求がそこで減弱してしまいます。無理矢理に夜に寝ても途中で起きたり、早朝に起きたりしてしまう。
―― 「寝てくれるとありがたい」というケースもあるのかもしれません。
柳沢 寝ないで済む方でしたら、昼間はずっと起きていた方がいい。しかも、眠くならないようにアクティブな方だったら体を動かすことも重要です。動けなくても精神的にアクティブな状態を保つことが理想です。
心理的に、ないしは身体的にもできるだけその人のできる範囲でアクティブな昼間を送っていれば、夜もよく眠れるので結果的に介護の負担が軽減されます。
―― デイサービスなどの利用も理想ですが、「参加したくない」「面倒臭い」と言って家に閉じこもってしまい、昼夜逆転してしまう方もいるのかもしれません。
柳沢 そのケースは最悪です。昼夜のメリハリが浅くなること自体が認知症などの悪化の原因となります。興味を持っていただけることを見つけて、昼間は心身ともにアクティブに生活をすること。これがすごく大事ですね。
―― 「翌日」にたのしみを作ることも重要なのではないでしょうか。個人的にも楽しい予定がある休日の目覚めは気持ちがいいので。
柳沢 それは良いことですし、朝起きる時間を予め思い描いていた方がすっきり起きられるという論文もあります。「明日の朝を楽しみに」「明日という日を楽しみにして寝る」。これも大事なことです。

―― 「同じような毎日」が繰り返される状態になってしまうのは危険ですね。
柳沢 日中がつまらなくなることは非常に危険です。ですから、「明日も楽しみ」だと思えるようなことが見つかれば、その人はもうそれだけで健康になるのではないでしょうか。
―― 先生、人間はなぜ夢を見るのでしょうか。
柳沢 「なぜ夢を見るのか」という質問は厳密には科学的ではありませんが、ひとつ言えることは、「今現在その人がレム睡眠中で何を見ているのか」ということは既に解き明かされつつあります。読めるようになっています。
―― 読めるとはどのようなことでしょうか?
柳沢 機能的MRIという脳イメージングの手法があります。MRI装置の中でいわゆる、脳機能をイメージングするやり方で、レム睡眠中の大脳視覚野の機能パターンを見ることで、夢の内容が分かります。
「読めますよ」という論文がもう何年も前に京都大学から出ています。今では、機能的MRIまでやらなくても例えば脳波で同じようなことができないかといった研究もされています。
ただし、実際には夢って覚えていませんよね。覚えていたとしても一晩のうちにひとつ覚えていればいいほうです。
―― 断片的に覚えていることが大半です。
柳沢先生 夢の機能、あるいは何のために夢があるのかという話にもいろいろな学説があります。夢ってストレスフルなタイプが多いんです、そもそも。覚えている夢は特に。それは要するに、日中に起こり得るストレスフルなシチュエーションを予行演習しているという学説があります。レム睡眠で夢を見ることでストレス耐性が形成されているというエビデンスもあるんですよ。
ですから、悪夢を見るっていうのは必ずしも悪いことじゃないと思った方がいいと思います。

―― 高齢者の方がよりよい睡眠をとれるようになる方法はありますか。例えば毎日睡眠の時間を記録するといったようなことはいかがでしょうか。
柳沢 睡眠日誌をつけて、睡眠を可視化することは意味があります、睡眠日誌は標準的なものがありますので、それをつけることは良いと思います。
ご存知かもしれないですが、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の栗山先生が出した論文がマスコミでも注目されています。
―― どのような論文なのでしょうか。
柳沢 まず働き世代に関しては、「睡眠の短い人ほど健康に悪影響を与える」という内容です。特に睡眠の質を示す指標である「睡眠休養感」がなく、つまりよく休めた感じがしなくて、かつ睡眠時間が短い人、働き世代ではそのような人が危険です。
ところが興味深いことに、高齢者――つまりリタイア世代以降――は、さっきも言ったように自分の時間が自由になるので、もはや睡眠そのものの長短はそれほど問題になりません。高齢者では床上時間が長い方ほど危険なのです。
高齢者に限っていうと、床上時間が長い方ほど死亡率が高く、最も危険なのが床上時間が長くて、かつ睡眠休息感がない方。冒頭にお伝えしたパターンですよね。
おそらくメリハリがなくて“だらだら”とベッドの上にいて、だけどなんかよく眠れた気がしない。そういう方ほど死亡率が高い。
―― 加齢による睡眠の変化を受け入れることの重要性が改めて理解できました。現時点で先生が考える「睡眠の謎」について教えていただけますか。
柳沢 睡眠学の基礎研究に関しては大きな謎が二つあります。 一つは「なぜ寝なければいけないのか」という睡眠の機能。すべての動物が眠るわけですが、それがなぜなのか。明らかにリスキーな行動なのに、すべての動物がどうして睡眠をとるのか……それがまず謎。
なぜ、意識を失ってまで睡眠をとるのか。恐らく脳のメンテナンスをやっていると思うのですが。睡眠は決して脳の休息時間ではないので、なにかしらオフラインのメンテナンスをやっているわけです。具体的には何をやっているのかがよく分かりません。
―― 二つめはどのようなことでしょうか。
柳沢 睡眠の制御ないしは調節の謎です。つまり人間の場合、1日7時間前後眠るようにできているわけです。それが足りていないと、そのような状況で眠ればたくさん眠るわけでしょう。足りていれば、それ以上は眠れないわけです。
要するに、フィードバックがかかっているんですよ、「睡眠不足になると眠くなる」と。
だから、基本的に起きている間に何か睡眠要求がたまっていって、その睡眠要求は眠らなきゃ絶対に解消できない。その睡眠要求とは何か、と。
―― 先生はどのように考えていますか。
柳沢 「ししおどし」のようにに水がたまっていく、と私は表現しています。
―― ありがとうございました。さいごに、介護という言葉に対する先生のイメージを教えていただけませんか。
柳沢 イメージですか……難しいですね。日本は家族が介護する割合がすごく高いように感じています。それが、良いことなのか悪いことなのか難しいところですが。
―― 「家でみる」ことが美徳とされている風潮が未だにあります。
柳沢 そうですね。ただ、それは睡眠も同じなのではないでしょうか。「寝る間も惜しんで働くこと」が美徳とされていましたが、急速に変わりつつありますよね。
介護に対するイメージも少しずつ変わってくるのではないでしょうか。

撮影:宮本信義