マイナビ、「Global Innovators Pitch」を開催 ― 日本企業とグローバルスタートアップの架け橋に

日本企業にとって「グローバル化」が喫緊の課題となっている社会背景のもと、マイナビは、人材不足や海外進出に課題を持つ日本企業とグローバルスタートアップを結びつけるイベント「Global Innovators Pitch」を、7月6日に開催した。

人口構造の変化、世界の経済力シフト、テクノロジーの進歩、急速な都市化の進行、気候変動と資源不足などの大きな変化にさらされている現代社会。特に、日本においては、少子高齢化に伴い生産年齢人口が、2040年までに20%減少すると推計されている。また、GDPも2050年には世界8位まで低下することが予測されているという状況となっている。

そういった社会背景のもと、マイナビの初の試みとして開催された「Global Innovators Pitch」には、フィリピン、ベトナム、台湾、インド、ポーランドの起業家が登壇し、自社の技術やサービスをプレゼンした。
○■イベント開催への想い

オープニングスピーチには、マイナビ 取締役 常務執行役員の吉田和正氏が登壇。イベント開催の背景や同社の役割などを紹介した。インテル日本法人の社長を務めたほか、多くの日系企業、米系企業の社外取締役として、経営に参画してきた経歴を持つ吉田氏は、今年8月で50周年を迎える同社の歴史を振り返りつつ、人材サービス、情報サービスを通して、「マイナビは未来を応援する企業」と紹介。

その上で、国内だけでなく、海外にも目を向ける必要性から、「海外へのチャレンジは、時間が掛かるかもしれませんが、目指さないと実現しません」と熱弁し、今回のイベント開催に至った想いを語った。

続いて登壇した、日本貿易振興機構(JETRO) イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課/課長代理の澤田佳代子氏は、以前、シンガポールにおいて、日本企業と海外のスタートアップを繋ぐ仕事をしていた経験から、「イノベーション界隈における日本の存在感のなさ」を指摘する。実際、日本における2022年のスタートアップによる資金調達は、過去最高の8,774億円を記録しているが、同年のアメリカは約30兆円、東南アジアでも約1.4兆円となっており、この差が将来のビジネス環境、ビジネス規模の差になるのではないかと危惧。

「エンジニアだけでなく、スタートアップの経営を担う人材も、まだまだ日本には不足している」と分析し、今回のイベントが、日本企業の海外展開へのきっかけになればと期待感を募らせた。

○■AIの登場がTech業界に及ぼす影響とは

キーノートスピーチには、Liquid One OfficeのKei Shimada氏とHYPER CUBEの小塩篤史氏が登壇。「ChatGPT」などのAIの登場がTech業界に及ぼす影響などが、両氏ならではの視点で解説された。

アメリカ生まれの起業家で、松下電器産業、日本ルーセント・テクノロジー、モバイルスタートアップ、起業、電通、IBM、R/GAなど、多くの企業を渡り歩き、「今は、新しい働き方を自分で追求している」というKei Shimada氏。現在、自身の経験とナレッジを活かして、顧問業やスタートアップのアドバイザーなどに従事しているという。

「IN OUR FUTURE」と題した今回のスピーチにおいて、まず“ARE YOU SCARED OF TECHNOLOGY? (みなさん、テクノロジーは怖いですか?)”と語りかけた。テクノロジーやAIの現状を紹介。テクノロジーは理解できないと、ものすごく怖いものだと考える傾向にあるが、そこから逃げられないのは紛れもない事実であると指摘し、「これをどう活かしていくかが、僕らの大きなカギになってくる」と続ける。

今後、さまざまな業務が、AIやロボットに置き換えられていく現状において、これから求められるスキルセットを紹介。今持っているスキルが、5年後、10年後には通用しなくなるかもしれないという現状を突きつけつつ、自身に技術のバックグラウンドがないにも関わらず、テクノロジー業界に身を置き続ける経験を踏まえて、リスキル・アップスキルの重要性を説き、「新しく生まれる仕事のほうが、淘汰される仕事よりも多いのが歴史的なトレンド。ただし、それに対応できるスキルセットがないとこの波には乗れない」と警鐘を鳴らす。

2100年までに、5,000万人の人口が減ると言われる日本においては、自分にあった仕事に就くことが非常に重要だという。「唯一生き残るのは、最も変化に適応できる種のみ」とダーウィンの言葉を引用しつつ、将来を見据えて、自身が興味を持つ分野として「ALTERNATIVE FOOD SOURCES」「SUSTAINABLE ENERGY」「SLEEP」「TRANSPORTATION」「ENTERTAINMENT」の5つを紹介し、スピーチを締めくくった。

続いて、東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 特任准教授、麗澤大学 EdTech研究センター センター長/教授としても活躍する小塩篤史氏が登壇。「ポストChatGPT時代のHR Tech」をテーマに、ChatGPTが当たり前となった世界における、HRの世界に、AIがどのようなインパクトを与えるかについてのスピーチが行われた。

AIの研究者かつ実践者であり、教育者としての顔を持ち、どんなものが社会に役立つか、それを使って活躍してくれる人をどうやって育成するかを日々考えているという小塩篤史氏。「やさしい知性」という表現を使い、これまでの優秀さとは違うタイプの優秀さ、違うタイプの人材を育てていきたいという自身の考えを明かした。

今後求められるスキルがAIやMLと言われても、まったく安心していないという小塩氏は、「AI/MLの領域自体も、AI/MLに置き換えられる」との予測を示しつつも、これからのイノベーションには、AIはほぼほぼ不可欠であると断言。特にChatGPTの登場が、AIを使うことへのハードルを下げたことも大きな要因となっており、自然言語で利用できる対話型AIによりAIはさらに民主化され、誰でも革新的なサービス開発が可能になる未来を想像する。

文章の作成だけでなく、プログラミングも可能なChatGPTの登場により、特に影響を受けるのは、ライター、プログラマー、コンサルタント、リサーチャーといった、文章を書いたり、調べ物をするような職業であり、仕事のやり方が変わってくるのに加え、今後はAIとどのようにコミュニケーションしていくのかが重要になるという。たとえばマニュアルを作成させる場合、シンプルな指示でもそれなりのものが作成されるが、細かな条件や指示を加えることによって、より精度の高いものを生み出すことができる。これは、人間の新人に教えるのと同じであると指摘する。

さらに、情報の人称性についても言及し、自分の内面や個人的な経験を「一人称」、共感的な体験や知人から得た情報を「二人称」、第三者的体験や客観的情報を「三人称」とした場合、どんどん新しい情報を集め、それをまとめるのが得意なAIには「三人称」では絶対に勝てないという事実を提示。だからこそ、「自分自身のことを理解するとか、相手の気持ちをわかるといった、一人称や二人称が今後求められてくる」とし、「機械学習やAIが作るものは、基本的に三人称の過去。過去のデータから積み上げられているものであり、我々人間は、自分がどうなりたいのかといった、一人称の未来の視点を持つ必要があるのではないか」と将来を展望した。
○■グローバル企業が日本のピッチイベントに初登壇!

そして、今回のイベントのメインとも言える「グローバルスタートアップピッチ」パートには、フィリピン、ベトナム、台湾、インド、ポーランドの起業家が登壇した。
PENBROTHERS
最短30日で専用のオペレーションチームを構築し、日本企業の海外進出やコスト削減をサポートするというフィリピンのPENBROTHERSからは、Co-FounderのGuilherme Faria氏が登壇。Guilherme Faria氏は、PENBROTHERSやLuxclusifのCo-Founderとして事業をゼロから立ち上げる重要な役割を果たし、特にLuxclusifは、2021年にFarfetchに買収され、大きなマイルストーンとなった。

PENBROTHERS創業のきっかけは、フィリピンにスタートアップ用のエージェンシーがなかったことが大きな理由となっており、現在では1,500人を超えるチームメンバーを雇用。フィリピンにおいて、全体で4位、業界で1位の成長率を誇り、勤続率も90%と、平均的なフィリピン企業よりも50%も高いという。

フィリピンの人材は、人件費を抑えるられるだけでなく、ファイナンス、ロジスティック、オペレーションの分野で強みを発揮するというGuilherme Faria氏は、「人材の質・供給の安定性・コストの観点からパフォーマンスがとても高い」とアピールした。
○■NAL Soluthions

DX推進に取り組む企業へ、コンサルティングから開発、運用まで一気通貫でサポートを行うアジャイル開発サービスを提供するベトナムのNAL Soluthionsからは、CEOのNhu Hoai Tran氏が登壇。Nhu Hoai Tran氏は日本に留学後、社会人としての経験を積み、ベトナムに帰国後は、両国のビジネスの架け橋として活躍する。

グループ全体で500人規模というNAL Soluthionsは、ソフトウェアコンサル・開発、そして人材育成などを手掛け、日本のマーケットにおいても10年以上の実績を持っている。今回のイベントの前に、福岡と名古屋のクライアントと話をした際、「なぜNAL Soluthions」という問いかけに、両社から「誠実さ」という同じ回答を得たとのエピソードを披露し、「技術力がないと一緒に仕事はできないが、それ以上に誠実さがあったからこそ、信頼を得て、ここまでやってこれた」と振り返った。

京セラの創業者である稲盛和夫氏の「利他の心」を自身の経営理念とするNhu Hoai Tran氏は、あらためてその言葉を引用し、「我々の技術で、皆様の事業の力になれればと思います」と締めくくった。
○■CakeResume

豊富な人材DBを活かしたクロスボーダー人材紹介やダイレクトソーシングサービスで日本企業の海外人材採用をサポートする台湾のCakeResumeからは、CEOのTrantor Liu氏が登壇。25歳でCakeResumeを創業し、7年で従業員100名以上の規模にまで成長させたTrantor Liu氏は、25歳までフルスタックエンジニアとして活躍した。デザインやマーケティングに関するスキルは独学だという。

2030年までに、インドを除く世界は深刻な人材不足に直面するという想定において、就労ビザの規制緩和や外国人に優しい環境を作る必要性のほか、求人を出して、求職者が来るのを待つだけでなく、今後は求職者を企業から見つけにいかなければいけないという、企業側の積極性を求めた。

同社では、求人票を出すだけでなく、ブランディング戦略もサポート。タレントサーチのほか、ヘッドハンティングやEOR(海外での雇用代行)も行っている。今後、500万人のユーザーを活かし、ソーシャルネットワーキング機能を拡大してユーザーがお互いにコネクトできるようにするほか、さらに国を超えたグローバルな展開を目指したいとの決意を語った。
○■People Matters

顧客紹介ネットワークや自社メディアを活用したマーケティング支援により、日本企業の海外進出をサポートするインドのPeople Mattersからは、Director & CEOのEster Martinez氏が登壇。なお、People Mattersは、2023年3月に、マイナビの子会社となっている。

海に浮かぶセーリングボートを事業に例え、海の不透明性と同様、マーケットも変化していくため、長期的な計画は非常に難しいと語るEster Martinez氏。さまざまな要素・要因を完全にコントロールすることは困難であり、リーダーがすべての答えを持つ旧来のドミナントシステムの限界を指摘する。

誰かがコントロールし、他の人達が実行するという、コマンド&コントロールのマインドセットでは、セーリングボートを上手くナビゲーションすることはできず、タイタニックのような結果になるのは明らか。今後、ドミナントシステムからエマージェントシステムに移行する中、「皆様が変化を起こせるように、ビジネスを変えられるように支援していく」という同社の姿勢を示した。
○■Challenge Rocket

独自のスキルチャレンジ(WEBテスト)機能を搭載した採用プラットフォームで、日本企業の高度IT・AI人材採用をサポートするポーランドのChallenge Rocketからは、CEOのTomasz Florczak氏が登壇。同社の採用プラットフォームのメリットを紹介した。

採用においては、百科事典のような知識ではなく、実務的な能力、実際の仕事のシミュレーションによって評価すべきであると主張。ソフトウェアエンジニアに求められるスキルとして、同社のサービスは、コーディングテストをサポートすることによって、より客観的で、より早く、そして偏見なしに評価ができるという。しかも、ChatGPTの使用をチェックできる機能を備えることで、信頼性を高めている。

中東欧の人材は、ハイクオリティなスキルを安価に提供できるほか、日本にはないアイデアやコンセプトに触れることも可能だとアピール。すでに日本の企業が様々なサービスを利用しているほか、ソフトウェアエンジニアの採用も増えてきているという現状を紹介した。

グローバルスタートアップピッチの後は、ネットワーキングタイムが設けられ、新たなるビジネスチャンスを目指し、登壇した企業とイベント参加者による活発なコミュニケーションが行われた。

糸井一臣 この著者の記事一覧はこちら