調査員は見た! 第17回 現役調査員が解説-採用前の「バックグラウンドチェック」とは? 企業の目的と“調査内容8項目”

この連載では、現役の調査員が、採用調査や問題社員のリスク調査といった「企業調査のリアル」をお伝えしてきました。特に採用前のバックグラウンドチェックは、多数の企業が導入しつつあります。この「バックグラウンドチェック」とはそもそも何なのか。どういった経緯で生まれたのか。何を調べるのか。その目的は何なのか。これらについて、今回は説明したいと思います。

○バックグランドチェックとは

採用選考に際し行われるバックグラウンドチェックとは、応募者(候補者)の経歴や仕事ぶりなどを調査することです。「採用前調査」「雇用調査」とも呼ばれます。履歴書に書かれた過去の経歴、面接で本人が話した内容、そういったものに虚偽や問題がないかを確認するために、前職場など関係者に連絡をして確認したり、或いはデータベースでの照合やSNSの調査などを行います。企業が自社で調査を行うのではなく、委託された調査会社が実施するのが一般的です。

このバックグランドチェックの目的は、不祥事や問題行動で会社に不利益を与える可能性のある人物の採用を未然に防ぐことです。アメリカでは、95%の企業の雇用主がバックグラウンドチェックを行っていると言われています。その理由は「Negligent Hiring(ネグリジェント・ハイヤリング)」の未然防止です。聞きなれない言葉かと思いますが、このネグリジェント・ハイヤリングというのは、過失採用、または怠慢雇用という意味で、採用時に雇用者が労働者の前歴確認を怠った結果、事故や被害を招いた場合、企業が責任を問われるという考え方です。

分かりやすい例として、次のようなものがあります。以前の会社でも着服で解雇されていた人物を、経理スタッフとして雇う。どう考えても不適切ですね。居眠り運転で事故を起こし、2度も運転免許停止になったことがある人物を、ドライバーとして雇う。これも、仮に勤務中にまた事故を起こした場合、企業側の責任が厳しく追及されるでしょう。実際にアメリカではこのような事件があり(居眠りではなく飲酒運転、ドライバーではなく社用車の運転中でした)、企業は ネグリジェント・ハイヤリングを理由に、700万ドル(約7億円)の支払いを命じられています。

日本ではアメリカほどには普及していませんが、世間を騒がせた大手飲食チェーンでの従業員による迷惑動画事件などを皮切りに、今や企業は候補者の人間性やネットリテラシーによりセンシティブになっています。外資系を中心に、バックグラウンドチェックを標準化する動きも出ています。
○バックグラウンドチェックの調査内容8項目

ではバックグラウンドチェックでは、どのような内容を調査するのでしょう。調査項目をご紹介します。

1.【破産 調査】 官報検索を行い、破産歴・個人再生歴の調査を行い、金銭的問題の有無を調査します。
2.【学歴 調査】申告された採用候補者様の学歴に相違がないかを調査します。
3.【職歴 調査】申告された採用候補者様の職歴に相違がないかを電話にて調査します。
4.【リファレンスチェック】現職・前職の上司や同僚などの推薦者に取材を行い、採用候補者様の実績や在籍期間、人物像などを調査します。
5.【SNS 調査】 Facebook、Twitter、InstagramなどのSNSアカウントから、採用候補者様の趣味嗜好・友人関係・生活状況・人間性など面接時には見せない内面などを調査します。
6.【犯歴 調査】過去の新聞、地方紙などから前科、事故歴、飲酒運転などの犯罪歴を調査します。
7.【登記 調査】不動産登記情報から差押歴や金銭的問題の有無を調査します。
8.【近隣 調査】居宅近隣で聞き込み調査を行い、採用候補者様の生活環境・家庭環境・収入に見合った生活をしているかなどを調査します。

○企業にとってのバックグラウンドチェックのメリット

バックグラウンドチェックには費用がかかります。調査自体は調査会社が行うとはいえ、その準備や、調査結果の評価などの業務も生じます。それでもなお、バックグラウンドチェックを行うことによって、企業には、次に挙げるような、コストを上回る大きなメリットがあるのです。

1.顧客を守るため
2.盗難、横領、その他の犯罪行為や反社会的な行動を、未然に防止、軽減するため
3.それに伴う企業の損害賠償や損害など、損失を防ぐため
4.自社の評判を守るため
5.自社の社員を守るため

最後の「自社の社員を守るため」という項目がピンとこないという方もいらっしゃるかもしれません。これは例えば、セクハラやパワハラを指します。

実は、このバックグランドチェックで何らかの嘘や不正が発覚する割合は、非常に高いのです。その中の多くは、職歴の空白期間を短めに書く、3日で辞めてしまったパート先を表記しないといった比較的悪意のない些細な内容ですが、中には犯罪歴や退職理由が懲戒解雇であったことを隠すといったケースも見られます。
○就活する応募者が注意すべきポイント

企業にとってはメリットの多いバックグラウンドチェックですが、応募者側から見ればあまり歓迎したいものではないかもしれません。特に応募内容に虚偽はなくても、色々と探られること自体に居心地の悪さを感じる人も、少なからずいるでしょう。また前科のように大きなものでなくても、人は誰しもあまり他人に知られたくないことや、失敗の一つ二つはあるものです。

特に最近では、派遣ワーク、フリーター、フリーランスなど働き方が多様化していたり、ブラックな職場も少なくなかったりすることもあり、職歴が途切れたり、反対に膨大な数の「職歴」になってしまうこともあります。また、このストレス社会で心を病んだり人生に疲れてしまい、働けなくなったことがある方や、収入が低く多重債務に陥ったことがある方もいらっしゃるでしょう。そんな脛に傷持つ身だからバックグラウンドチェックをされたら不採用になってしまうのではないだろうかと不安に思っている方は、ご安心ください。業種や職種、その企業のポリシーにもよりますが、上記で挙げた調査項目すべてが真っ白でなければ、採用されないということはありません。

むしろ我々調査員が、就活される皆さんに警鐘を鳴らしたいのは次の3点です。

1.経歴、資格などは正直に書いてください。バレる嘘はやめましょう。
2.SNSをチェックする企業は多いです。応募先の人事に見られて困るような内容のSNSは控えましょう。
3.カッとくるとき、自棄になるとき、我慢の限界……色々あると思います。しかし「飛ぶ鳥跡を濁さず」。退職時は円満に。

企業調査センター 8万件以上の調査実績を誇る企業専門の調査会社。「調査のプロ」ならではの視点と聞き込みのテクニックで、学歴・職歴詐称や犯罪歴の有無やSNSでの性格や傾向をみるバックグラウンドチェックや、企業にとってリスクと思われる問題社員の素行調査などを手がけている。公式サイト(https://kigyou-cyousa-center.co.jp/) この著者の記事一覧はこちら