20代から高めておきたい投資・資産運用の目利き力 第86回 PR・広報は未来と社会への投資

「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は前回に続き、異業界・異業種から転職し、企業の広報・ブランディングの分野で活躍を続ける柴山紗代子氏にインタビューを行いました。

培ってきた経験や知識をどう応用するか
――業界を変えた転職をされて、「この経験は活かせるな」と感じることはありましたか?

柴山紗代子氏(以下、柴山氏):自分の知識をどの分野なら応用できるかは、転職してからも、転職する前からもよく考えていました。私の場合、広報活動にまつわる基本的な知識はもちろんですが、立ち居振る舞いや言葉遣い、言葉選び、語学などはすべて活かせています。

私自身のユニークな点は、例えば、手土産や会食の場所、宿予約などを選ぶ際のポイントなどは一通り経験があったので滞りなくこなすことができていたところですね。結果、広報業務に加えて秘書業務も兼務をしていたこともありました。しっかり向き合った業務から得る経験に無駄なものは全くないと思っています。

――経営者のビジョンや使命感、日々の仕事ぶりを理解していないと広報活動はできないので、秘書業務との兼務はとても良いですね。

柴山氏:知り合いのスタートアップ企業の広報の方でも兼務されている方が多いように思います。広報を担当される方は気配りができる方が多いので、必然的とも言えるかもしれないですね。経営陣が考えていることはもとより、関係を構築している企業や人々のことに触れられるので、広報業務へ活かすことができます。
キャリアチェンジの前に自己投資したこと
――柴山さんが転職前に自己投資したことがあれば教えてください。

柴山氏:AFP(Affiliated Financial Planner)の資格を取得したことですね。他には、コミュニケーションも兼ねて、自分の時間を使ってチームや業界の方からお話を伺い、生の情報をキャッチしていました。

また、時間を見つけて、保険業界のオープンAPI普及と協業・共創を推進する、業界横断の有志コミュニティである「GuardTech検討コミュニティ」や、世界最大級のアクセラレーター/VCの日本支社である「Plug and Play Japan」など、業界の幅広いオンライン/リアルイベントに参加していました。そこからさらに交流の輪が広がり、保険会社や銀行の方、そしてシステム関連の方とも情報交換ができ、たくさんの学びがありましたね。今は正解がわからない時代です。機会があれば多くの方と情報交換し、自分の知識を深め、人としての幅を広げることが、とても重要な自己投資だと感じています。
企業にとって広報・ブランディングは未来と社会への投資?
――柴山さんは広報・ブランディングの仕事をされていますが、会社によって広報・ブランディングへの取り組みって温度差がありませんか? BtoC企業であれば取り組みが集客と直結する面もあるのでわかりやすいのですが、BtoB企業の場合はプレスリリースすらあまり出していないこともありますよね。広報の専門部署を置いているBtoB企業も少ないと思います。

柴山氏:そうですね。日本では、まずPRや広報と聞くとプロモーション(=マーケティング)を連想しがちで、パブリックリレーションズという言葉も浸透しきっていません。

これはよく例えられることかもしれませんが、プロモーション(=広告)は西洋医学(薬)、広報やブランディングは東洋医学(漢方)と言われることがあります。広告はお金を投下し、自社の宣伝をするので、即効性がありますが、広報は宣伝ではなくステークホルダーと良好な関係を保つところに重心があるので、ぱっと見たところで即効性はありません。しかし、飲んでいたから身体の調子が良くなって、良い状態をキープできる漢方と一緒で、気が付いたら「皆が知っている」「社名やサービスを聞いたことがある方が増えている」、というような、中長期的にじわじわと水面下で広がりを見せてくれて、積み上がってくるものが広報だと思います。ここを経営陣の方がある程度理解を示し、その活動に協力してくれることが重要だと思っています。

最近では、事業の他にESGの活動をはじめとした非財務領域が株価や時価総額などといった企業価値にも影響してきます。スタートアップといえどもそういった活動も求められる時代です。他社の動向を調べるだけでも何か月、そして、それを自社のものにしてアウトプットするには、また数か月がかかりますし、それが社内に浸透していくのも、さらに時間がかかります。こういったことを企業の初期から取り組めるのはその必要性をわかっている広報専任がいるからこそなのではないかと思います。早めに取り組んでおけば、それだけ浸透も早く深く進んでいくと考えています。スタートアップ企業も、専任広報を早くに採用し、即効性を求めないで「数年後のことを考えてアクションを起こしていってほしい」とミッションを与えて活躍してもらうと、広報担当者もやりやすいかもしれません。広報・ブランディングは、企業にとってまさに長期的な投資ですね。専任で入ってくる人材は、事業もしくはミッションビジョンに共感し、応援したいという思いが強い人が多いと思います。

――日々の積み重ねがブランド、信用になっていくのですが、「広報は何をやっているかわからない」と見られてしまい、専任の採用を後回しにしてしまうのでしょうね。積み重ねを後回しにするのは、後々大きなリスクになり得ますね。

社員が100人、200人と増えても、広報部がない企業はたくさんあると思います。創業経営者は多動な人が多いのですが、広報をしっかりやっていると多動の履歴がブログやプレスリリースなどに残ります。日々の活動や思いを文字や写真、映像で伝えていけば、採用効果もあるかもしれませんし、顧客や取引先が増えるかもしれない。総合的に、採用コストや集客コストを下げることも考えられますよね。

柴山氏:そんな長期的な視点で考えてくださる人が増えたら、日本でももっと広報の方々が活躍できそうです。

広報の本来の意味は、あらゆるステークホルダーに向けて、ファンを作っていく活動です。メディアへの企画作りだけではなく、社内も業界も、一人でも自社のファンができれば立派な広報だと思っています。

そして、そのファンの方がさらに何かの話題で自分の友人に広めてくれたり、発信してくれたり。そうすると本当に予算がかからずに採用や受注のマーケティングにもつながります。ここだけを切り取ると、「無料で出せること」が先走ってしまいますが、そこに至るまでに広報が媒体研究(=マーケティング)・企業紹介のアポイントを取る(=インサイドセールス)、そして企業や事業の紹介を行う(=フィールドセールス)、その後、自社の情報にとどまらないメディアにとっての有益情報をはじめとした情報交換を実施(=CS)までをすべてやり抜いてきた結果です。

様々なステークホルダーとのタッチポイントを丁寧に企業とつなぐことで長い目で見て採用コストや集客コストを下げることは間違いないと思います。しかし、どんな活動をしているか見えにくく、定性的な結果が多く評価をされにくい環境にあるのが最近の課題です。しかしながら、前述のとおり、企業なんらかに強く共感して入社していることが多く、会社のファンを一人でも増やすために奔走していることを理解してもらえると救われますね。

――広報やPR、ブランディングの必要性のPRもまた必要ですね。

中島宏明 なかじまひろあき 1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。 この著者の記事一覧はこちら