沖縄に駐留するアメリカ海兵隊の第12海兵連隊が、第12海兵沿岸連隊に改編されます。人員規模は縮小されるものの、もちろんそれには理由があります。これまでと何が変わるのか、組織や装備、そしてその戦い方について解説します。
2023年1月11日、アメリカの首都ワシントンD.C.において「日米安全保障協議員会(日米2+2)」が開催されました。この中で、日米政府は中国に代表される「力による現状変更を試みる国々」を念頭に、インド太平洋地域での安全保障問題について幅広い議論が行われました。なかでも日本のメディアから注目を集めたのが、沖縄に駐留するアメリカ海兵隊に関する発表でした。
変わる沖縄の「備え」 米海兵隊の新しい姿「海兵沿岸連隊」が目…の画像はこちら >>沖縄のキャンプ・ハンセンにて射撃訓練に参加するアメリカ海兵隊第12海兵連隊(画像:アメリカ海兵隊)。
というのも、2025年までに沖縄に駐留している第12海兵連隊を、新たに第12海兵“沿岸”連隊へと改編することが日米政府間で確認されたのです。この「海兵沿岸連隊」とは、一体どのような部隊なのでしょうか。
海兵沿岸連隊とは、これまで海兵隊において編成されていた部隊の体制を改めたもので、特にインド太平洋地域の島々での戦闘を意識した部隊です。
もし、アメリカと中国との間で戦争が起きた場合、その主戦場は太平洋、東シナ海、南シナ海といった広大な海と、そこに点在する島々ということになります。そうした島々に素早く展開し、それらへ各種の拠点を構えることで、アメリカ海軍の艦艇が安全に作戦を実施できるようにするというのが、この海兵沿岸連隊の役割となります。
それを実現するために、海兵沿岸連隊には3つの部隊が組み込まれることとされています。
海兵沿岸連隊に組み込まれる3つの部隊とは、歩兵部隊と対艦ミサイル部隊などから構成され、作戦を実施する基盤を確保する「沿岸戦闘チーム(LCT)」、対空ミサイルによる防空や航空管制、さらに燃料や弾薬の補給拠点を設けるといった役割を担う「沿岸防空大隊(LAB)」、そして、物資の補給や戦場での車両整備といった兵站面での支援を行う「戦闘兵站大隊(CLB)」です。
こうした部隊を含め、海兵沿岸連隊は約1800人から2000人という比較的、小さな規模で構成される予定です。2022年にはじめて海兵沿岸連隊へと改編されたハワイ駐留の第3海兵連隊(現・第3海兵沿岸連隊)が、もともと約3400人で構成されていたことを考えると、そのスリム化の規模がうかがえます。
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アメリカ海兵隊の「海軍海兵遠征艦艇阻止システム(NMESIS)」(画像:アメリカ海兵隊)。
海兵沿岸連隊には、無人兵器を含む各種の新型装備が配備される予定です。たとえば、無人車両に地対艦ミサイル「NSM」の発射装置を搭載した「海軍海兵遠征艦艇阻止システム(NMESIS)」や、各種の無人機、ヘリコプター、低空を飛行する戦闘機などを撃墜するための各種兵器を車載化した「海兵防空統合システム(MADIS)」などが代表的です。
さらに、敵の位置を把握するレーダーやMQ-9Aなどの無人機に各種無人水上艇、逆に敵のレーダーや通信システムを妨害するジャミング装置、そして部隊を島から島へと輸送する「軽水陸両用輸送艦(LAW)」といった各種装備に支えられながら、海兵沿岸連隊は広大なインド太平洋地域で戦うことが想定されています。
それでは、海兵沿岸連隊は具体的にどのような戦い方を想定しているのでしょうか。
まず、海兵沿岸連隊は上記の各種部隊を各75から100名程度の小さな部隊に分け、それぞれに対艦攻撃や防空、兵站や情報収集などの特化した役割を持たせます。次にこれら部隊を、ヘリコプターやLAWを用いてあらかじめ島々に分散配置し、「遠征前進基地(EAB)」という小規模な拠点を設置します。
そして、この各EABが連携して、敵の艦艇や航空機の位置を把握してミサイル攻撃を実施したり、各種ジャミングを実施したり、各種補給拠点を設けて海軍の作戦を支援したりすることによって、たとえば空母を中心とする艦隊の安全な航行を支援するというわけです。
こうした小規模に分散された部隊は、航空機や衛星による発見が難しく、それが島から島へと素早く移動するという戦術をとります。これにより、敵からの攻撃を避けると同時に、敵の「情報・監視・偵察(ISR)」能力に大きな負荷をかけることも期待されます。
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陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾。2022年の環太平洋合同演習(RIMPAC)にて(画像:アメリカ海軍)。
また、これは日本の自衛隊にとても他人事ではありません。現在、陸上自衛隊も島しょ防衛を主眼に置いた「水陸機動団」の編成や、各種長射程ミサイルの配備を進めています。そうしたなかで、在沖海兵隊が海兵沿岸連隊に改編されるとなると、たとえば自衛隊と連携を深めることで、海兵沿岸連隊が捉えた敵の艦艇を陸上自衛隊の対艦ミサイルが攻撃したり、あるいはLAWによって水陸機動団をはじめとする部隊を輸送したりすることなども可能になるかもしれません。
今回確認された海兵隊の部隊改編は、対中抑止のための大きな一歩となることでしょう。