20代から高めておきたい投資・資産運用の目利き力 第87回 JADATが日本のweb3立国の礎になる(前編)

「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、ビットバンク株式会社 代表取締役CEOで、日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社(JADAT)でも代表を務める廣末紀之氏にお話を伺いました。

○廣末紀之氏

ビットバンク株式会社 代表取締役CEO
野村證券株式会社を経て、GMOインターネット株式会社常務取締役、ガーラ代表取締役社長、コミューカ代表取締役社長など数多くのIT企業の設立、経営に従事。2012年ビットコインに出会い、2014年にはビットバンク株式会社を設立、代表取締役CEOに就任。日本暗号資産取引業協会(JVCEA)理事(副会長)、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)会長を務める。また、デジタルアセットに係る新しい資産管理サービスの提供を目指す日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社(JADAT)でも代表を務めている。

○JADAT設立準備の背景にある業界の課題

――昨年2022年の5月に行われた、「日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社 ※略称 “JADAT”(Japan Digital Asset Trust Preparatory Company, inc.)」に関する記者会見には私も参加させていただいたのですが、設立に向けての進捗はいかがでしょうか?

廣末紀之氏(以下、廣末氏):信託には「管理型」と「運用型」があり、管理型は資産を預かるだけなのですが、運用型はライセンス取得のハードルもワンランク上がります。現在は管理型信託のライセンス取得を目指しており、 日本の歴史上初めてのことですから、暗号資産交換業者並みの審査になっています。資産をお預かりするわけですから、ハッキングリスクなどに対して極めて慎重にならざるを得ません。今後は、システムやオペレーションなどの審査に入り、業務プロセスなどを細かく審査することになります。

――JADATの設立には、どのような背景があったのでしょう?

廣末氏:2020年以降、北米を中心にデジタルアセット関連のファンドやカストディ事業、市場指数などが続々と誕生し、ビットコインをはじめとする暗号資産が本格的なアセットクラスとして認知され始めました。世界では機関投資家のデジタルアセット市場への参入が相次ぎ、2021年にはアメリカで初となるビットコイン先物ETFの上場や暗号資産交換業者であるコインベースのナスダック上場などによって投資環境がさらに整備され、2021年のデジタルアセット市場は2017年以来の活況な相場環境になりました。さらに、NFTに関連するゲーム(GameFi、BCG)やメタバース領域の発展で暗号資産のユースケースは拡大しています。

しかし一方で、日本国内のデジタルアセット市場においては個人投資家の増加は見られたものの、機関投資家や事業会社の参入は目立っていません。その要因として、「信頼に足るデジタルアセットのカストディ会社が存在しなかったこと」が挙げられます。

そうした業界全体の課題を解決したいと以前から考えており、デジタルアセットの保管・管理技術に強みを持つビットバンクと、カストディ事業において国内随一のノウハウやネットワークを有する三井住友トラスト・ホールディングス社が共同でデジタルアセットを安全に保管・管理する機能を果たすことで、国内の機関投資家や事業会社がデジタルアセット市場に参入しやすい環境整備をしようとJADATの準備に至りました。

――昨年の記者会見の際も、「カストディを暗号資産交換業者個社がやるのは非常に無駄なこと。できる会社が横断的にやることで、全体最適を目指すべき」「安全なインフラがないと安心して事業ができない。税制や会計基準の問題を一つずつクリアして、市場を発展させていきたい」と仰っていましたね。JADATの存在が業界を牽引し、海外のように日本でも金融商品化が進んでいくのではないかと期待しています。
○カストディは非競争領域

――取引所(暗号資産交換業者)の業界の裏側をお聞きしてしまうようで恐縮なのですが、「買えるコインの種類の数や手数料の差はあれど、セキュリティ面とかってどこの取引所でも同じなんじゃないの?」と思っている人もいらっしゃると思います。そのあたり、実態としてはどうなんでしょうか?

廣末氏:実はただ資産をお預かりするだけではなく、ハードフォークやエアドロップなど、取引所として対応すべきことは多岐にわたります。すべてに対応できる取引所は実は少なくて、外部に丸投げしているケースもあります。私たちは、ビットバンクを「金融の会社」というよりも「ITの会社」であると捉えていて、IT会社である以上は自前で機能を持たないといけません。ハードフォークやエアドロップの対応をしていない取引所もあることは事実で、対応せず顧客の不利益になってはいけないと考えています。

カストディは非競争領域ですから、個社の技術的な負担を軽減して業界全体をより良くしていきたいですね。ビットバンクもJADATに振り替えていく方針で、業界全体のコスト削減につながればと思っています。

また、暗号資産のユースケースは拡大しており、GameFi・BCGの人気が高まるとゲーム会社がトークンを保有することになるでしょう。その保管をどうするか?ハッキングは起きないのか?といった課題や懸念にも、JADATは対応できると思います。さらに、中島さんが期待されるようにビットコインETFなど日本でも暗号資産の金融商品化が進んだ際、当然ですが分別管理になるでしょう。あらゆるアセットのデジタル化が進むでしょうから、JADATでその根幹を支えられればと思います。
○JADATでステーブルコインの発行と流通ができる

――2023年6月1日の改正資金決済法施行によって、法定通貨を裏付けとするステーブルコインの発行が可能になることへの関心が高まっていますが、JADATでも取り組むことになるのでしょうか?

廣末氏:ステーブルコインに関しては、発行サイドと流通サイドの2段階があり、流通サイドについては電子決済手段等取引業者の認可が必要になります。暗号資産交換業者の認可+アルファの対応で可能と思われます。では発行サイドは?というと、銀行、信託会社、資金移動業者に限られます。つまり、JADATは理論的には一定の手続きが完了すればステーブルコインの流通も発行もできるようになりますが、まずは管理業務に徹する方針です。

(後編に続きます)

中島宏明 なかじまひろあき 1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。 この著者の記事一覧はこちら