“こぶとりじいさん”みたいな軍用機なに!? 異形のイタリア空軍G550が初来日 こぶの中には何がある?

イタリア空軍が航空自衛隊との共同訓練のため来日。その航空機のなかには、まるで“こぶ”のような膨らみが胴体にある「G550 CAEW」も見られます。日本で飛行実績のない同機は、どのような機体なのでしょうか。
2023年8月4日(金)、イタリア空軍部隊が航空自衛隊小松基地に飛来しました。10機の航空機と約160名の人員からなるイタリア空軍部隊は、小松基地とその周辺空域で航空自衛隊と共同訓練を行っています。
“こぶとりじいさん”みたいな軍用機なに!? 異形のイタリア空…の画像はこちら >>イタリア空軍機が来日しているG550CAEW。写真はシンガポール空軍機。EL/M-2085レーダーのアンテナは機首と胴体側面、尾部のふくらみの中に収容されている(竹内 修撮影)。
小松基地に飛来したイタリア空軍の航空機の顔ぶれのうち、第6および第32航空団所属のF-35A戦闘機と第14航空団所属のKC-767空中給油・輸送機は同型機が航空自衛隊に、第46航空旅団所属のC-130J輸送機は、横田基地を本拠地とするアメリカ空軍第374空輸航空団にそれぞれ配備されていますので、日本の航空ファンにとっても見慣れた存在と言えるでしょう。
またイタリア空軍第14航空団所属のG550輸送機は600機以上が生産されたビジネスジェット機で、アメリカ空軍にもVIP輸送機のC-37Bとして採用されています。C-37Bはアメリカ政府の要人を乗せて横田基地や厚木基地へ何度か飛来しているので、日本の航空ファンの中にも「見たことがある!」という方もおられるのではないかと思います。一方で、今回初来日となるのが、G550の早期警戒機であるG550 CAEWです。
第14航空団に所属するG550 CAEW早期警戒機は、航空自衛隊のE-2C早期警戒機やE-767早期警戒管制機のように、胴体上面に円形のレーダーを配置するのではなく、機体の両側面に童話の“こぶとりじいさん”のようなふくらみを設けて、そこへレーダーや電子装置を収容しています。そのユニークな外観もあいまって、初めて見た方はちょっと驚いたのではないかとも思います。そこで今回はG550CAEWについてご紹介したいと思います。
C550CAEWはその名が示すように、ビジネスジェットG550をベースに開発されていますが、G550のメーカーのガルフストリームではなく、イスラエルのIAI(Israel Aerospace Industries)によるものです。
IAIとレーダーなどの開発を手がける子会社のエルタは1990年代に、エルタが開発したレーダーをボーイング707旅客機の機首部と胴体両側面に搭載した早期警戒機「ファルコン707」を開発しました。
しかし大型レーダーであるEL/M-2075の搭載により、ファルコン707の機首部は“ムーミン”の鼻のような形状となってしまったため空気抵抗が大きくなってしまいます。同じボーイング707の胴体上面に円形のレーダーを搭載したE-3早期警戒管制機に比べて飛行性能が低かったことなどから、イスラエル航空宇宙軍とチリ空軍にしか採用されず、イスラエル航空宇宙軍も、E-2Cの導入に伴い、ファルコン707を短期間で退役させています。
このためIAIはボーイング707よりも燃費が安く、東京~ニューヨークをノンストップで飛行した最初のビジネスジェットであるG550に着目。エルタはボーイング707よりも小型のG550に搭載できるよう、レーダーを含めたシステムの小型化に取り組みました。そのシステムをG550に搭載したのがG550CAEWというわけです。
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G550CAEWのベースとなったガルフストリームのプライベートジェットG550(画像:丸紅エアロスペース)。
G550CAEWの「CAEW」はConformal Airborn Early Warning、すなわちコンフォーマル早期警戒機を意味しています。このためエルタが開発したEL/M-2085レーダーのアンテナはファルコン707と同様、G550の機首と胴体側面、尾部のふくらみの中に収容されています。
同機はイスラエル航空宇宙軍のほか、シンガポールと、今回来日したイタリアの両空軍、射爆訓練場の管制機としてアメリカ海軍に採用されています。。なかでもシンガポール空軍は、航空自衛隊も運用している早期警戒機E-2Cの後継機としてG550CAEWを採用しています。
筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は2018年2月に開催されたシンガポールエアショーで、G550 CAEWのクルーにお話をうかがいました。
G550CAEWの前はE-2Cに養生していたそのクルーは、「レーダーによる探知能力はE-2Cと遜色がないし、軍用輸送機のC-2をベースに開発されたE-2Cと違って、ビジネスジェット機をベースに開発されたG550CAEWは、ちゃんとしたトイレや休憩スペースが標準装備されているので、長時間の飛行任務におけるクルーの肉体的負担が少ない」と話していました。
同機に搭載されている“こぶ”のEL/M-2085レーダーは、機体各部に分散配置されているため、360度全周の監視能力はE-2CやE-3に搭載されている円形レーダーに比べると劣るようですが、コンピュータによってレーダービームを制御し、いつでも空間内の任意の方向にレーダービームを向けることができるため、遠距離目標の補足と特定能力では勝っているとも言われています。
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航空自衛隊のE-2C早期警戒機。円盤型のレドームが載る(画像:航空自衛隊)。
なお、イタリア空軍への採用は、イスラエル航空宇宙軍がイタリアの航空機メーカーであるレオナルドが開発したM-346練習機を採用した見返りであるという話もあります。
イタリア空軍は2機のG550CAEWを保有していますが、2機しかない早期警戒機のうちの1機を日本に派遣してきたあたりにも、イタリア空軍の今回の共同訓練への意気込みが感じられると筆者は思いました。