ストリートピアノの相次ぐ撤去の裏に“弾いてみた”系YouTuberの存在?「目立つために派手な演奏」「見物人の映りこみは許されるの?」“営利目的”の利用は禁止のはずだが…

誰でも自由に弾くことができる「ストリートピアノ」が全国的に普及するなか、「うるさい」といった苦情などで、撤去されるケースも相次いでいる。調査を進めるうちに、騒音トラブル以外の新たな問題点も見えてきた。
路上や公共スペースに設置され、誰でも自由に弾くことができるストリートピアノ。その発祥は2008年のイギリスといわれており、日本では2011年に鹿児島県鹿児島市の鹿児島中央駅一番街商店街で設置されたのが初めてとされる。ストリートピアノ情報サイト「だれでもピアノ」によると、2018年を節目に国内のストリートピアノ文化は急速に発展し、2023年8月時点でその数は600ヶ所以上となっている。この背景について音楽ライターはこう語る。「ここ数年、『ハラミちゃん』や『よみぃ』といったストリートピアノを演奏して爆発的な再生回数を記録する、いわゆる“弾いてみた”系動画のYouTuberが増えています。そうした影響で市民の人たちから『ウチにもストリートピアノを設置してほしい』という要望が高まった結果、全国的に設置数が増えたのではないかと思います」
歌舞伎町、チェックメイトビルに設置されるストリートピアノ
この流行に乗って、JR加古川駅も昨年11月にストリートピアノを設置したが、今年5月、わずか半年で撤去されてしまった。同市のスポーツ・文化課の担当者は、撤去理由について「騒音に関するトラブルが改善されなかった」と説明する。「設置当初から利用時間やマナーに関する張り紙は掲示しているにもかかわらず、『午後9時以降も演奏している人がいる』『ピアノをガンガンと叩きつけるように弾いていてうるさい』『禁止している歌唱をともなって演奏している』などの苦情が相次ぎました。これを受けて翌月から音量を抑える器具を取りつけ、注意書きをピアノ自体に貼るといった対策を行いました。しかし、一部の利用者による迷惑行為はなくならなかったため、『このまま続けていくのは困難』と判断し、撤去を決定しました」
また、苦情は騒音問題だけではなかったようだ。「『脚立にスマホを設置して長時間ピアノを弾いている人がいて、順番がまわってこない』『ピアノ近くの歩行者が映るようにスマホを設置していて、自分が映っていないか不安だ』といった演奏者の動画撮影に伴う意見も多く寄せられました。私たちも直接見てはいないので、その方たちがYouTuberだったかどうかはわかりませんが」(同)今年3月から利用休止になっている名古屋駅直結の商業施設、JRゲートタワーに設置されたストリートピアノの担当者も「トラブルの原因のひとつに、YouTuberの存在があったのではないか」と振り返る。「実際に見たわけではないので断定はできませんが、施設関係者に話を聞くかぎり、スマホで撮影しながら鍵盤を強く叩くなど、派手な演奏をしている方がいたとは聞いてます。当施設は名古屋の中心地で人も多い。そのため、パフォーマンス重視の演奏をしてしまい、苦情につながってしまったのではないか、と我々も推測しています」
JR両国駅(東京都)のストリートピアノをマナーを守って利用する一般の利用者
動画の撮影について「演奏者のみ映るかたちであれば問題なし」としている自治体も多く、SNSでの事前告知やチケットの販売、投げ銭といった営利利用しないかぎりは、YouTuberの撮影を許可しているところも少なくない。2021年3月に設置されたJR両国駅(東京都)構内のストリートピアノもそのひとつで、YouTube上には当地でのさまざまな「弾いてみた動画」がアップされている人気のスポットだ。記者が訪れた8月某日も、ストリートピアノ周辺は小学生から部活帰りの中学生などを含めて多くの人でにぎわっていた。「スマホで撮影してる人って、やっぱり腕に自信があるからか、お上手な方が多いじゃないですか。暇なときは、ここでピアノをずっと聞き入っちゃうこともありますし」(60代女性)という駅利用者から好意的な声がある一方で、こんな思いをした人も。
「YouTuberなのかな。やけに上手な方がいたので、ピアノの近くまで行って聞いていたら、スマホで演奏者を撮影していたスタッフみたいな人がこっちにカメラを向けてきてビックリしました。自分も動画に映るかもと思って、ちょっと不安になりました」(40代女性)墨田区の文化芸術振興課の担当者はこう話す。「両国駅構内のストリートピアノはこれまで騒音トラブルなどの苦情が寄せられたことはほとんどありません。しかし、場所がらSNSなどに演奏動画をアップされる方も多く、通行人の方を映すように撮影されている方も見受けられました。そのような状況からこちらで自撮り用スマホスタンドを用意し、これを利用してもらうことで見学する方の映りこみがなくなるよう対策しました」
利用にあたっての注意書き
記者が訪れた日も自撮り用スマホスタンドを使って、自身の演奏を撮影する人の姿もあったが、本人しか映らないように配慮はしているものの、演奏に集中しているのか、「1回5分まで」と定められたルールを超えて演奏している人もいた。また、別の理由で、弾いてみた系YouTuberを批判する人も。「何度か某有名YouTuberの生ストリートピアノを聞いたけど、彼らが配信する動画ではずいぶん編集で音をいじってるよね。ステージに立つ人が本番の練習もかねて利用したり、音楽を楽しむためにストリートピアノを弾くのはいいけど、音をいじってまで金稼ぎに使うのはどうかと思う」(30代男性)演奏系YouTuberがストリートピアノでの演奏動画を動画サイトに投稿して、収益につなげることが「営利活動」にあたるかどうかは判断が難しいが、目立つことを目的にマナー違反が相次ぐようであれば、動画投稿用の演奏を制限することも考えなくてはいけなくなってしまう……のだろうか。※「集英社オンライン」では、ストリートピアノや演奏系YouTuberに関するトラブルについて、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected](Twitter)@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班