「在職老齢年金」月給いくらまでなら年金カットされない? 早見表でチェック

人生100年時代を迎え、年金がもらえる年齢になっても仕事を続ける人は、ますます増えていくでしょう。そこで気になるのが、給料をもらいながら年金も受給すると、給料と年金の合計額によっては、年金の一部または全部が支給停止となる「在職老齢年金」です。

給料の額がどのくらいだったら支給停止にならないのか、一目でわかる「早見表」を作成しました。65歳以降も働く予定の人は、ぜひチェックしてみてください。
■在職老齢年金の仕組み

老齢年金を受給している人が、厚生年金の被保険者として勤務すると、給料(総報酬月額相当額)と年金(基本月額)の合計額に応じて、年金の一部あるいは全てが支給停止となることがあります。これを「在職老齢年金」といいます。

【総報酬月額相当額】…給与の平均月額と過去1年間の賞与を12で割った額を足したもの
【基本月額】…老齢厚生年金(※)の年額を12で割った額
※老齢厚生年金の額は、加給年金と経過的加算を除いた報酬比例部分の金額です。

総報酬月額相当額と基本月額の合計額が48万円を超えると、超えた額の2分の1の額の年金額が支給停止となります。支給停止となるのは老齢厚生年金のみであり、老齢基礎年金は全額支給されます。

「総報酬月額相当額」+「基本月額」が48万円以下…支給停止されない
「総報酬月額相当額」+「基本月額」が48万円超…超えた額の1/2が支給停止

たとえば、総報酬月額相当額が35万円、基本月額が15万円だった場合、合計が50万円となり、48万円を2万円超えるため、その半分の1万円が支給停止となり、受給できる老齢厚生年金の額は14万円となります。

なお、2022年4月から、60代前半(60~64歳)の支給停止となる計算方法が見直され、現行の60代後半(65歳以降)と同じ計算方法になりました。
■在職老齢年金の支給停止額 早見表

給料を表す「総報酬月額相当額」を縦軸、年金を表す「基本月額」を横軸にして、支給停止となる金額を一覧表にしました。

<在職老齢年金の支給停止額早見表>

この表から、厚生年金を月10万円受給している人は、給料が35万円では、支給停止になることはありませんが、給料が40万円になると、厚生年金が1万円支給停止になることがわかります。45万円、50万円と給料が増えるに従って、支給停止額が増えていき、給料が60万円になると、厚生年金が全額支給停止となります。

加給年金は基本月額には含まないので、厚生年金の一部が支給停止となっても、加給年金は全額支給されます。ただし、厚生年金が全額支給停止となった場合は、加給年金も支給されません。
■在職老齢年金と繰下げ受給の関係

65歳以降も厚生年金の被保険者となって仕事を続けていく人は、収入があるため、年金の繰下げ受給が可能となるでしょう。この場合、年金はもらわないので、在職老齢年金による支給停止は避けられると考えがちです。

しかし、在職老齢年金による年金額の調整は、繰下げ受給をして、実際は年金を受給していなくても、65歳からの本来の受給額で計算されます。そして、本来の年金受給額と給料の合計額が48万円を超えた場合、その超えた額の1/2が支給停止となります。

ここで注意したいのが、支給停止となった額は繰下げ受給の増額の対象とはならない点です。70歳まで繰下げ受給をした場合、42%増額されますが、支給停止となった額を除いた部分のみが増額されます。そのため、全額支給停止となった場合は、70歳まで繰下げても、一切増額はありません(老齢基礎年金は支給停止の影響はないので全額増額されます)。

また、加給年金を受給できる場合に、老齢厚生年金を繰下げ受給すると、その繰下げている間は、加給年金は支給されません。加給年金は老齢厚生年金に加算される年金であるためです。加給年金の支給要件は「65歳未満の配偶者」がいることなので、繰下げ期間中に配偶者が65歳になってしまうと、加給年金の受給資格はなくなります。

繰下げ受給は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰下げることが可能なので、加給年金の受給資格があり、繰下げによる増額も望む場合は、老齢基礎年金のみ繰下げるといいでしょう。
■在職老齢年金の支給停止は気にする必要なし?

厚生労働省の「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金受給者の平均年金月額は14万5665円です。この額には基礎年金部分も含まれているので、基礎年金の満額6万5075円(令和3年度)除くと約8万円です。

平均的な厚生年金受給者の年金額をもとにすると、月収が40万円までなら支給停止にはなりません。国税庁の「令和3年分民間給与実態統計調査」によると、給与所得者の平均給与は443万円となっています。月収にすると約37万円です。

つまり、平均的な年金額、平均的な給与であれば、支給停止とはなりません。さらにいえば、在職老齢年金の対象者は、継続雇用や再雇用制度で働き続けるケースが多いでしょう。この場合、それまで得ていた給料より下がるケースがほとんどだと思います。

平均以上の年金がもらえて、65歳以降も現役並みの給料をもらい続けている人以外は支給停止を気にする必要はあまりないと思います。そもそも年金が支給停止になるほど稼いでいる人は、老後のお金の心配がない人といっていいでしょう。

在職老齢年金の支給停止を過度に気にするよりも、人生100年時代の長い老後のために、働けるうちは働き、老後資金を増やしておく方がいいでしょう。

石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。実生活における“お金の教養”の重要性を感じ、生活者目線で、分かりやすく伝えることを目的として記事を執筆中。ブログ「ファイナンシャルプランナーみかりこのお金の勉強をするブログ」も運営中! この著者の記事一覧はこちら