大戦中の軍艦といえば、多連装砲やハリネズミのように空へ向けられた対空砲など、とにかく重武装なイメージ。しかし今の軍艦は、どこかスッキリしています。一体なぜここまで差があるのでしょうか。
たとえば第二次世界大戦の軍艦は、主砲となる多連装砲や対空機銃銃座などが多数甲板の上で置かれており、ゴテゴテで複雑なシルエットをしています。しかし、2023年現在、海上自衛隊が運用している護衛艦などを見ると、かなりスッキリした印象を受けます。なぜこうも変わったのでしょうか。
武装もりもり「ゴテゴテ軍艦」なぜ消えた? 今の軍艦がこざっぱ…の画像はこちら >>1980年代にミサイルを積むなど近代改修が施された第二次世界大戦で運用された戦艦「アイオワ」の主砲斉射(画像:アメリカ海軍)。
結論から言うと、武器の発展が関係しています。20世紀に入ると戦艦など大型の軍艦は分厚い装甲で覆われるようになり、そのフネを倒せるようにと、大きな砲が置かれました。
しかし当時の艦砲は、それまでの目測で撃っていた時代よりはマシになったものの、測距儀や方位盤などを駆使し射角などを計算して射撃しており、そこまで命中率が高いものではありませんでした。さらに、重い砲弾を使用するため装填速度も速くなかったことから、砲身を複数搭載する連装砲が考案され、3連装砲塔、さらには4連装砲塔も登場することになります。
これらの連装砲を数基搭載し、その空きスペースに、小型艦艇などを相手にするための小さな副砲を配置することで、様々な任務に対応する武装としていました。
しかし第二次大戦後は、航空機の発展により、砲を使った軍艦どうしの戦闘は起こらないことが決定的となります。すると今度はさらに遠距離から狙えるミサイルの技術が発展していきます。
東西冷戦初期の1950年代には、ソビエト連邦が艦船を破壊可能な艦対艦ミサイルを積極的に開発し搭載するようになり、それに対抗してアメリカ海軍でも砲のかわりに艦対艦ミサイルを搭載する傾向が強くなります。
また、甲板に所狭しと置かれていた対空機銃があまり意味をなさなくなったことも、現在の艦艇の甲板がスッキリしていることに影響しています。戦後ジェット機の時代になると、より速い速度の戦闘機や攻撃機を補足する必要が生じ、それまでの対空機銃や対空砲では力不足だったのです。
早くも1949年12月には、艦艇で使用する対空ミサイル「テリア」の配備がアメリカで開始されます。イギリスの「シースラグ」もこれに続き、1950年代に入る頃には一般的な武器として定着していきます。
そのため、“誘導の効かない砲塔や機銃は不要”という考えが生まれ、一時期はアメリカ海軍のロングビーチ級原子力ミサイル巡洋艦やイギリス海軍の22型フリゲートのように、ミサイルしか搭載しない艦船も登場するほどミサイル万能に傾き、中身はミサイルでハリネズミ状態でも、甲板には一見なにも構造物がないような、のっぺりした感じになりました。
しかし、その後すぐに砲と機銃は復活することになります。大きな理由は主武装が全てミサイルの場合、とんでもなくお金がかかることが分かったからです。艦砲に関しては戦後しばらくすると、コンピュータ制御の導入や砲身冷却などのシステムにより、精度と発射速度が格段に進歩し、近距離戦用や対空用に単装の小口径艦砲が配備されるようになります。
さらに機銃に関してもバルカン砲など戦後開発された発射速度の速い動力式のガトリング砲などを搭載し、システムを完全自動化したCIWS(小型艦砲)も開発され、航空機だけではなく、対艦ミサイルの迎撃も想定した防御火器として復活しました。
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武装が全てミサイルで構成されたロングビーチ級原子力ミサイル巡洋艦(画像:アメリカ海軍)。
ですが、発射速度も速くなっているため、かつてのように何基もゴテゴテに置くわけではありません。たとえば海上自衛隊で現在一番新しいイージス艦、まや型護衛艦には62口径5インチ単装砲が1基と高性能20mm機関砲が2基しか搭載されていません。旧海軍の重巡洋艦「摩耶」が主砲だけで20.3cm連装砲5基を備え、ほかにも副砲や対空機銃がゴテゴテついていたことを考えると、基準排水量は1000トン以上も上であることを置いても、かなりスッキリした外見になっていることが分かります。 なお、対艦ミサイルとしても使用可能なロシアの極超音速ミサイル「ツィルコン」など、対艦ミサイルの分野も2023年現在、技術発展が著しくなっています。そのため、CIWSでは迎撃が困難であると指摘され、近接防空ミサイル(RAM)と併用されるようになっており、コストが高いからと一度は断念したミサイルのみの軍艦が主流になる可能性も出ています。