ウクライナ落胆「F-16今年はこない」 活発化したロシア空軍への対抗策が遠のく 「戦闘機が欲しい」そもそもの理由

ウクライナ空軍は今年中にF-16戦闘機の供給はないだろうと発表しました。ロシア空軍の本格投入が噂されているなか、同機はどのようなことを期待されていたのでしょうか。
ウクライナ空軍の報道官ユーリー・イフナット氏は現地時間の2023年8月17日、「F-16戦闘機を2023年中に使用する見込みはない」と同国のテレビ放送で見解を述べました。
ウクライナ落胆「F-16今年はこない」 活発化したロシア空軍…の画像はこちら >>ウクライナ空軍仕様のF-16想像図(画像:ウクライナ国防省)。
同国へのF-16供給に向け、アメリカのバイデン政権は2023年5月に、ウクライナ人パイロットへのF-16訓練プログラムの実施を承認しましたが、肝心の戦闘機供与のタイミングについては明らかになってはいませんでした。
イフナット氏は「私たちはこの機体がロシアのミサイルや無人機による攻撃から守ることができると、大きな期待を寄せていました」と落胆を隠しません。ウクライナが一刻も早いF-16の供給を望んでいるのは、2023年6月から開始したと思われる反攻作戦での前線の状況が関係しています。
イギリス国防省が分析した現在の前線の状況によると、これまではあまり姿を現していなかったロシア空軍が地上部隊を支援するため、頻繁にウクライナ地上部隊への攻撃を行っていると見られており、1日で100回以上に及ぶときもあるそうです。
なりを潜めていたロシア空軍が本格投入された理由に関しては様々な憶測もあるようですが、ロシア軍の火砲の多くが、長引く戦闘のなかで失われたため、地上火力を補うための航空支援であると指摘する専門家もいます。
ただ、ロシア空軍はウクライナの防空網の中には入ることなく、射程延長用の滑空装置を備えた無誘導爆弾を使って攻撃を行っていると見られ、高い精度を得られているわけではないとイギリス国防省は予想しています。とはいえ、防空網の構築や北大西洋条約機構(NATO)加盟国など、いわゆる西側陣営から供与された対空ミサイルの配備が十分ではない前線のウクライナ軍にとっては、ロシア空軍の地上攻撃は脅威となります。
航空戦力に関しては、ウクライナ空軍の方が数的にかなり不利な状態にあります。しかもウクライナ空軍の主力戦闘機であるMiG-29では、ロシア空軍のSu-35などが迎撃にきた場合、レーダーや搭載している空対空ミサイルの性能に差が大きく、一方的に撃墜される危険性もあり、なかなか出撃が難しい状況となっています。
そうした前線の状況を好転させるために期待されていたのがF-16でした。同機は、ミサイルに搭載されたレーダーで標的を自動追尾する「アクティブレーダーホーミングミサイル」のAIM-120「アムラーム」を搭載でき、MiG-29よりミサイルの射程距離が格段に伸びます。
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ウクライナに供与が噂されているデンマーク空軍のF-16(画像:デンマーク空軍)
アムラームの最新型であるD型は、射程が約180kmといわれており、アクティブレーダーホーミングのため、撃った後は機体のレーダーで誘導する必要もなく、即離脱も可能です。ロシア空軍がウクライナ方面に投入している戦闘機のSu-27やSu-35と性能的には互角か、上回ることができます。
そうした背景もあり、2023年2月、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「ウクライナに戦闘機を、自由の翼を」とF-16の供与をイギリス議会でNATOなど西側諸国に訴えたわけですが、少なくとも今年中に空戦での大きな変化は起こらないことが確定的となりました。