市川の青木さん特例投与へ 自費負担、寄付募る 難病ALS新薬、東京医科歯科大が準備

全身の筋肉が徐々に動かせなくなる難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療で、国内では未承認だが、米国で開発され特定の遺伝子に変異のあるタイプ向けに作られた「新薬」の特例的な国内利用に向けた準備が、東京医科歯科大学(東京)で進められている。対象となるALS患者は市川市の青木渉さん(34)。難病治療の「先例」となる取り組みだが、費用は自費で年間数千万円かかる。青木さんは寄付を募りながら投与開始に備えている。
新薬は、SOD1という遺伝子の変異により筋肉を動かす神経が損傷するタイプのALS患者の治療用に米国で開発された「トフェルセン」。日本人を含む世界規模での臨床試験が行われ、4月下旬に米国で迅速承認された。ALSを引き起こす根本に踏み込んだ画期的新薬とされ、症状の進行を抑えると期待される。
ただ、開発した米製薬会社「バイオジェン」日本法人によると、国内での承認は「当局と申請に向けた協議中」として、見通しは立っていない。
今回の新薬に早くから注目していたのは、脳や神経の病気が専門の東京医科歯科大学、横田隆徳教授のチーム。「症状がこのまま進んでしまうのを座視できない」と、同大学病院のSOD1型ALS患者、青木さんに投与できるよう「未承認新規医薬品等を用いた医療提供」という制度を活用し、5月に同病院内の評価委員会に申請書を提出、その後承認された。新薬の輸入に向けた準備が進む。
患者の青木さんは、都内で飲食店店長だった2021年10月ごろ足に違和感があり、足に力が入らなくなった。22年春から同病院で精密検査を受け、遺伝性ALSと診断された。その後も症状は悪化。階段は両手でつえを使って上り下りし、握力の低下も感じる。
「1~2年先どころか1~2カ月先さえ体調がどうなるかわからない。新薬投与を米国での承認前から切望してきた」という青木さんは、自身のホームページ(https://aokisho.com/)や動画で支援の募金を呼びかけながら投与に備える。
横田教授は「投与が実現し、他のALS患者の人たちにも希望になるような方向に進んでくれれば」と期待している。