なぜ日本に再上陸? 「ランドクルーザー70」とはどんなクルマか

トヨタが「ランドクルーザー250」を公開して話題となっているが、注目したいのは同じタイミングで明らかになったヘビーデューティーモデル「ランドクルーザー70」の日本再投入だ。なぜ日本にやってくる? そもそもどんなクルマ? そのあたりを見ていきたい。

○ランクル70の歴史と現状

その武骨でクラシカルなスタイルが物語るように、ランクル70は来年で生誕40周年を迎えるロングセラーモデルだ。つまり約40年の間、進化を図りながらも基本構造を変えずに生産が続けられてきたわけだ。そんなご長寿モデルが日本に再上陸し、台数限定などではなくカタログモデルとして復活を果たす。

現在日本で販売中のランクルは「300」と「プラド」の2種類。これらのクルマは乗用性能にも磨きをかけた「国産高級SUV」という位置づけだ。一方のランクル70は、ランクルの原点に最も近い存在だといえる。

少しランドクルーザーの歴史を振り返ろう。

原点は1951年に誕生した「ジープBJ型」と呼ばれるモデル。その名が示すように、ランクルの祖先はジープとして開発されたクルマだった。同モデルは途中から「ランドクルーザー」に改名する。

1955年に登場した2代目「20系」からは世界への輸出が始まる。1960年登場の3代目「40系」は世界中で高い評価を受け、なんと24年間も製造が続いた。

40以降のランクルはジープ色を薄め、モデルの多角化を図った。1967年の「55系」や「60系」などのクルマは、かなりSUVとしての性格を強めたランクルだった。

本格SUVとしての40系の後継は、1984年に登場した「70系」だ。誕生から現在まで世界各地で販売が続く人気モデルである。日本では2004年に販売をいったん終了し、2014年~2015年には期間限定で復活したものの、現状ではトヨタ車のラインアップに入っていない。

ランクル70が世界で信頼を獲得できた理由
ランクル70は世界でどのように活躍してきたのだろうか。少し古いデータだが、2013年のランドクルーザーの販売実績によると、シリーズ全体で約35.6万台が売れたうち、70は約7.6万台と全体の約2割を占める。しかし地域別でみていくと、東アジア/オセアニア地域では35%、アフリカ地域では65%までシェアが拡大する。

ランクル70は厳しい自然環境、道路環境でこそ真価を発揮する。大自然や鉱山、砂漠などの道なき道を走る際でも、命を預けられる存在として愛されているクルマなのだ。災害の現場や紛争地などで人道支援活動に当たる赤十字や国連のスタッフもランクル70の愛用者である。

同モデルが基本設計を変更しないのは、そんな厳しい環境下でも整備をしなければならなくなったり、部品を入手しなくてはいけなくなったりした場合を考慮してのこと。シンプルな構造だからこそ壊れにくく、修理もしやすい。修理部品に関しても、年式を問わず基本的な部品が共有できるから、ランクルが活躍する地ならば手に入れやすいのだ。

もちろん、日本にも活躍の舞台はある。山間部や豪雪地などでは、自治体や消防署などが長年にわたって愛用している70の姿を見ることができる。

世界中で活躍するランクル70には、地域に最適化された多くの仕様が存在する。大きく分けると乗用性能も考慮した「ワゴン」、積載性に優れる「バン」、そして、さまざまな荷物が運べてカスタムにも適した「ピックアップトラック」だ。日本での期間限定発売では4.0LのV型6気筒ガソリンエンジンと5速MTを搭載した「バン」と「ピックアップトラック」が販売されたが、これから日本で復活する70の仕様はより限定される。
○日本仕様はどうなる? 価格は?

日本に入ってくる新型ランクル70は3ナンバー登録の「ワゴン」仕様となる。エンジンは環境対応のため、2.8Lの直列4気筒クリーンディーゼルターボに換装。トランスミッションは6速ATだ。

ワゴンを選んだのは、ほかのタイプに比べて乗り心地がよく、幅広いニーズにこたえられるからだろう。バンと比べるとラゲッジの最大積載量が軽くなるため、後輪のサスペンションがソフトな設定となり、後部シートの質感やクッション性も高くなる。

ワイルドなクロカンだけに「MTはないの?」という声もあるかもしれないが、ランクルですら今やATを望む声が世界的に高まっており、MTは少数派となっているそう。日本でもMTが選べる車種はほとんどがスポーツカーであり、SUVでも設定車種は希少だ。

エクステリアは70らしさを残しつつ、現代的なアレンジが施してある。フロントバンパーは歩行者保護対応のため、日本仕様では内部構造を含めて変更するとのこと。このため、以前は設定のあったウインチは非設定となる。

ボンネットやグリル形状の変更はエンジン冷却性の向上が目的だが、フロントグリルには往年のヘビーデューティーなランクルのテイストを取り入れた。これが、どこか懐かしさを感じさせる新型70のアイコンにもなっている。

新技術としては、先進の安全運転支援機能を標準化。第2世代の「トヨタセーフティセンス」を採用し、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報などを備える。

ランクル70について話を聞いた開発担当者は、「日本にも70のファンは存在しますし、生活や仕事の相棒として必要としてくれる人たちもいます。そのため、長く販売できるようにモデルを絞り、カタログモデルとして復活させました。時代の要求から現代的な機能も加え、乗用タイプのワゴンのみとしていますが、基本的な性能は伝統の70を受け継ぎ、構造も変更していません。だから、SUVのように快適性がとても高いクルマというわけではないのですが、それを理解して購入していただきたいと思います」と話していた。70の高い信頼性とストイックな姿勢は、令和5年の今も変わりないということだろう。

ランクル70の日本仕様は年内には正式発表されると見られるが、発売は年明けが濃厚だろう。価格は現時点で未定だが、2014年復活時の価格が350万円前後だったことを考慮すれば400万円以上となるのはほぼ確実。500万円程度は覚悟しておいた方がいいかもしれない。しかし、タフな性能と耐久性を考慮すれば、それでもお買い得といえそうだ。

大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら