安寧願い700キロ大巡行 天保飢饉以来200年ぶり「日本廻国」挑む 南房総・高徳院の星住職 28日から復路

南房総市千倉町にある古寺「高徳院」の星孝芳住職(45)が28日から、厄災後の安寧を願って観音像と祈り歩く「日本廻国(かいこく)」の大巡行に挑む。観音像を載せた山車を引きながら、京都市から千倉までの約700キロを約2カ月間かけて歩き続ける。星住職は「災害やコロナ禍などたくさんの苦難不況があった中、皆さんが奮起し、頑張れるように歩きたい」と話す。
星住職によると、日本廻国は100年先の国家万民の安寧を願って全国各地を観音像と祈り歩く伝統的な行事。これまで100年に1度と言われるほどの大厄災が起きた際、沈静化後に各時代の僧侶らによって行われてきた。かつては他の寺院でも行われていたが、現在は同寺が唯一、伝統を受け継いでいるとされる。
同寺では元禄大地震と富士山宝永大噴火が起きた後の1709~23年に実施された記録が残るが、江戸後期の天保の大飢饉(ききん)後を最後に行われていなかった。実施されるのは実に約200年ぶりという。
大学生だった20歳の頃、踊念仏の祖で知られる空也上人に関する研究書を読み返すうちに、空也の生涯や思想に感銘を受け、廻国を志すようになった星住職。2019年6月に「前行(ぜんぎょう)」として長距離巡行を始め、翌7月には東京・日本橋まで到達したが、房総半島台風(台風15号)の影響で一時中断。翌年以降も新型コロナ禍の影響で延期を余儀なくされた。
昨年9月末、これまで厄災が落ち着いた後に廻国が行われていた歴史に立ち返り、巡行を再開。長距離巡行にも耐えられる赤漆塗りの山車に66センチの「お前立(まえだち)観音」を載せ、日本橋から京都の本山までの約500キロを踏破した。
「本行(ほんぎょう)」の今回は、京都の本山から千倉の同寺までの復路を巡る。彩色のため京都の仏師に預けていた高さ180センチの本尊「千倉観音」を山車に安置し、本山を出発。鈴鹿峠や箱根峠、日本橋などを越え、11月初旬までに同寺に戻る計画だ。
道中は、割印型の特別な御朱印札を発行。札の裏側の片方は「願い札」になっており、出会った人々から伝えられたさまざまな願い事を書き記し、観音像の体内に奉納しながら歩みを進めていく。
巡行の様子は、フェイスブックやインスタグラムなどで随時公開する。巡行を前に、星住職は「『前行』は非公開だったが、今回は多くの人々の支援を受け、盛大かつ厳粛に出発したい。苦しいことはたくさんあるけれども、苦しいことを乗り越えることが醍醐味(だいごみ)だと思って、楽しめたら」と語った。
星住職は、10月7~9日に通過する予定の箱根峠で、一緒に山車を引く協力者を募集している。問い合わせは高徳院(電話)0470(43)1010。