「トー横」「グリ下」から「P横」などローカル化へ。細分化するキッズたちの漂流先に支援団体も困惑。一時保護してもかえって大人を信用しなくなり、再び“界隈”へ…

行き場をなくした若者たちは同世代が集まる繁華街の一角へと集まる。その代表例が歌舞伎町の「トー横」、名古屋の「ドン横」、大阪の「グリ下」なのだが、エリアの再開発や自治体の対策により彼ら“キッズ”は居場所を追われ、ちりぢりに。しかし、それでも彼らが家路につくことはない。キッズの保護の難しさと問題点とは。
お盆直前のある日、若者があてどなく集まる歌舞伎町のシネシティ広場、いわゆる「トー横」(新宿東宝ビルの横の意味)と呼ばれるエリアに出向いてみると、そこには地べたに横になるひとりの男性と、数人のグループ2、3組ほどがしゃべっている程度。100名近いキッズが密集していた去年の夏とは大違いだ。トー横付近によく足を運ぶという男性はこう話す。「私服警官の数が増えましたね。彼らはかなり早い時間から巡回していて、トラブルを起こした子どもがいるとすぐに保護するという話も聞きます」一方、“西のトー横”こと、大阪の「グリ下」(グリコサイン看板の下の意味)には、子どもたちが犯罪や事故に巻き込まれないようにと、大阪府警南署が今年3月に2台の防犯カメラを設置した。
グリ下に防犯カメラが設置されたことを知らせる掲示物
これら保護対策の強化は一見、地域社会にとって喜ばしいように思えるが、実際はそうでもないらしい。大阪を中心に困窮世帯の親子を支援するNPO法人、CPAO(シーパオ)代表で、関わりのある子たちを追っかけ繁華街へ出向きサポートもしている徳丸ゆき子さんは複雑な思いで見つめる。「グリ下に防犯カメラがついたことで居心地の悪くなった子どもは戎橋やアメリカ村の三角公園、天王寺の繁華街へ、パパ活をする女の子は梅田などへと移動していきました。つまり、キッズたちがバラけたため、支援団体の我々からすれば、あちこちへと行かなくてはいけなくなり、支援活動が大変になってしまった一面もあります」
これまでは大阪の若者が深夜バスを利用してトー横や名古屋の「ドン横」(ドン・キホーテ横。現在は開発のため閉鎖)、福岡の「警固界隈」(警固公園付近)、横浜の「ビブ横」(横浜ビブレの横)など王道の“界隈”へと漂流していた。「それがツイッター(現X)で呼びかけることで、広島の『P横』(パルコの横)、京都の川原町界隈など、さらなるローカル化が進んでいます。大きな繁華街で大勢がたむろしていると捕まりやすいから、バラけて小さい規模で集まるようになっていると若者らが教えてくれました」(徳丸さん、以下同)
炊き出しを用意するCPAO代表の徳丸ゆき子さん
こういった若者は児童相談所の判断で一時保護されることがある。しかし、当然これで解決とはなりにくい。「一時保護所では、スマホを使えないといった窮屈な生活を強いられるうえ、相談員の人数は足りていない。ほとんどのリソースは虐待対応に追われてしまうからです。一時保護期間は原則2ヶ月以内という短期間なので、児童相談所がキッズにできることには限りがある。そのため、一時保護から戻ってくると、『あれは何の意味があったのか』『大人は話を聞いてくれないし、信用できないから嫌い』『児相や警察は敵』と思うようになるキッズも少なくありません。出口支援もなく、再び街に出ていくようになった彼らにアウトリーチ(保護対象者のもとへ出向いて支援する)しても、支援に乗ってもらうことが難しいんです」CPAOの活動当初からアウトリーチ活動をしてきた徳丸さんは、そうした子どもたちへの教育の重要性から次のように考えるようになった。「保護者の中には出所後の就職への影響を考え、できるだけ少年院などの矯正施設に入ってほしくないと考える方も少なくありません。しかし、私は長年支援活動をしてきて、鑑別所や少年院の非行問題を抱える若者に対する専門性の高さを知るようになりました」
一時保護施設に入った子どもたちで、内省ができるようになる子はいないと徳丸さんは話す。一方、少年院では最短で4ヶ月、平均収容期間は約1年。「入所期間中にひとりずつ丁寧に人として向かい合ってもらえる。そして、生活面と勉学面の両方の教育を受けて、人として成長することができるんです。すると、『なんで俺はあんなことしたのか』『今になったら恥ずかしい』『社会に対して悪いことをした』と自分を見つめ直せるようになるんです」それどころか、少年院に入所した子どもたちはこんなことも言っていたという。
グリ下でたむろする若者たち
「『(少年院に入って)初めてまともな大人に出会えたと思った』や『社会に戻るのが不安だからできればずっとここにいたい』という子もいました。一度矯正施設に入った経験がある子は、再び街に出たとしても、キッズたちと一緒になって、自らを傷つけたり、悪いことに手を染めたりすることを踏みとどまるケースが多いように感じます」とはいえ、少年院などの矯正施設に入る子供より、一時保護所に保護される子供のほうが、圧倒的に数が多く、相談員の業務はキャパオーバー状態。さらに、児童相談所の一時保護施設では、虐待を受けた子供と非行の子供が一緒に保護されていることや社会的イメージがよくないのも問題だ。一時保護され、大人を信用しなくなり、再び“界隈”へ……。キッズたちが陥るこの負のスパイラルを断ち切る制度をつくらなければ、行き場をなくしたキッズたちを救うことはできない。取材・文/中山美里集英社オンライン編集部ニュース班※今、悩みを抱えているという方は、「日本いのちの電話」などの相談窓口を、厚生労働省のホームページでは、このほかにも様々な相談窓口が紹介されています。<相談窓口>【日本いのちの電話】・フリーダイヤル 0120-783-556毎日:午後4時~午後9時毎月10日:午前8時~翌日午前8時・ナビダイヤル 0570-783-556午前10時~午後10時