福祉用具の制度改革が進行中!レンタルか購入かの選択制が紛糾するワケ

2023年7月に厚生労働省で開催された社会保障審議会介護給付費分科会で、介護保険サービスの見直しが行われました。その中で、議題の一つに挙げられたのが福祉用具の選択制導入です。
福祉用具とは、介護保険サービスの一つで、日常的に使用する車椅子や介護用ベッドといった介護用品のレンタル・購入をサポートしてくれるサービスです。
具体的には「福祉用具貸与(レンタル)」と「特定福祉用具販売」と呼ばれ、レンタル・購入費の補助を受けられます。
これまでケアマネージャーや専門職などが、レンタルか購入かを利用者に勧めていました。
しかし、今回の議論では利用者が選べる選択制の導入について検討が進められました。その目的としては、比較的安い介護用品などを販売でも提供できるようにすることにあるとしています。
現在、福祉用具をレンタルしている人は約258万人。2020年度の福祉用具貸与の費用額は約3,722億円に上ります。要介護度別では、要介護2以下の方が給付件数の約6割を占めています。
また、福祉用具貸与の事業者の経営状況は安定しています。サービスによって得られる収支差率では、前年比で最も増加した分野でもあります。
一方、福祉用具の販売費用額は2020年度で約163億円。レンタルと比べても低い水準です。
現状ではレンタルにかかる社会保障費が多くなっているため、政府としては販売も活用して少しでも介護にかかる給付費を抑えたいという狙いがあると考えられます。
福祉用具のレンタルが盛んな背景には、利用者にとってのメリットが大きいという点も挙げられます。
具体的には次のようなメリットがあります。
介護用品はどのくらいの期間必要になるのか予測できません。そのため、費用が安く、簡単に利用できるレンタルが主流になっているのです。
一方のデメリットは、購入した福祉用具よりも制限が多いこと。自分の所有物として扱えないので、汚したり傷つけたりしないように気をつけて使わなければなりません。利用にあたってはレンタル事業者の利用規約を守る必要もあります。
また、レンタル品の多くは中古品ですので、どうしても新品がいいという方には向かないかもしれません。
購入の大きなメリットは、自分の所有物となり、余計な気を遣わずに使用できる点です。
また、新品か中古品か自由に選択できることもメリットの一つです。たとえば、介護ベッドなどは他人が使用したものを敬遠される方もいるでしょう。しかし、レンタルの場合は新品を指定することはできないため、誰が使用したかわからないものを利用しなくてはなりません。
一方で、購入の場合は当然ながら費用が高くなります。そのうえ、身体の状況に変化があっても交換することはできず、メンテナンスも自身で行う必要があります。
不要になったとき処分に困る可能性もあります。
このように、購入かレンタルかによって、それぞれメリットとデメリットがあるのです。福祉用具の制度改革が進行中!レンタルか購入かの選択制が紛糾す…の画像はこちら >>
現在、福祉用具のレンタルか販売かについてアドバイスを送る専門家として、福祉用具専門相談員がいます。
福祉用具専門相談員は、利用者の心身の状況、どんな生活を送りたいかという希望、現在の住環境などをアセスメントし、専門的な知識にもとづいて福祉用具についてアドバイスを送ります。
また、福祉用具の機能、安全性、衛生状態などについての点検・調整なども行っており、適切に使用するための支援も行います。
さらに利用者ごとに福祉用具サービス計画を作成し、ケアマネージャーなどと情報の共有を図ります。
2021年時点で、福祉用具専門相談員は、全国に3万5,899人。そのうち約8割が50時間の講習を修了した者で、各福祉用具貸与事務所に約4.2人が所属しているとされています。
社会福祉士や介護福祉士など、そのほかの資格を持っている人は少なく、多くが福祉用具貸与事業所などで勤務するために資格を取得していると考えられます。
つまり、事業者の意図が反映されやすいというケースもあるかもしれません。
福祉用具専門相談員は、福祉用具をいかにして活用すればいいかアドバイスや支援を行う専門職ではありますが、すべての方が介護全般の専門家というわけではありません。
レンタルか購入かで考えれば、レンタルのほうがコストも抑えられるうえに使用期間などの自由度が高いので、利用者にレンタルを勧めるケースが多くなるのも当然です。
利用者が自身で選択できるようになると、「高齢者の状態変化に対応できない」「貸与でないとメンテナンスや安全性の確保が難しい」といった懸念があるのも事実。
しかし、特定の事業所に勤務する福祉用具専門相談員のアドバイスが優先されすぎるのも問題があるかもしれません。
そこで、レンタルか購入かの判断をする際、ケアマネージャーと利用者の意見が重視されるような体制づくりが必要ではないでしょうか。
何よりも利用者がより良い生活を送れるような制度づくりが求められています。