夏休み明け、子どもたちの「つらいな」「しんどい」というサインに気づくために大人たちができること…SNSが加速させる学校コミュニティの閉塞感

9月1日は新学期開始や防災の日として知られている。しかし、一方で夏休み明けのこの日は子どもにとってリスクが高まる日でもある。そこには若者ならではのさまざまな問題が横たわっていた。
今年3月の厚生労働省の発表によると、2022年の小中高校生の自殺者は514人で、統計がある1980年以降、最多となった。そのなかで、“1年間でもっとも自殺が多い日”がある。それが9月1日だ。(「平成27年版自殺白書」18歳以下の日別自殺者数より)
「平成27年版自殺白書」18歳以下の日別自殺者数より
グラフを見ると新学期、ゴールデンウィーク明けといった長期休暇、大型連休後に自殺者数が増えていることがわかる。「学校に行きたくない」という心理が自ら死という道を選ばせているのだろうか。自殺対策推進センターが2009年から2021年を対象期間として調査したところによると、「学校問題」を自殺の原因、動機としていた割合は、小学生で男子21.9%、女子21.7%、中学生で男子31.0%、女子38.6%、高校生で男子35.6%、女子27.9%が該当する。特に「学校問題」に該当した中学生女子の中で、「(いじめ以外の)その他学友との不和」を原因、動機としたケースが12.3%だった。
「みんなスマホを手放せないんですよね。『すぐに返信をしないと“ハブ”られちゃう』『何を言われるかわからない』とノイローゼのようになっている子もいます。夜中でも着信音が鳴ったら起きてスマホを見るそうなんです」そう話すのは困窮世帯の親子を支援するNPO法人・CPAO(シーパオ)代表の徳丸ゆき子さん。今の若者世代にスマホは必需品。メッセージアプリやSNSなどの普及もあって、友人と交流する時間は学校にいる間に限定されないことも大きいのだろう。徳丸さんは続ける。
繁華街のキッズと交流する徳丸ゆき子さん
「昔は学校でいろいろあっても、家に帰れば学校生活とは区切ることができていた。でも、今はずっとネットでつながっている。そのつながりをおろそかにするとハブられてしまう。だから、どこにいても、何をしていても、ずっとスマホを手放さずに通知を見ておかなければならないし、すごく気も使うそうなんです」だからなのか、子どもたちは精神的に強いつながりを持つ親友、いわゆる“ニコイチ”の存在が重要なのだという。「SNSのプロフィールにも、誰とニコイチなのかを明記したり、スマホのGPSを常にオンにしていて、お互いがどこにいるのかをわかるようにしている。そして、『一生一緒にいようね』『ニコイチに裏切られたら死ぬ』と強い絆を求めるんです」
また、多様性が叫ばれて久しい昨今だが、皮肉なことにインスタグラムやTikTokといったSNSの一般化によって、ルッキズムに拍車がかかっているそうだ。容姿の良し悪しはフォロワーの数やPV数、いいねの数に影響することがその理由のひとつだろう。「そうすると、例えば、“ブス”といった誹謗中傷を受けたとき、『気にするな』という慰めは無意味。一度、そのようなレッテルが貼られてしまえば、コミュニティの狭い子どもにとっては逃げ場がないのも問題です。また、女子の場合はかわいいからイジメられるパターンもあります」(徳丸さん)こうして学校に行きづらくなってしまった子どもたちは、トー横をはじめとする、いわゆる“界隈”へと足を向けるのだ。
行き場を失いトー横に集まる若者たち
実際、子どもたちに話を聞いてみると、「学校はつまらない。学校の子とは話が合わない」「(精神的な病気を抱えている)自分を腫れ物のように扱う。また、病気のことなどを話せる友達もいない」などの声が聞こえてきた。「ここに来れば自分と合う人と出会えるかもしれない」と思い、遠方から足を運んできている子どももいた。学校へ行くことを苦痛に思うことが、こうした界隈へと流れたり、「9月1日問題」の遠因となっている。どうすれば解決できるのか。その糸口を見つけるのは簡単ではないが、徳丸さんはその対策としてこのように語る。「『自殺しかない』と選択させないためには、よりしんどい状況におかれている子どもを地域で、見守り育てることが大切だと考えています。また、子供だけでなく、その保護者を励まし、サポートしていくことも必要です。そうすれば、子供たちが足しげく繁華街に通うことも防げるのではないでしょうか。予防的な観点からも、地域支援の大切さを改めて痛感しています」取材・文/中山美里集英社オンライン編集部ニュース班※今、悩みを抱えているというかたは、「日本いのちの電話」などの相談窓口を、厚生労働省のホームページでは、このほかにも様々な相談窓口が紹介されています。<相談窓口>【日本いのちの電話】・フリーダイヤル 0120-783-556毎日:午後4時~午後9時毎月10日:午前8時~翌日午前8時・ナビダイヤル 0570-783-556午前10時~午後10時