〈59年の歴史に幕〉村西とおるやロバート秋山も通っていた伝説の純喫茶「珈琲西武本店」が閉店…常連客が店の思い出を語る。実話誌編集者がよく目にしたある勧誘とは?

1964年に創業し、新宿駅から徒歩3分というアクセスのよさから純喫茶の名店として人気だった「珈琲西武本店」。この老舗喫茶がビルの老朽化に伴い2023年8月31日をもって閉店する。時代とともに歩み続けた憩いのスペース、その思い出を常連客たちに聞いた。
「珈琲西武本店」は東京オリンピックが開催された1964年に創業し、その歴史は半世紀を超える59年を誇る。新宿三丁目にあるこの老舗喫茶の店舗責任者は、開店当時のことをこう振り返る。「1964年当時は喫茶店ブームで近隣にも大箱店舗が数店舗ありました。昭和の時代、平日は近隣のビジネスマンやデパート勤務のかたなどで賑わい、週末は新宿御苑や厚生年金会館で催されるイベント帰りのお客さまで席が埋まっていました」
敏腕営業マンだったころの村西氏もお世話になった
当時、足しげく珈琲西武本店に通っていた客のひとりに、“アダルトビデオの帝王”と呼ばれる前夜の村西とおる氏もいた。村西氏は言う。「(珈琲)西武の近くに東京本社のあった百科事典販売会社『グロリア』で、全30巻20万円の高額百科事典セットを営業マンとして売り歩いていたころ、よく通っていました。目的はまさにナイスなウエイトレス嬢目当て。当時、西武は『美人喫茶』と呼ばれるほどウエイトレス嬢に美人が多かったんですよ。内装も高級感溢れる“都会のオアシス”といった趣でした」
やがて時代は平成に移り、客層は多様化する。岩手から上京以来約30年、平成の珈琲西武を客席から眺めていた「実話ナックルズ」の名物編集者、バーガー菊池氏も思いを馳せる。「ヤクザ、詐欺師、不良系、アダルト系の女優や男優、マネージャーなどさまざまなかたとの取材や打ち合わせに使いました。さえない大学生がふたりのセールスマン風の男にマルチ商法の勧誘を受けていたりと、まわりを見渡せば金の話ばかりだったのが印象的でしたね」
珈琲西武の店内。非常にレトロな雰囲気
マルチが横行していた背景をバーガー氏がこう分析する。「歌舞伎町区役所通りにある某喫茶店は本業(ヤクザ)がいて怖いんですが、西武は駅もルミネも近くて邪悪な感じもせず、なんとなく文化的な香りがするから、ついつい安心してしまう雰囲気があるんだよなーと思って眺めてました」
バーガー菊池氏
また、「水商売系の面接をしているのもよく見かけた」(バーガー菊池氏)らしく、グラドルやセクシー女優の事務所関係者も、ここを勧誘の場として頻繁に利用していたらしい。その当事者のひとりが、今年7月に第一子を出産した未婚の母にして、Kカップグラドル兼ど底辺ライターの吉沢さりぃさんだ。
名物『自家製プリンのプリン・ア・ラ・モード』と吉沢さりぃさん
「20歳のころ、池袋を歩いてたら『グラビアアイドルにならないか』とスカウトされて、後日、会う場所として指定されたのが西武でした。店内はステンドグラスとかがゴテゴテしてて怖いなーと思ってたら『実はグラビアじゃなくてアダルトビデオなんだけど』って言われて、マジか……と。もちろん、断りましたよ」
珈琲西武は芸人のネタにされることもあった。お笑い芸人に詳しいライターは言う。「『ルミネtheよしもと』の出演の合間にロバートの秋山(竜次)さんがよくここに来てたみたいです。そこで見たマルチの勧誘の一部始終を深夜番組の『はねるのトびら』の人気コント『グローバルTPS物語』の中で再現したら、再び西武に来店した際、『運びが完璧すぎるので、ぜひうちでやりませんか』と本物のマルチ関係者からスカウトされたこともあったみたいですよ」そして、時代は令和へ。昨今のレトロブームで新たな客層も獲得していた。前出の老舗喫茶の店舗責任者は言う。
フードが充実しており、SNS映えするメニューも多かった
「インスタグラムなどのSNSに投稿するためなのか、最近は若い女性客が増えていました。特に、写真映えするパフェ類や『自家製プリンのプリン・ア・ラ・モード』の注文数が増加傾向にありましたね」しかし、その弊害か、逆に古参客の足は遠のいていたとも。「30分待ちもザラにあったから、最近はめっきり行かなくなっちゃいましたね……」(前出・バーガー菊池氏)そうして59年の幕を下ろす珈琲西武本店。しかし、10月1日から歌舞伎町に場所を移し、「ハナミチ東京 歌舞伎町」としてリニューアルオープンすることが決まっている。新たな店舗について現在の珈琲西武の店舗責任者はこう話す。
移転の案内
「現在使用しているソファーやステンドグラスなど、珈琲西武を象徴するものはそのまま移設し、レトロな空間を可能な限り残したいと考えております。それとは対照的に、オーダーシステムなどは新しい技術も取り入れてまいりますので、引き続き、みなさまに心地良い空間を提供できるよう努めてまいります」“新生・珈琲西武”にはどんな客が訪れるのか。それを観察するのも、この店で時間を過ごすまた新しい醍醐味のひとつだろう。取材・文/河合桃子集英社オンライン編集部ニュース班