「即日高額案件ございます。ハイリスクハイリターン、全力でサポートします」大手求人サイトにまで載る闇バイト募集。若者が人生を搾取されてしまうその実態と勧誘システム

昨今世間を騒がしている『闇バイト』。SNSでの甘い誘い文句だけでなく、大手求人広告サイトにもその求人が載っていた事案があるという。若者にとって如何に身近な存在であるか、また、一度でも関係を持ってしまったら抜け出すことが困難なシステムなど、その実態を紹介する。
闇バイトの勧誘システムは、地元の地縁関係に基づくものと、ツイッターなどのSNSを通してなされる非対面式のものの二つがあるように思われます。もっとも、昨今では、大手求人サイトに堂々と闇バイトの求人が掲載されていたというから驚きです。読売新聞の記事には、「高齢者をだます特殊詐欺グループが、大手求人サイトなどに求人広告を出し、現金受け取り役を集めていることが警察庁への取材でわかった。東京、愛知、福岡など七都県警が昨年、求人に応じた男女38人を逮捕した。『闇バイト』を募る違法な求人にあたるとして、警察庁と厚生労働省が対策強化に乗り出す。悪用が確認されたのは、大手求人サイト『インディード』『エンゲージ』と、掲示板サイト『ジモティー』など。『高収入』をうたい、『ハンドキャリー』『回収』のアルバイトなどと称して人材を募っている」とあります(「読売新聞オンライン」2023年3月16日)。
まったく、油断も隙もありません。求人に応じた男女38人を逮捕とありますが、彼らは面接に行った時点で、断れなかった可能性があります。応募依頼のあった企業のことをよく調べずに、犯罪性のある求人を掲載したとされる大手求人サイトの責任は問われないのでしょうか。筆者が取材した10年ほど半グレを経験した人物によると、半グレは地縁的ながりの延長にあると言います。つまり、先輩・後輩関係から、犯罪の仲間になっていくということです。そして、その関係は、カネに始まり、カネに終わるドライなものと言います。証言を見てみましょう。(特殊詐欺や強盗などの)シノギは伝手で動くことが多い半グレにも、仲間内のがりというか、統制みたいなものはありますよ。自分たちの場合は地元のがりですね。先輩には逆らえない。でもヤクザのように「オヤジ」とは呼ばないで、先輩は「先輩」ですけど。ただ統制とはいっても、実際は弱い。先輩もそこまで厳しくない。いまの人は上下関係を知らないから、厳しくしたら付いてきません。半グレはヤクザと違って「部屋住み」などないし、「当番」もない。カネを稼がせてくれるかどうかだけでがっているに過ぎません。人に従い統制が取れるのではなく、カネを稼がせてくれるから付いているだけ。先輩から札束を見せられ、「お前らも頑張ればオレのように稼げる」などと言われて頑張るが、結局は体よく利用されて、大きなカネは稼げない。指示待ちでアタマを使えない奴は、コマに過ぎないということです。要は、カネに始まり、カネに終わる。カネを稼がせてくれる奴はえらい。利害関係のみで仲間が集まっている感じです。絆は弱いし、その点はヤクザとは違う。半グレはツルむレベルだから組織とは呼べないですし。
次に、特殊詐欺などの人員を手配したことがある半グレの証言を紹介します。ただし、この人物の人員手配は、SNSではなく、やはり地縁的な友人知人のがりを介したものです。周りや東京の連中から聞いた「オレオレ(詐欺)」の話だと、かけ子は20%、受け子は10%の報酬。これはケース・バイ・ケースだと思います。大阪も同じで、これ(報酬)は話を持ってきた人間のさじ加減で、どうにでも変わるようです。自分らは、かけ、受けの紹介をすることはあったと言いましたが、かけ20%、受け10%と言われても交渉をする。たとえば、その報酬でいいが、そいつがパクられたときは、かかる弁護士代はそちらで見てくれとか。もし、それができないのであれば、それもブッ込みで10%アップしろとかです。いずれにしても、このかけ20%、受け10%は平均ラインに過ぎない。汚い奴ほど自分が多く持って行こうと考えるのは、どこの世界も同じでしょう。だから、青少年を安く使うんでしょうね。こうした地縁型に加えて、闇バイトの人員は、SNSで募ることが多いようです。SNSでは、たとえば、次のようにシンプルな文面で募集しています。「即日高額案件ございます。ハイリスクハイリターン、我々の方で全力でサポートさせて頂きます。単価500~1500万案件多数です。#闇求人#闇バイト#叩き#アポ電#裏バイト#裏仕事#強盗#即金#高額案件」コロナ禍で困窮し、仕事を失った非正規労働者や一人暮らしの学生は、こうした募集に騙されるかもしれません。一度だけ、この窮地を抜け出すためにと考えて闇バイトに応募したら、先述した闇バイト組織の人間が言うように、恫喝によって逃げられないようにします。そのために、闇バイトに応募してきた人には、免許証の写真を送らせたりすることで個人情報を聴き出し、「(闇バイトを)抜けるなら家に行くからな」とか、「裏切ったら個人情報をネットで晒すぞ」と脅かすことで、一度入ったら抜け出せないようにして、犯罪を続けさせるのです。
あるいは、「お前、強盗やったよな。犯罪者なんだから、お前の個人情報をネットで拡散するよ。人生終わりになるけどいい?」などと脅されることで、闇バイトの集団に飼い殺しにされ、第二、第三の犯行を重ねることになるのです。
「コロナ禍になってから、20~30代の会社員とかが応募してくることが多くなった気がする。それまで若い女は借金があっても会社に黙って夜のバイトをするとかいう選択があったじゃん。けど、そういう仕事がコロナで減って、俺らみたいな仕事に飛びついてくることが多くなったみたい。年々警察の取り調べは厳しくなってるけど、俺らとしてはより優秀なヤツらを雇ってうまくやっていく感じになってる」(同前)筆者が、2023年に面談した元半グレ幹部によると、闇サイトの発達・普及は、五菱会事件(五菱会とは、多重債務者リストをもとにDMを送り、無担保融資を募る闇金融のシステムを構築した組織です。借金の返済期限が近くなると、傘下の新たな闇金融が新規の融資を持ち掛け、借りた客の借金を膨らませるという悪質闇金融。)以降、当局が手配師を壊滅させたことの反作用ではないかと言います。
昔は、闇金と裏社会が手配師を介してがっていたそうです。この手配師が、借金まみれの人間を犯罪に回す傾向があったのですが、この手配師が五菱会事件で失業したため、人員集めは、闇サイトに頼らざるを得なくなったのではないかと見ているのです。昨今では、借金が嵩んでも犯罪に手を染めようとする人間が減ったこともあり、余計に闇サイトが犯罪者に重宝されているそうです。五菱会の闇金システムは、借金を返せなくなった人間を、他の闇金に流して、さらに借金させるシステムでしたから、犯罪を計画する者が、名簿や個人情報の重要性にも気付く契機にもなったのではないかとも指摘していました。
文/廣末登写真/shutterstock
廣末 登
2023年7月3日
¥1,023
224ページ
978-4396116835
「闇バイト」がなくならないワケとは?二〇二三年一月一九日、東京都狛江市に住む九〇歳の女性が自宅で殺害されているのが見つかった。女性の遺体には激しい暴行の跡が見られ、これまでとは次元の違う強盗殺人事件として世間を震撼させた。本件をきっかけに注目を集めたのが、「闇バイト」といわれる犯罪だ。指示役に集められた素性のバラバラな集団によって行なわれる犯罪で、同種の事件は後を絶たない。中でも詐欺よりも手っ取り早く稼げる「タタキ(強盗)」の増加が危険視されている。本書では、非行経験のある犯罪学者が当事者たちを取材。闇バイトを取り仕切る半グレや犯人の更生に従事した保護観察官の声から見えてくる、その真実とは。最終章では、闇バイトを生み出す日本社会の闇を分析。失うもののない「無敵の人」を生み続ける構造に警鐘を鳴らす