需要爆上がり レオパルト1持ってる国どこだ! ドイツの「横流し作戦」でぼったくりの応酬!?

ウクライナで、古い第2世代戦車のニーズが急上昇。これに目を付けたドイツが、供与のため第2世代戦車を保有する各国からの調達を模索しますが、それぞれの利害もあり一筋縄ではいきません。そこで持ち上がったのが「三角取引」です。
ロシア軍が「T-62」戦車を引っ張り出したり、西側諸国が「レオパルト1」をウクライナに供与したりするというニュースが流れた時、そんな旧型戦車を持ち出して何をするつもりだというコメントがSNS上に溢れました。世はすでに「M1エイブラムス」や「レオパルト2」という、120mm主砲に複合装甲や反応装甲、1500馬力エンジン、デジタル機器満載の第3世代戦車の時代であり、105mm主砲や従来型の鋼板装甲、1000馬力未満のエンジン、アナログ機器を搭載した第2世代戦車の出る幕ではないと思われるのも当然でしょう。
需要爆上がり レオパルト1持ってる国どこだ! ドイツの「横流…の画像はこちら >>パレードするギリシャ陸軍のレオパルト1A5。レオパルトGR21と呼ばれる場合もある(画像:ギリシャ国防省)。
ところがウクライナの戦場では、頼りになる歩兵の援護者としてニーズが高まっています。
第3世代戦車と比べれば走攻守とも見劣りしますが、ウクライナの戦場では戦車同士の戦闘がほとんど起こらず、歩兵援護のためなら歩兵戦闘車よりもずっと強力ですし、複雑なデジタル機器満載の第3世代戦車よりも扱いやすく、即戦力になるのです。両軍とも戦車戦力の消耗は激しく、ほとんど見向きもされていなかった第2世代戦車の需要が爆上がりして、今や品薄になるという皮肉です。
そのようななか、ドイツは各国の在庫を探し回っていて、レオパルト1A5を520両も保有しているギリシャに目を付けました。ギリシャはバルカン半島の先端にある地中海に面した海洋国家ですが、意外にも戦車保有台数は1365両を数え、2023年現在は欧州第2位の戦車大国です。レオパルト2A6を170両、2A4も183両保有しています。
しかし、2023年1月31日に実務訪問賓客として来日したギリシャのミツォタキス首相は、「ギリシャは戦車を提供しない」と明言していました。
なぜギリシャは、こんなに多くの戦車を抱え込みながらもウクライナへの提供には消極的なのでしょうか。それは隣国トルコの存在です。ギリシャとトルコは共にNATO加盟国でレオパルトユーザーですが、決定的に関係が険悪です。トルコは2023年現在の戦車保有台数が2300両を超える欧州第1位の戦車大国であり、ギリシャにしてみればトルコを睨んで1両たりとも戦車を減らしたくないのです。
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ギリシャ陸軍のレオパルト1A5(画像:YVES DEBAY)。
2022年5月31日、ギリシャからBMP-1歩兵戦闘車40両をウクライナに供与し、穴埋めにドイツがマルダー1A3歩兵戦闘車をギリシャに送るという協定が発表されました。当時、ドイツ政府はウクライナへ戦闘車両を直接供与することに及び腰で、ギリシャを介した「三角取引」で間接的にウクライナを支援する姿勢を示してお茶を濁そうとしていました。
この協定でさえも、ギリシャ国内では「すぐにドイツが40両分を穴埋めしてくれるか分からない。実質的に戦力ダウンになるのではないか」と反発を呼んだほどでしたが、ドイツは40両のマルダーの引き渡しを、2023年7月末までに完了しています。
もうひとつドイツが目を付けた在庫が、イタリアに96両あるレオパルト1A5です。しかしこの在庫を買い付けるにもハードルがありました。所有しているルアグAG社はスイスの会社で、スイスの連邦議会は2023年7月末、中立政策と戦争物資法を理由に、ウクライナ供与のためのドイツへの売却は現行の法的枠組みでは認められないと判断したのです。
スイスは武力紛争に巻き込まれた国への武器の輸出を禁じており、特に戦争物資法はスイスから輸出された武器が第三国を通して紛争当事国に再輸出されることも認めていません。その国が侵略を受けていても姿勢は変わらないという厳しいものです。
これらの在庫を手に入れるため、ドイツ政府は一計を案じます。マルダー歩兵戦闘車の際にも使った「三角取引」の提案です。ギリシャからレオパルト1A5を100両買い取ってウクライナに供与し、その穴埋めにイタリアにあるスイスのルアグ社所有のレオパルド1A5の96両をギリシャに提供するというものです。
ギリシャの戦車保有数はほとんど減らないうえに、補充される戦車はドイツ政府が全額負担のもと、ギリシャの施設またはギリシャ政府が選択する場所で完全なオーバーホールと修復を受けられます。ギリシャが保有するレオパルト1A5は、予備保管や訓練用でほとんど近代化改修されていないものでした。
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トルコ陸軍のレオパルト1A5。ギリシャと対立関係にあるトルコも同じレオパルトユーザー(画像:トルコ国防省)。
ただしスイス政府の立場も微妙です。最終的には連邦議会の承認が必要になりますが、ウクライナへの納入は拒否するも、ウクライナへの供出で手薄になったNATO加盟国への補充なら武力紛争当事国ではないということで認める、という方向です。
これほど複雑な取り引きが行われるまで、第2世代戦車の市場価値が爆上がりするとは誰が予想したでしょうか。
2019年にルアグ社は、ドイツのグローバル・ロジスティクス・サポート社に25両のレオパルト1A5をわずか1万4133ドル(約200万円)で売却しました、1両当たり560ドル余り(約8万円)で、ほとんど屑鉄回収費です。これら戦車は、もともとルアグ社が2016(平成28)年に1両約4万8000ドルで仕入れたことが分かっており、2019年の安すぎる売却額は大きな差損を出し背任にもつながりかねない問題になりました。そのため、ルアグ社が損を取り返そうとばかりに売却価格を「吹っ掛けてくる」ことは間違いなさそうです。