なぜ新型「センチュリー」はこのカタチになった?

トヨタ自動車の新型フラッグシップショーファーカー「センチュリー」は、歴代モデルで初となるSUVスタイルのボディ形状で登場して話題を呼んだ。トヨタとしてはSUVと呼ばず、あくまで「新しいセンチュリー」だと認識してほしいようだが、それならなぜ、このカタチにしたのか。開発責任者とデザイン担当者に開発の経緯を聞いた。

○セダンとミニバンのいいとこどり?

開発責任者を務めるトヨタ MS製品企画 副部長 ZS 主査の田中義和氏によると、セダンのセンチュリーだけでは対応しきれないVIP向けショーファーカーの需要が顕在化してきているそうだ。

「長い歴史のあるセダンのセンチュリーは、ものづくりの良さと匠の技が込められた日本を代表するショーファーカーだと思うのですが、次世代のグローバルリーダーは、伝統的なセンチュリーを『自分が乗るクルマではない』と思っていらっしゃるようです。つまり、ラグジュアリーやフォーマルといった価値観が多様化してきているんです。ミニバンの『アルファード』をショーファーカーに使う弊社の豊田章男会長もその一人です。こうした流れもあり、新しい価値をセンチュリーに与えるべく新型を開発しました」(以下、カッコ内は田中氏)

ショーファーカーのカタチは多様化している。それには理由がある。

「ミニバンなど、いろいろなカタチのショーファーカーに乗っていらっしゃるお客様に聞いてみると、『もう狭いクルマには戻りたくない』との声がありました。一方で、普段はミニバンを使っていても、オフィシャルな場所にはセダンのセンチュリーやメルセデス・ベンツで出かける方も多いんです。1台で両方の価値を満足させられるクルマをと考え、出した答えがこのカタチでした」

ミニバンは車内の広さこそ圧倒的だが、ボンネットフードがないか、あるいはあっても極端に短いため、外見的にショーファーカーとしての要求を満たしていないとの見方もある。SUVであれば「究極のVIPである皇室の方がお乗りになっても、このカタチならふさわしいのではないかと思っています。その場合はセンチュリーセダンと同じブラックとシルバーの2トーン(麟鳳・りんぽう)やブラック一色が合うのではないでしょうか」というのが田中氏の見解だ。

○細部まで見てもセンチュリーそのもの

新たなパッケージで登場したセンチュリーだが、誰が見ても気が付く“らしさ”はきちんと継承している。特にサイドから見ると、リアに重心を置いた伝統のスタイルがSUVでも健在であることは一目瞭然だ。織り機の「杼」(織物を織る際、経糸の間に緯糸を通すのに使う道具。シャトルとも呼ばれる)をモチーフにしたデザインで、セダンボディから連綿と続くセンチュリーの代名詞である。そこに、さらに細い面を作って線に見せる「几帳面」のキャラクターラインを通すことで質感を上げているのも、センチュリーの伝統芸だ。

鳳凰のエンブレムも手が込んでいる。金型の鱗や毛並みの部分など、細かなところは機械で加工できないそうで、それを今では1人しかいない彫金の職人が、「タガネ」と呼ばれる専用工具を使い、模様を入れて作り上げているという。

センチュリーといえば徹底的に磨き上げられた「鏡面磨き」の塗装面が伝統なのだが、今回はSUVタイプになったことで、磨く面積が大幅に拡大した。これにともない、当然ながら磨きの作業時間も増えているそうだ。

プラスチック塗装のバンパーパーツも同様に面積が増えている。トヨタの担当者によると、塗装したばかりのバンパー部分は光に当てると少し見えるくらいに凸凹しているそうで、普通のクルマであればそれでもOKのレベルなのだそうだが、センチュリーでは複数の工具を使い、3段階の仕上げ作業を行っている。「がんばってドア部分に負けないような鏡面仕上げとしています」と担当者は話していた。
○ボディカラーやカスタムオーダーで多彩に

デザイン担当者にはボディカラーについて話を聞いた。今回の新型センチュリー発表会では、セダン同様のブラック&シルバーだけだと変化を感じてもらえないので、新たなメッセージとしてガンメタ(プロミネントグレー×シルバー、黎明・れいめい)やGRモデルのカーキ、さらにはホワイト(プレシャスホワイトパール×シルバー、白鶴・はっかく)も加えたそうだ。

大小のカスタマイズにも自在に対応できるという。ハードな足回りのGRモデルなら自らステアリングを握る走り屋のオーナーを満足させられるだろうし、レールなしの独特な開閉機構を持つスライドドア仕様であれば、ドレス姿でパーティー会場に向かう女性ユーザーでも、不安なしに乗り降りすることができそうだ。究極のカスタマイズとしては、オープンエアーを楽しめるコンバーチブルモデルも検討中とのこと。トヨタは「世界で1台のセンチュリー」を作り上げるプランを準備中で、決定次第発表するとのことだ。

ベントレー「ベンテイガ」、メルセデス・マイバッハ「GLS600」、ロールス・ロイス「カリナン」など、ショーファーカーとしてセンチュリーのライバルとなりうる海外の超高級SUVモデルはたくさんあるが、考えてみれば彼らの歴史はまだ始まったばかり。ラグジュアリーセダンやスーパーカーなど、すでにブランドが確立してしまったカテゴリーではすぐに追いつけそうにないが、ショーファーカーの分野であれば、トヨタはまだまだ勝負が挑めるはずだ。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら