新型コロナによる行動制限が緩和され、インバウンドが復調しつつある日本。日常でも外国人観光客が賑う光景が見られるなか、とある飲食店によるSNSでの投稿が波紋を呼んでいる。
《17時50分入店の中国人団体、30名、突然キャンセルwwwww さすがだ!》
9月8日、X(旧Twitter)でこう呟いたのは東京・墨田区にある創業明治22年の老舗割烹料理店「割烹 三州家」の公式アカウント。投稿には、食事の準備がされている広間の写真も添えられていた。その後の投稿では《キャンセルの残骸。当店のスタッフでおいしく召し上がらせていただきます》と、天ぷらが盛り付けられた皿が並んだ写真とともに報告(現在はどちらも削除済み)。
しかしこの投稿に、《さすがだ!ってどういう意味ですか?》《何が「さすが」なのかな?》といった声が。また、当時は台風13号が関東に接近していたこともあり、《台風があるからな 日本旅行楽しみやったろうに……》《台風でたどりつけなかったのかな》といった声も上がっていた。
数々の反応を受け、店は翌9日に釈明文をXに連投。《昨日のキャンセルについての投稿ですが、台風の影響によるものではありません》と否定した上で、こう説明したのだった(投稿は全て原文ママ)。
《20分後に到着するというお電話を下さり、その17分後にキャンセルの電話をいただきました。「さすがだ」意味は差別ではなく、100%のキャンセル料を支払ってでも海産物拒否という、リッチな考え・行動に対してです》
《その点については誤解を招く表現をしてしまい申し訳ありませんでした。なお、台風によるキャンセルと受け止められている間違いが危惧できますので、昨日の投稿を数時間後に削除させていただきます。ご迷惑をおかけいたしました》
《「さすがだ」「リッチな考え・行動」についてですが、人種差別の意図は全くありませんでした。前払いで数万円もするコースご予約されたのに、当日ご来店されない各国のお客様もまれにいらっしゃいます》
《世界各国と日本の金銭的価値観の違い、これぐらいの金額ならばキャンセル料を支払ってもいいと思う額の違いに驚かさた発言でした。ということで、該当の投稿を削除させてただきます》
しかし、この説明の受け止め方はユーザーによって様々だったようで、疑問点を指摘する声が続出する事態に。
《海産物拒否します!って言われたんですか?》《なんで台風の影響じゃないと断言できるのか分からない》《海産物拒否がキャンセル理由なのか、投稿者が思ったことなのかわからん。キャンセル理由何だったんでしょう》
だがいっぽうで、30名もの団体客にドタキャンされた店を同情する声も寄せられている。
《“海産物拒否“の手段として、このキャンセル行為は良くない》《謝る必要なんてないですよ いちいち相手にする必要ない》《せっかく作った料理を無下に扱われて可哀想… 応援しています》
■「旅行会社経由でのご予約だった」「決してお客様への批判ではない」
いったい、何が原因で予約をキャンセルされてしまったのだろうか?また、《さすがだ!》と投稿した真意とはーー。本誌が9月12日に三州家に電話で問い合わせると、担当者が経緯を語ってくれた(以下、カッコ内は担当者)。
まず担当者によれば、「旅行会社経由でのご予約だったんです」とのこと。団体旅行ではホテルやレストラン、観光施設等に到着する前に、ツアーガイドが到着予定時刻を連絡する「入れ込み電話」をすることが一般的とされている。
担当者は、「この入れ込み電話が予約時刻の20分前に入ったので、それを合図に当店もお食事の準備に取りかかりました」と説明。だが予約時間の直前に、キャンセルの連絡が入ることに。Xの投稿からは3分前と推察できるが、実際には「1分半前にキャンセルの電話が入った」という。
そして肝心なキャンセル理由について問うと、担当者はこう語った。
「はじめは(キャンセル理由を)書かない方が良かったかなと思ったのですが、実際のところ海産物が理由でした。旅行会社を介しているので、事前に打ち合わせはしていたんですね。『この料理には海産物が含まれています』というのは伝えていました。旅行会社様は『それでも構いませんので、出してください』とのことだったので、承った次第です」
またキャンセル料については、「インバウンドのお客様の場合、前金でお代金を頂戴しております。理由としましては、万が一のことがあった場合、海外まで集金に行くことが難しいためです。海外から来られるお客様には一律に、そのようにお願いしております」とのこと。
いっぽう、Xの投稿が炎上してしまったことをどう受け止めているか尋ねると、担当者は「事実関係を知らない方もいらっしゃるので、事実ではないことが入り混じった情報が拡散してしまった」と言及。その上で、こう続けた。
「はじめは『台風の影響でキャンセルになったのではないか』『台風の影響を考慮しない店はなんだ』といった風に、批判を浴びてしましました。ですが、旅行会社様から入れ込み電話を頂戴していましたので、台風の影響ではないことは確かです。また今回ご予約のあった団体のお客様は、過去3回も当店をご利用いただいております。今回で4回目だったので、旅行会社様とも懇意になっておりました」
そして波紋を呼んだ《さすがだ!》の投稿については、予約をキャンセルした団体客を皮肉ったり、非難したりする意図はなかったという。
「そもそも『さすが』という言葉は批判の時には使わず、誉め言葉として使うのが通常かと思います。私もそのつもりだと思っております。また当店には、数万円単位の高額なコースもございます。そういったコースをご注文されたにもかかわらず、当日キャンセルをされる外国人のお客様もいらっしゃいます。
そのようなお客様について、『リッチだな』『すごいな』と感じるんです。逆に申し上げると、そこで日本との格差を感じてしまうと言いますか……。『日本はこんなに貧しくなってきちゃったのかなぁ』と。
外国のお客様というのは、予約をしても違う目的ができれば高額でもキャンセルされることがあります。そういう場面に遭遇するたびに、ただただ驚いております。『さすが』というのは決してお客様への批判ではなく、外国のお客様の考え方やお金の使い方を尊敬するという意味です」
また担当者は「当店は積極的にインバウンドのお客様を受け入れておりまして、中国のお客様向けにも銀聯カードに加盟するなど歓迎しております」とも言い添え、最後まで“批判する意図はない”と主張していた。