〈横浜・ラーメン店店長殺人〉1杯500円、“うまくて安い”人気店店長はなぜ親族に殺害されたのか? 第一発見者の母親はパニック状態、現場は「とても正視できない」…逮捕された坊主頭の従業員の評判は…

殺人犯は親族だった。横浜市港南区上大岡西のラーメン店「らーめん弘」の店内で9月15日、店長の大橋弘輝さん(33)が腹や背中などを刺されて血を流して倒れているのが見つかり、搬送先の病院で死亡した。神奈川県警は17日夜、親族で同店従業員の大橋昭仁容疑者(35)を殺人容疑で逮捕した。同店は京急・上大岡駅近くで「500円ラーメン」として知られた人気店で、常連客は衝撃を受けていた。
2015年にオープンした同店はカウンターのみの小ぶりなつくりで、昼番を店長の弘輝さんが務め、夜番は昭仁容疑者に交代するスタイルで営業していたが、事件当日は夕方になってもシャッターが閉まっていたという。近くの飲食店店主がこう振り返る。
殺害された大橋弘輝さん(本人SNSより)
「事件の日は大雨が降ったんで、こりゃ今日は客足も悪いだろうなと思っていました。その雨も上がって、夜の部としてラーメン屋が営業している時間なのにまだ店を開けていなかったので、いつもと違うな、大雨だったし、飲食店だから今日は営業やめたのかなくらいに思っていたのですが、19時ごろに店長のお母さんがウチの店に飛び込んできて、顔面蒼白で、『息子が刺されて倒れてるんです。警察を呼んでください』と声も上ずっていました」救急車を呼ぶことが最優先と考えた飲食店店主が119番通報すると、母親は不安をかき消そうとするように、次々としゃべり始めたという。「お母さんはどうしていいかわからないのか、私に『息子と連絡がつかないと嫁に言われて店を見にきたんです。社長から預かった鍵で店に入ると、息子が刺されて倒れてました』『なんで息子が‥‥‥。恨まれたりするような子じゃない』『昼間は息子が1人で営業し、夜は別の従業員が1人で営業しているんです』『まだ小さい子どもがいるのに』とまくしたてるように話してました」
現場となったラーメン店(撮影/集英社オンライン)
救急隊や警察官が到着するまでに、この飲食店店主もラーメン店内を覗いたが、とても正視できる状態ではなかったという。「うつ伏せの状態で男性が床に倒れていて、床には大量の血が飛び散っていました。黒いTシャツを着ていたように記憶していますが、直視できないような惨状だったので店の中が荒れてたかどうかとかはわかりませんでした。その後、やってきた警察に何度も同じ話をして、私が帰ったのは夜10時すぎでした。事件前にラーメン屋の店長の方とは面識もありませんでしたので、何かトラブルがあったかどうかとかはわかりません」弘輝さんの体には上半身を中心に刃物による傷が複数あり、抵抗した痕もあったという。
数年前からこの店に通っていたという常連客は、弘輝さんが店番をしていた昼に訪れることが多かったという。「昼間はそれなりに混んでました。私は数年前から月1回くらいのペースで、基本昼間に来ていたのですが、店長さんは物静かというか無口な印象ですね。ニコニコ接客するタイプじゃないけど、さすがにそれで恨まれるなんてことはないと思いますし‥‥いったい何があったんですかね。私はいつも500円のラーメンを食べていましたが、安くてうまいので通っていました」また、近くに住む男性は弘輝さんの優しい一面をこう語った。「開店して数年経ったころのことですが、私が近所で働いていたので店長さんとはよく顔を合わせていて、そのうちに店の前で会うと『こんにちわ』と挨拶してくれるようになりました。仕事が午前中で終わって帰宅する時には、当時はまだそんなに繁盛店でもなかったので『ラーメン作ってやるから食ってけよ』と誘われて食べさせてもらったことがあります。私は代金を払おうとしたのに、そのときは『無料でいいよ』と代金を受け取ってくれませんでした。それ以来、たまに食べに行くようになったのですが、最近は行ってなくて……。すごく優しい人だったのになぜこんなことに……としか思えないです」
家族をとても大事にしていた弘輝さん(本人SNSより)
オープン時から通う30代の男性も、弘輝さんのファンだった。「自分は安いだけじゃなく店長の人柄に惹かれて通ってるところもありました。店長は自分の好みが『硬め濃いめ』というのを覚えてくれてて、行くと『いつものね』ってそれを出してくれるんです。子供を連れて行ったときには『食べられない薬味ある?』ってウチの子に優しく聞いてくれたんです。まともに会話したのはそれくらいですけど、気遣いのできる良い店長だっていうのは伝わってたので、こんな事件になってとても残念です」一方、「夜番」の常連客に聞くと、昭仁容疑者の評判も上々だった。「私が食べに来ていたのは基本的には夜だったので、店長ではなく坊主の店員さんでした。特に何か話すという感じではなかったのですが『いらっしゃい』とか『ありがとうございます』とかは気持ちよく言ってくれる人でしたよ」
送検される昭仁容疑者(写真/共同通信社)
1カ月ほど前から通うようになったという40代の男性も、昭仁容疑者に好印象を持つ“坊主推し”だった。「まだ通い始めて日が浅いですけど、千円あればビールとラーメンを楽しめるいい店だし、坊主の店員さんの優しさにも惹かれました。ここでラーメンを食べると50円引きのクーポン券をくれるんですけど、渡された直後に『今使えますよ、トッピングでもしますか』と教えてくれて、うれしかったですね。だから毎回50円引きされてる状態なんですよ。でも教えてくれなければすぐ使えるとわからなかったし、通うようにはならなかったと思います」
弘輝さんとは開業当時からの付き合いという知人は、ショックを隠せない表情だった。「私の方がだいぶ年上なのに彼(弘輝さん)はタメ語なんだけど、それが嫌じゃない感じの話し方で、人懐こいというか…。ラーメンにサービスで煮卵を2つ入れてくれたりと、年上に可愛がられるやんちゃな弟のような感じです。私は仕事上のつき合いということもあり、ある程度は店の状況も知っています。最近は経営難でラーメン屋を畳むケースも多いようですが、彼のお店は安価ながらそれとは無縁だったと思います。彼は愛すべき存在だったし、本当にラーメンが好きでラーメン屋を始めた人間だということです」
ラーメン店の前にはたくさんの花束や飲み物が置かれていた(撮影/集英社オンライン)
弘輝さんは横浜で有名な家系ラーメン屋で修行をし、自分の店を開業したという。「いつも新作のラーメンを考えたり、1人でも多く自分のラーメンを食べてもらいたいと考えていました。『ラーメン屋は自分にとって天職だ』と口にしていたこともあります。愛想がないと思われがちですけどシャイなんですよ。家族のことも本当に大切にしていて、子どもが大きくなったとうれしそうに話していました。本当にこんなことになってしまって残念でならないです」「坊主頭」の昭仁容疑者は名古屋市内のホテルに滞在しているところを県警が発見して逮捕。調べに対し「私がやったことに間違いありません」と容疑を認めている。ラーメン屋が「天職」だと家業に励む33歳店長と、親戚で2歳年長の「坊主頭」の従業員の間に何があったのか。詳しい動機の解明が待たれる。※「集英社オンライン」では、今回の事件について取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected](Twitter)@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班