台湾海峡は誰のもの? 中国「侵入だ」米軍「何か問題が?」 小競り合いの“根拠”

台湾海峡はどこの国に属するのでしょうか。アメリカ海軍とカナダ海軍の軍艦が通航した際、中国は接続水域への侵入だとして警告しました。ただこの主張は、国際法と照らし合わせても矛盾をはらむものと解釈できそうです。
アメリカ海軍第7艦隊は2023年9月9日(土)、アメリカ海軍の駆逐艦「ラルフ・ジョンソン」と、カナダ海軍のフリゲート「オタワ」が、台湾海峡を通航したことを明らかにしました。このうち「オタワ」に関しては、前月に神奈川県横須賀基地へと入港した際、台湾海峡の通航が事前に発表されていたこともあって、日本国内でもその動向が大きな注目を集めていました。
台湾海峡は誰のもの? 中国「侵入だ」米軍「何か問題が?」 小…の画像はこちら >>台湾海峡を通航する、アメリカ海軍の駆逐艦「ラルフ・ジョンソン」(画像:アメリカ海軍第7艦隊広報)。
のちに、カナダの公共放送「CBC」が報道したところでは、「オタワ」および「ラルフ・ジョンソン」が台湾海峡に入ると、中国海軍の軍艦3隻が一定の距離を保ちながら終始追跡してきたそうです。
また、中国海軍艦艇からの通信で、「貴艦は台湾の接続水域(低潮線から24海里(44.4km)までの間に設定できる海域)に侵入している」との連絡があり、それに対して「ラルフ・ジョンソン」が、「本艦は主権免除を有するアメリカ合衆国海軍の艦艇であり、国際法に従って航行している」と返答する場面も紹介されていました。
中国は、アメリカ海軍など他国の軍艦が台湾海峡を通航することへ非常に神経をとがらせています。たとえば、2023年6月4日にアメリカ海軍の駆逐艦「チャンフーン」が、カナダ海軍のフリゲート「モントリオール」と共に台湾海峡を通航した際に、その動向を監視していた中国海軍の駆逐艦が突如針路と速度を変え、「チャンフーン」の前方約140mを横切るという危険な行動に出ました。
そこで考えなくてはならないのが、台湾海峡の法的な位置づけです。果たして中国が、台湾海峡において他国の軍艦の航行を規制できるような根拠があるのかどうかは、結局のところその法的な位置づけによるためです。中国側の主張は、国際法に従って台湾海峡内には自国の主権、主権的権利、管轄権が及んでおり、関連する規則を国内法で定めているというものです。
ここでいう国際法とは、海洋に関する各国の権利や義務などについて定めた「国連海洋法条約(UNCLOS)」のことです。たしかに、UNCLOSの規定を見てみると、基線(通常は低潮線)から12海里(約22km)までを「領海」、24海里までを「接続水域」、200海里(約370km)までを「排他的経済水域(EEZ)」としています。そして、領海には沿岸国の主権が、接続水域には一定の事項に関する管轄権が、EEZには一定の事項に関する主権的権利と管轄権がそれぞれ認められています。
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台湾海峡を通航する、アメリカ海軍の駆逐艦「チャンフーン」とカナダ海軍のフリゲート「モントリオール」(画像:アメリカ海軍)。
では、台湾海峡を他国の軍艦が自由に通航できないのかというと、そうではありません。台湾海峡は、最も狭い部分だけを見てもその幅は約70海里(約130km)であり、つまりその多くは中国の接続水域およびEEZということになります。これは、中国外務省の報道官が2022年6月13日に行った記者会見での発言からも確認できます。
そこで話は、この接続水域およびEEZを、他国の軍艦が自由に航行できるのかというものになりますが、国際法上は問題ないと考えられています。
まず、接続水域では沿岸国の「通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反」の防止または処罰が認められているだけですし(UNCLOS第33条1項)、EEZにおいてはどこの国の船でも自由に航行できる「航行の自由」が認められているためです(UNCLOS第58条1項)。アメリカ海軍が台湾海峡を通航する際に言及する「国際水域(international water)」という言葉は、まさにこれらのことを指しています。
ただし、中国はこのEEZにおいても「自国の安全保障」に関連する規制を国内法により設けていますが、これは国際法上の根拠を欠くと考えられており、実際同様の規定を設ける国はごく少数にとどまります。つまり、今回のようにアメリカやカナダの軍艦が台湾海峡を通航することは、国際法上は何の問題もないのです。
台湾をめぐっては、近年中国による武力侵攻の可能性が懸念されるなど、緊張の度合いが高まっています。そうした状況下であっても、国際法上認められる範囲で軍艦を活動させることは、まさに「ルールに基づく国際秩序」を体現しているといえるでしょう。