ALPS処理水の海洋放出への対抗措置として、中国が始めたのが日本産水産物の全面的な禁輸だった。日本の水産業が大きな被害を受けるなか、存在感を増しているのが、日本の“経済安全保障”を司る高市早苗経済安全保障担当大臣(62)だ。
8月29日の閣議後の会見では、中国の措置を「経済的な威圧」と批判した上で、「WTO(世界貿易機関)への提訴というようなことも検討しておく段階に入っている」と語った。
さらに、9月25日には、オーストリアのウィーンで行われたIAEA(国際原子力機関)の年次総会に出席。中国代表からの批判に対し、「中国の主張は科学的根拠に基づいていない」「処理水の最後の一滴が放出されるまで安全性を確保し続ける」と反論を行った。
■8月にも「理解が得られない限り反対」と経産省に伝えた
一方、SNSなどでは、高市大臣が2年前の2021年9月8日に行った自民党総裁選への立候補会見での発言が話題になっている。
会見で処理水放出について問われた高市氏は、2015年には経済産業省が福島県漁業協同組合連合会に出した「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」という文書が、当時海外出張中だった経産大臣の一時的な代理を務めていた総務大臣時代の自分の名義で出されていること、そして「総務省に経産省の職員は来てないし、私も文書を見ていない」、つまり無断で自分の名前を使われていたことを明らかにした。
そのうえで、政府が約束したことには違いないので、「約束を破るわけにはいかない。勝手に出されたといえ、私の名前が使われているのもあって非常に強い責任を感じている。やはり地元の理解ない限り軽々に放出するんだと、地下トンネルを掘ってということだが、本当ならこれ以上の汚染水が発生しないように直接遮水をするという方法もある。他の選択肢も含めてしっかりと考える」。
そして「日本全体に風評被害を広げるリスクがある限り、私であれば放出の決断をいたしません」と高市大臣は明言していた。
それから2年。岸田内閣の一員として、海洋放出の正当性を説明する立場になった高市大臣。SNS上では高市大臣の“変節”ぶりを批判する声も見て取れる。
本誌が「2年前の自民党総裁選当時は、処理水の海洋放出に反対の立場だったと思います。改めて処理水の海洋放出をどのように考えておられるのか、お聞かせください」と、高市大臣の事務所に問い合わせたところ、以下の回答がきた。
<考え方は変わっておりません。経産省が平成27年に臨時代理・高市早苗名で福島県漁連宛に発出した文書の存在を令和3年に知ったことから、今年8月(放出前)にも、経産省事務次官に対して、「福島県漁連の理解が得られない限りは処理水放出に反対」の旨を伝え、先方より、「無断で氏名を使ったことへの謝罪」とともに、「福島県漁連の理解を得るべく取り組む」旨の返答を得ました。尚、処理水放出に関して、高市は関係閣僚会議のメンバーではありません。>
2年前と考え方は変わっていないという高市大臣。これをどうとらえるかは読者の判断に委ねたい。