体が不自由な人の生活助ける“介助犬” 難病を抱える女性との訓練に密着「介助犬が当たり前の世の中に」

手足が動かない人たちの生活をサポートするため、特別なトレーニングを受けた「介助犬」の国内唯一の訓練施設が愛知県長久手市にある。コロナ禍で訓練などが滞っていたが、再び動き始め、難病を抱える女性が新たな生活を始めようとしていた。
スタッフ:「テイク(持ってきて)」
落としたものを拾ったり…。スタッフ:「テイク靴下!そうそう、カゴ!」
靴下を脱がせる手伝いも。スタッフ:「テイク携帯!」
携帯電話を探すこともできる。障害などで体が不自由な人の日常生活を助ける「介助犬」だ。
そんな介助犬専門の国内唯一の訓練施設が、愛知県長久手市の「シンシアの丘」だ。
2009年、日本初の「介助犬総合訓練センター」として誕生した。1年かけて指示の言葉を覚えさせるなどして、これまでに41匹の介助犬を全国へと送り出してきた。
広報チームの石田夢果さんが施設を案内してくれた。
犬舎(けんしゃ)では、20匹前後が生活しているという。
シンシアの丘の最大の特徴は、介助犬を希望する人が犬と一緒に宿泊しながら訓練を受けられることだ。シンシアの丘広報チームの石田夢果さん:「こちらが訓練室になります。障害者の方が、介助犬の候補犬と一緒に寝泊まりしながら訓練するお部屋ですので、全面バリアフリー、段差がない作りになっております」
石田さんによると、介助犬を育てて希望する人とマッチングするまでにかかる費用は、1匹につき約300万円かかるという。この施設では、そのほとんどを企業や個人からの寄付金で賄っていることも大きな特徴だ。石田さん:「介助犬ペアが一組誕生するまでには、大体300万円ほどかかるといわれているんですけれども、障害者の方、使用者の方は無償貸与をしております。費用は9割以上、ほとんどが皆さまからの寄付で成り立っているのが現状になっております」
そのため「介助犬」をより多くの人に知ってもらうための啓発活動が重要になってくるが、コロナで大きな影響を受けた。石田さん:「コロナ禍になったばかりの時は、今までほぼ毎日のようにあったイベントが0件になった時もありました」年間350件ほど行っていた施設見学会などのイベントが、2020年度は140件にまで減少した。
基礎疾患がある人の宿泊訓練を取りやめたこともあり、その年は、日本介助犬協会に認定された介助犬と利用者のペアは全国でたった1組だった。
2022年12月、3年ぶりに参加人数をコロナ前の水準にまで戻し、見学会を開催することができた。
シンシアの丘のセンター長:「皆さん、こんにちは!本日ご参加いただき嬉しく思っています。泣きそう…。ようやく、以前と同じような光景に戻ってきたというのを、いま改めて…」
コロナ前の状態に戻せたことに、開会の挨拶に立ったセンター長も感無量だ。この日のイベントでは、介助犬が10円玉を拾う動きなどを出席者に披露した。前歯と舌を器用に使って拾う。
「オープン冷蔵庫」の合図で、冷蔵庫の扉を開けてペットボトルを届けることもできる。
参加者:「手足が不自由な人を元気づけている感じで、すごいなと思いました」別の参加者:「ワンちゃんがすごく尻尾をふって楽しそうに訓練している様子を見たので、そのことを他の人に広めたいと思いました」
この日、訓練センターには1人の女性が訪れていた。茨城県から来た、青戸有紀(あおと・ゆき 41)さんだ。
青戸さんは2008年頃、筋肉が萎縮していく難病「遠位型(えんいがた)ミオパチー」を発症した。少しでも前向きに日々を過ごしたいと、2年半ほど前に介助犬の利用を申し込んだが、コロナで延期になり、この日からようやく候補の犬との訓練をスタートさせることになった。青戸有紀さん:「私の病気が、筋力が落ちていく病気なので、毎日気を付けているのが転ばないようにすること。介助犬がいてくれたら、転ばないようにというだけじゃなく、毎日が楽しくなるんじゃないかなという風に思ったので希望しました」候補として対面したのは「クレア」という介助犬だ。
青戸さん:「クーちゃんお願いします」尻尾を振って喜ぶクレア、すぐに打ち解けたようだ。
その日から、シンシアの丘での訓練が始まった。まずは車いすの横について歩き、青戸さんのペースをつかむことからだ。
訓練はセンターの外でも行う。やってきたのはショッピングモールだ。
介助犬は、大勢の人がいるような場所でも刺激に惑わされることなく、利用者の横を一定のペースで歩くことが求められる。青戸さん:「クーちゃん!そう、グッド!」青戸さんのすぐ脇を順調に歩くクレア。
しかし、同行した訓練士がおもちゃのコーナーに並んだ、大きなキリンや馬などのぬいぐるみを発見。
訓練士:「左側にすごく大きい…」青戸さん:「あれね」訓練士:「あれ結構、刺激的な気がするので」ぬいぐるみの前を通過しようとする、クレアと青戸さん。
青戸さん:「クーちゃん、早い」クレアは速足で、青戸さんの前に出てしまった。
青戸さん:「クレア!ヒール(横・ついて)!おーグッド。そうそう、上手。よし、行こう」一時は取り乱したクレアだったが…。
青戸さん:「そうそう、グッド。今ぐらいの位置、いいですね。グッド、すごい」指示が伝わり、車いすとの適度な距離を掴んだようだ。青戸さん:「クレアすごーい。天才だ。安心して一緒にいられます。互いの生活リズムもわかってきて、もう幸せです」その後も電車に乗る訓練など、青戸さんとクレアは3カ月以上に及ぶ合同トレーニングを行った。
そして2023年3月、介助犬としての活動が認められる認定試験を見事クリアした。
青戸さん:「アラジンとジーニーじゃないけれど、そんな風にお互いのことをよく知って、お互い気持ちよく楽しく過ごせたら本当に最高だなって思います」
青戸さんは、茨城県の自宅でクレアとの生活をスタートさせた。落としたものをクレアが拾ってくれるので、転倒のリスクを避けることができ、助かっているという。
クレアとの生活は、青戸さんの体調面にもプラスに影響しているという。青戸さん:「クレアのお世話をしたり出かけたりすることで、体力の維持や筋力の維持になっているのか、(病院で測定した)数字でも維持もしくは向上している状況ですので、私にとってはとてもプラスだと思います」
青戸さんのように、介助犬を必要とする人は、全国に1万人いるといわれている。しかし、現在国内にいるのはわずか53匹と、まだまだ足りていないのが現状だ。(2022年10月現在)もっと多くの人に介助犬を…。センターでの訓練がいよいよ本格的に再開する。
シンシアの丘広報チームの石田夢果さん:「介助犬がいるのが当たり前の世の中になれば、介助犬と一緒に生活される方もどんどん増えていくと思います」青戸さん:「今はまだ(介助犬が)少ないので、『ほら介助犬だよ』『見たことないね』と声かけらえることが多いんですけど、どのお店に入っても自然に入れて、溶け込むというところまで行きつけたら、障害がある人もない人も楽しく生活できる世界があるんじゃないかなって感じます」2023年5月24日放送