[社説][安保 大変容]「台湾有事」と市民 平和は対話の先にこそ

大国が核を保有し、経済のグローバル化が進行した今、いったん有事が起きれば私たちは全てを失う。有事の危機を前にした唯一の解決策は、有事を起こさせないことだけである。
「台湾有事」を起こさせない・沖縄対話プロジェクトの初のシンポジウムが那覇市内で開催された。
プロジェクトは米中対立を背景に台湾有事の懸念が高まっていることを受け、県内外の研究者、ジャーナリスト、活動家、学生など市民らが昨年発足させた。
政治的な立場や国境、年齢を超え「有事回避」の一点で市民レベルで対話の場を設ける取り組みだ。今回は台湾から2氏が登壇した。
台湾国防部傘下シンクタンクの林彦宏(リンゲンコウ)准研究員は、台湾海峡での武力衝突の可能性について「高い」との認識を示した。一方で「同盟関係のない米国が有事に介入する保証はない」とし、自分の国は自分で守るしかなく「台湾は戦争を望んでいない」とした。
輔仁大学の何思慎(カシシン)教授は「全面的な戦争の可能性は低い」とする。日本は日米同盟と、中国との関係で板挟み状態だが、経済的に相互に依存し合う日中は、互いに相手を脅威と見なすことはできないと分析した。
2氏に通底するのは、有事を避けることこそが日本、中国、台湾の「共通の利益」であるという認識である。
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台湾有事の可能性について24通りのシナリオを公表した米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は、ほとんどのシナリオで中国が負けると分析する。

一方、どのシナリオにも共通するのが、日米が数千人の犠牲者を含め甚大な被害を被るという見解だ。「嘉手納基地の滑走路の両脇には日米の機体の残骸が並び、多数の死者の仮設墓地も造られるだろう」との記述もあった。
シナリオは勝利か敗戦かにかかわらず、有事が起きれば基地従業員や周辺に住む人々が戦火に巻き込まれると示している。
従来の覇権国家と、台頭する新興国家が戦争不可避となる現象「トゥキュディデスの罠(わな)」は、歴史の中で繰り返されてきた。
アメリカに対し、日本が宣戦布告した太平洋戦争もその一つといわれている。軍備増強を進めた先に起きた過去を今こそ思い出すべきだ。
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台湾有事を念頭に沖縄を含む南西諸島の軍事力強化が急速に進められている。岸田文雄首相は米国や欧州各国を歴訪し、中国への軍事的対抗アピールに熱心だ。
一方、中国や台湾と対話しようとする姿勢はほとんど見られない。日本はすでに「安全保障のジレンマ」に陥っている恐れがある。
そうした中で、市民が対話で有事を起こさせないという共通認識を醸成し広げていく動きは、外交のジレンマを乗り越える力となるだろう。
報道もまた責任の一翼を担っていることを自覚したい。