ホンダの新型「N-BOX」を徹底チェック! 随所に細かな進化、進化は想像以上?

日本で最も売れているクルマ「N-BOX」がついにフルモデルチェンジを果たした。見たところ、ガラッと大きく変わっている感じはしないが、実際のところはどうなのか。栃木県にあるホンダのテストコースで新旧N-BOXを見比べながら、何が変わったのかを確認してきた。今回はパッケージやユーティリティを中心に比較してみたい。

○前方視界が劇的に変化?

ホンダはN-BOXにフルモデルチェンジを実施し、10月6日に発売する。

先代モデルの2代目N-BOXは2017年8月の発表からすでに6年が経過している。それにも関わらず、2023年1~6月の平均月間販売台数は1万8,707台という人気ぶりだ。

新型N-BOXは、軽自動車なので当然かもしれないが、フルモデルチェンジしても外観やサイズは大きく変わらない。それだけ完成度の高いデザインであり、変えようがなかったという側面もあるのだろう。そうなると、新型N-BOXを購入するにあたって確認しておきたいのが、使い勝手などのユーティリティだ。

まず、インテリアの違いから比較していこう。乗車して最初に気づくのは、メーターの位置が変わっていることだ。

2代目N-BOXはダッシュボードの上にメーターがあり、ステアリングの上から見る設計となっていた。「アウトホイール式」と呼ばれ、運転中の無駄な視線移動を抑制する効果がある。ところが、この位置にメーターがあると、背の低いドライバーにとっては、前方の視界を遮られるような感覚となる。実際に2代目N-BOXオーナーからは、メーターが邪魔で前方が見にくく感じるという意見が届いていたそうだ。

そこで新型N-BOXでは、ダッシュボードをフラットにして広い視界を確保できるよう、メーターの位置を下方向へ変更。ステアリングの内側からメーターを確認するスタイルを採用した。

「視線移動が大きくなるのではないか?」「メーターが確認しづらいのでは?」と疑問だったのだが、実際に乗ってみるとまったく問題ない。視線移動は大きくなるが、そもそも運転中にメーターを頻繁に見ることはないし、できるだけ前方の視界を広く確保してもらったほうが運転のしやすさは向上する。

従来のアナログ針のメーターは7インチのTFTフルグラフィックデジタルメーターに変更。発色もよく、色鮮やかでとても見やすい。ホンダの安全運転支援システム「Honda SENSING」の作動状況をリアルタイムで確認できて、利便性も高かった。

前席中央上部には、コネクテッドサービス「Honda Total Careプレミアム」にひもづく「緊急通報ボタン」をホンダの軽自動車として初採用。事故や故障、トラブル発生時、急病時などに心強い装備だ。

○テールゲートのハンドルを70mm下げた理由とは?

2代目N-BOXで評判がよかったラゲッジルームの作りは新型も踏襲している。テールゲートは大きく開くし、後席を倒せば自転車などの大きな荷物も余裕で積み込めるのがうれしい。

2代目N-BOXには「テールゲートが開けにくい」との意見が寄せられていたそうだが、そこには改善を加えた。車体中心よりわずかに右寄りに付いていたテールゲートを開けるためのハンドルを、新型では車体中央に移動したのだ。これにより、開ける際にどこをつかむのかが直感的にわかりやすくなった(ロゴの真下を握ればOK)。

さらに、テールゲートのハンドル位置を70mm低くすることで、背が低いユーザーでも開けやすくしている。ただ、ハンドルの位置が低すぎると、人によっては腰を大きく曲げなければいけなくなる。そのあたりも念頭にさまざまな検証を重ね、70mmという下げ幅を割り出したそうだ。

もはや軽自動車でも当たり前の機能になりつつある「アイドリングストップ」にも改良を実施した。

2代目N-BOXは駐車の際、クルマを停めてアイドリングストップが作動し、エンジンが停止したにも関わらず、シフトレバーを「P」(パーキング)に入れるとエンジンが再始動してしまうという仕様だった。これはN-BOXに限った話ではないが、筆者も他メーカーのクルマに試乗した際、Pに入れたらエンジンが再始動してしまい、少し苛立った経験がある。

新型N-BOXでは、アイドリングストップが作動してエンジンが止まった後は、シフトレバーを「D」から「P」に変更してもエンジンが再始動しなくなった。些細な改良だが、地味にうれしいポイントだ。
○「カスタム」はギラギラさせる時代じゃない?

好みに応じてエクステリアを選択できる点はN-BOXの魅力だ。特に、きらびやかで押し出しの強いフロントフェイスを持つ「カスタム」は人気のグレードとなっている。例えばカスタム専用のテールゲートスポイラーは、きびきびとした走りを予感させる象徴的なパーツだ。

新型N-BOXのカスタムは、フロントフェイスに若干の落ち着きを感じる。2代目のカスタムはよくいえばカッコいいが、悪くいえばギラギラ感が強すぎた。2代目ではカスタムの方が売れていたそうだから、今回のフルモデルチェンジではカスタムの見た目の個性をより強調する形、はっきりいえばもっとギラギラさせる方向で造形することもできたはずだが、そうはなっていない。なぜなのか。開発担当者はこう語る。

「新型N-BOXは、これから数年にわたって販売していくクルマです。走りを強調した、いかつくてギラギラしたデザインは時代遅れだと判断しました。新型のカスタムは、上質で乗る人が誇りを感じられるようなクルマにしたかったんです。なのでメッキを多用せず、押し出しの強さを抑えました」

確かに、新型のカスタムは鋭い顔つきでありながら、ギラギラ感の少ないデザインになっている。

今回のフルモデルチェンジでホンダは、N-BOXの好評だった部分は変えず、それでもキープコンセプトではなく、オーナーの意見にしっかりと耳を傾け、細かい部分も含めた全体的なブラッシュアップを実施した。その結果、N-BOXは新しく生まれ変わっている。

最後に、新型N-BOXは今後も売れ続けるのだろうか。

新型の予約開始は8月7日。9月16日までの時点で予約台数は1.7万台に達したとのことだ。2022年末ごろは、他メーカーも含め半導体不足による納期の遅れなどが生じていたが、新型N-BOXについてはそういった影響はなく、フル生産が可能な体制を整えているという。

価格は標準タイプで164.89万円~188.1万円、カスタムで184.91万円~236.28万円。2代目N-BOXは146.85万円~228.8万円だから10~20万円ほど上がっているが、昨今の物価高を考えるとやむを得ないところか。新型の月間販売目標は1.5万台だ。

進化を果たした軽自動車の絶対王者は、3世代目となってまもなくやってくる。街で見かける機会も徐々に増えてくることだろう。

室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら