ネオナチ格闘技ブランド、白人至上主義者グループの資金源に 米

「意識高い系」が鼻につくWOKE企業の商品やサービスには手を出さず、オリジナルの枕やビール、携帯サービスなどを展開する米保守派の面々。そうしたいわゆる「パラレル経済」で、今度は白人至上主義を豪語する連中がブランドを立ち上げた。それがファシスト御用達スポーツブランド「Will2Rise」だ。

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Will2Riseは白人ナショナリスト向けスポーツウェアのメーカーで、ノースリーブシャツやトラックジャケット、「戦闘用エクササイズパンツ」、ボクシンググローブ、「Cultured Thug(飼い慣らされたワル)」と書かれたパーカーなどを販売している。政治信条を明確に打ち出すかのごとく、同社の商品にはスタイリッシュなファスケスのシルエットのロゴマークが付いている。ファスケスとは古代ローマ時代のシンボル(束ねた棒から斧が突き出している束棹)で、のちにイタリアの極右民兵組織に採用され、「ファシスト」の語源にもなった。

同社の主なターゲット層は「徒党を組んで訓練する」白人至上主義者の国際ネットワーク「Active Club」のメンバーだ。結束の固い地元支部のメンバーは、想定される人種戦争やその他武力対立を念頭に、市街で戦うための体力づくりに励んでいる。Boogaloo Boisをはじめとする過激派集団はアロハシャツとAK47ライフル銃がトレードマークだが、Active Clubではトレーニングウェアと総合格闘技の技能が美学とされる。Will2Riseでもロゴ入りパーカーや細身のリンガーTシャツを扱っている。

Will2Riseは白人至上主義イベントの協賛企業的な役割も果たしている。今年8月には同社の協賛でハンティントンビーチの倉庫で「第2回MMAトーナメント」が開催され、会場はホワイトパワーを謳う横断幕で飾り立てられた。Active Club南カリフォルニアクラブが主催したトーナメントには、Active Clubテネシー支部、Active Clubビッグスカイ支部、Active Club五大湖支部、Active Clubエバーグリーン支部の他、著名な白人ナショナリスト団体Patriot Frontの代表選手が出場した。多くの選手がWill2Riseのボクシンググローブやウェアを身に着けていた。

いわば、ホワイトパワー御用達のルルレモンといったところだ。同社のこだわりは、「同胞に高品質な商品を届ける」こと。ホワイトパワーのシンボルが巧みに隠されていることもしばしばで、ローマ数字のXIV(14)が施された商品も多い。ちなみにネオナチの世界で14という数字は、「我々の種族の存続と白人のこどもたちの未来」を確かなものにするという誓いが14ワードで構成されていることにちなんでいる。こじゃれたWill2RiseのWEBサイトに掲載されている動画はもっと露骨で、「白人の若者の反乱」「白人の結束」といった文言や「今日の行動は明日の勝利」といったスローガンがちりばめられている。

白人オンリーというWill2Riseの信条は、「エシカル・サプライチェーン」という怪しげな表現にも表れている――商品は「東ヨーロッパだけで製造され、志を同じくする者以外の人間が少しでも製造工程に関わることはない」そうだ。さらに「弊社は同胞を積極的に採用し、利益が他の連中の手に流れることはない」と続く。支払い方法はVisa、MasterCard、Paypal、Stripeに対応している。

Active Clubは全米34州で少なくとも46支部が存在

Will2Riseを見ると、Active Club創設メンバーが流れに乗じて金儲けを企んでいることがわかる。Active Clubの生みの親ロバート・ランド氏は、カリフォルニア州オレンジ郡出身の白人ナショナリスト。以前はRise Above Movement(RAM)というストリートファイト集団を率い、社会正義を訴える極左アンティファの抗議デモを荒らしまくっていた。連邦検事局はRMAを「新手のナショナリズム白人至上主義や白人アイデンティティ運動」の一派で、「戦いに飢えた民兵集団」と位置づけている。

ランド氏は2019年、RAMがハンティントンビーチ、バークレー、サンバーナディーノで起こした騒動が原因で、「暴動共謀罪」で連邦起訴された。起訴はいったん取り下げられたが、控訴裁で起訴内容が合憲と認められ、2021年に再起訴された。だがロンド氏は逮捕を免れ、逃亡先の東欧で白人至上主義の暴力集団を組織し続けている――その流れで、RAMもActive Clubの支部に改編された。

Active Clubムーブメントは飛躍的に勢力を増している。NPO団体Counter Extremism Project(CEP)の最新のレポートによると、全米34州で少なくとも46支部が存在することが判明した。「多国籍な」同ネットワークはカナダやヨーロッパなど15カ国にも及び、フランスだけでも23支部が存在するという。

CEPの調査を担当したアレクサンダー・リッツマン氏によれば、Active Clubは人目もはばからず堂々と「民兵の組織化を図っている」という。内部抗争を避け、警察当局から危険視されるのを防ぐために、「白人の結束」という広義のイデオロギーを建前として掲げている。戦闘訓練の具体的な目的は依然として曖昧だが、意図的にそうしているのだとリッツマン氏は主張する。暴力的な白人至上主義ムーブメントには「思想家よりも戦士」が必要だという考えがあるためだ。来る「Xデー」(1月6日の連邦議事堂事件の再来か)で戦闘要員が必要になった際、こうしたActive Club支部にファシスト勢力の先陣を切らせるのが最終的な目標だと警鐘を鳴らす。「指導者が姿を現した日……なんらかの軍隊が必要になる。その日に備えて民兵を組織しておくことが目的です」

CEPの報告書によれば、Will2Riseブランドの「立ち上げの原動力」になったのもランド氏だ。南部貧困法律センターは先日、Will2Riseを「白人至上主義のヘイトグループ」のリストに加えた。Will2Riseの店舗の業務内容は多岐にわたり、Active Clubムーブメントのイメージアップや募金活動、人材採用サポートなども行っている。リッツマン氏の調査によれば来店客は月間約1万人で、滞在時間は約15分。「おそらく買い物客だと思われます」

リーダー不在の「オープンフランチャイズ」モデル

ランド氏のヨーロッパ逃亡生活は、今年に入って突然終わりを告げた。33歳のランド氏は3月にルーマニアでお縄にかかり、8月2日には強制送還されることが発表された。同氏は暴動共謀罪について無罪を訴えている。公判は12月開始予定だ。

当然といえば当然だが、ロンド氏は過激派連中――とくにWill2Riseでは有名人扱いされている。同社のWEBサイトのトップには、「ロブ・ロンドを釈放せよ」と書かれたバナーが張られている。「ランドを自由に」と書かれたシェパード・フェアリー風のポスターも絶賛販売中で、「Austrian Art Academy」というチャンネルの支持者が木彫りしたファシストのシンボルのオブジェまでも販売されている。

ランド氏が軌道に乗せた集団は、リーダーを欠いた状態でも同氏のヴィジョンにしたがって活動を続けている――ハンティントンビーチで行われたMMAの大会もしかりだ。過激派集団に詳しい専門家は、これこそActive Clubが推し進めるリーダー不在の「オープンフランチャイズ」モデルだと主張する。だが専門家も指摘するように、Active Club南カリフォルニア支部はランド氏がいなくとも効果的に活動を進めている。

Will2Riseの業務や収入、収益についてメールで情報提供を求めたが、返答はなかった。同社の所在地はバージニア州の私書箱付になっている。またジョージア州のエリアコードがついた電話番号はつながらず、通常の電話番号よりもケタが多く末尾は88で終わっている――しばしば白人至上主義者の間で88はHH、すなわちハイル・ヒトラーを示す数列として使われている。

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