鉄道やバス、自動車、ヘリコプターなどの窓は四角いのに、ジェット旅客機の窓はなぜ丸いのでしょうか。そこには墜落事故にもつながりかねない重要な意味がありました。
鉄道やクルマの窓は四角いものが多いのに、なぜか旅客機は丸い作りのものがほとんど――なぜでしょうか。遠目には四角そうに見えるものでも、四隅は頂点のない、滑らかな曲線構造をしています。
ただ、角ばった四角い窓はまったくないわけではなく、傑作機として知られるダグラスDC-3などの窓の形は四角です。では、なぜ旅客機の窓が丸っこいものばかりになったのか。その背景には、飛行機の性能向上が大きく関係していました。
四角はダメ!? 旅客機の窓が“丸”ばかりな深いワケ かつては…の画像はこちら >>エアバスA350の機首のアップ。胴体側面の窓は角がない楕円形(柘植優介撮影)。
第2次世界大戦直後、1950(昭和25)年ごろまでは、旅客機の窓は四角い方がポピュラーでした。しかし性能が向上すると、丸窓でないと問題が出るようになります。というのも、旅客機では乗客を快適な状態で運ぶために、機内を地上とほぼ同じ気圧に保てる、いわゆる与圧構造を取り入れるようになったからです。
この与圧構造、地上近くの低高度であれば、機内と機外の気圧の差はそれほどないので問題ないのですが、高度が上がれば上がるほど大気圧は下がり、機の内外でその差は大きくなります。
高度を上げ下げすることで、機体は気圧差により内から外へ微妙に膨らんだり元に戻ったりしています。そうした変動に耐えるという観点から、窓の形は丸っこいほうが適しているのです。
頂点が直角の四角い窓の場合、どうしても四隅に機体の膨張収縮による荷重の変動が加わりやすく、その四角の頂点部分から亀裂が入りやすい問題を含んでいます。その点、丸窓の場合はそうした荷重が比較的分散することから、四角い窓よりも強いといえます。
なお、この丸窓の普及に大きく関係していたのが、世界初のジェット旅客機「コメット」です。
「コメット」はイギリスで開発された4発ジェットエンジン搭載の旅客機で、1950年代半ばに相次いで墜落事故を起こしました。原因は機体の金属疲労でしたが、調査の結果、当初想定されていた離着陸サイクルの、わずか10分の1で亀裂が入り墜落に至っていたことが判明します。
なぜ、こんなにも早く金属疲労が発生したのか、その要因が四角い窓にありました。機体が上昇、降下を繰り返すうちに、この角の部分に力が集中して負荷が生じ、これが積み重なって胴体が破断、墜落事故に至ったのです。
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フランスのシュド・エストが開発したSE210「カラベル」。窓の形がおにぎり型なのが特徴(画像:Austrian Airlines[CC BY-SA〈https://www.flickr.com/photos/48248150@N04/8968492046/〉])。
こうして、ジェット機を中心に機内与圧装置を標準で装備する飛行機のほとんどは、楕円を含む丸窓ばかりになりました。
ただ、高々度飛行をしない航空機、すなわち軽飛行機やヘリコプターなどには、四角い窓のものもあります。また軍用輸送機などで、パラシュートで兵士や物資を投下する際に上空で機体を開閉することもあるような機体は、あえて与圧構造を導入していないものもあります。前出のDC-3はこれらに該当する機体であり、そのような機体では四角い窓を装備していたりします。
なお、ジェット旅客機の黎明期であった1950年代には、フランスの「シュド・カラベル」という、おにぎり型の窓を持つ旅客機もありました。この窓形状は、下方視界の確保と機体強度を両立させるために考え出されたものでしたが、ほとんど普及せずに終わっています。
ちなみに、丸窓がまだ少なく角窓が多かった1950年代には、アメリカ空軍の要人輸送機などでは、あえて丸窓の周りを四角く塗って、角窓を「再現」していた機体もありました。詳細は不明ですが、おそらく年配の将軍たちにとっては、従来の角窓の方が馴染み深かったからではないかともいわれています。