露が破壊 世界最大の飛行機「An-225」はいま 復活計画コッソリ進行中? それが可能なワケ

ロシアにより破壊された、世界最大の飛行機アントノフAn-225「ムリヤ」。大破ののち、この機を保有していたウクライナが再建計画を発表しました。それから1年半、現状はどのようになっているのでしょうか。
ウクライナのアントノフ航空が保有する、世界最大の飛行機アントノフAn-225「ムリヤ」は2022年2月24日に始まったロシアの侵略で真っ先に破壊され、2国の戦争初期を象徴する出来事となりました。この機は破壊された1機のみしか飛ぶことができず、復活は絶望的になった――と思いきや、必ずしもそうではありません。今回は「ムリヤ」のその後を負っていきます。
露が破壊 世界最大の飛行機「An-225」はいま 復活計画コ…の画像はこちら >> アントノフAn-225「ムリヤ」(画像:Transport Pixels[CC BY-SA〈https://bit.ly/2VvpNUU〉])。
An-225「ムリヤ」は最大離陸重量が世界最大となる640tで、6基のエンジンを持ち、全長は84m、全幅も88.74mに及ぶ、超大型輸送機です。しかし、日本時間の2022年2月28日深夜、この機が破壊されたニュースが世界を駆けめぐりました。
破壊されたときの「ムリヤ」は、当時整備作業のため首都キーウの北西にあるアントノフ国際空港(ホストーメリ空港)にいました。そのなかで、ロシア軍空挺部隊とウクライナ軍の激しい戦闘に巻き込まれます。この機が空港を離れる時間的余裕はありませんでした。次第にインターネットでは、格納庫の中で、胴体前部や右主翼が破壊されて無くなった姿が流れ、世界中の人々に大きな衝撃を与えました。
「ムリヤ」はロシアの侵略で真っ先に破壊されましたが、ウクライナも負けずに、2022年後半には再建への取り組みを発表しています。いつ再び飛び立つかという見通しは、いまのところまだ立っていませんが、再建は少しずつ進んでいるようです。
ウクライナの発表から2023年10月までのおよそ1年半で、使用可能な部品は回収され、残った3基のD-18Tエンジンは修理されました。焼け残った左主翼は取り外されましたが、再使用が試みられているようです。
再建には同じ旧アントノフ設計局製で、一回り小型(とはいうものの量産化されたなかでは世界最大の輸送機として知られている)のAn-125「ルスラン」輸送機の保守部品も使いつつ、再建に必要な部品の3割は既に入手。「ムリヤ」は飛べる機体は1機でしたが、実は未完成に終わった2号機があり、今回破壊されたものの修理に活用されるとされています。
2号機は、資金難のため60~70%しか完成しなかったものの、胴体や主脚は破壊を免れています。このため、再建は回収したパーツを使いつつ“2個1”で完成させる方向のようです。
一方で、問題もあります。An-225「ムリヤ」の初飛行は1988年と古いため、多くの部品が1980年代製。中には既に作られていないものもあるでしょう。代替の効くものがあるか、この機の再建には、これまでの運用経験に基づいた設計の変更もあり得るかもしれません。
なによりも、ウクライナは現在、領内のロシア軍の排除へ反転攻勢中で、終戦後は復興に力を注がなければならない状況です。そのようななかで、5億ドル(約700億円)以上とされる再建費を確保できるかも気にかかります。
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2010年9月、自衛隊の海外派遣を支援するために仙台空港へ飛来したAn-124「ルスラン」(柘植優介撮影)。
ウクライナが「ムリヤ」の再建を、破壊後すぐに表明したのは、これが世界最大の輸送機であるばかりでなく、ウクライナの工業技術力を示す象徴でもあるからです。
それはすなわち、ウクライナの士気をくじこうと、ロシアが「ムリヤ」を再び標的にしかねない、ともいえます。そうしたことから、アントノフも従業員の安全確保のため、作業の進捗状況の積極的な発表は避けているとされています。
しかし、反転攻勢が成功したならば、戦後の復興と共に、「ムリヤ」の再建も次第に関心が向けられるようになるでしょう。いつになるかはわかりませんが、この機が再び飛ぶことを願ってやみません。