見直しが議論される介護施設の看取り対応。今後は現場でのターミナルケアが強く求められる?

超高齢化社会を迎え、年々要介護者は増加傾向にあります。それに伴って重度化した利用者の割合も増加。こうした重度者を受け入れる介護施設の一つが特別養護老人ホーム(特養)です。
特養は、原則として要介護度3以上の方が利用しており、入居者のうち要介護度4以上の方が約8割を占めています。平均入居日数は1,177日で、重度要介護者を受け入れている介護療養型医療施設(471日)、介護老人保健施設(310日)と比較しても長くなっています。入居者のなかには医療行為を必要とする方も少なくありません。
そのため、特養では医師の配置が義務づけられています。特養における配置医師数は全体で「1人」が66.5%で最も多く、配置医師の1施設あたりの平均人数(実人数)は1.5人となっています。
ただ、医師数には限りがあるため、雇用形態の多くは嘱託が占めています。厚生労働省の調査によれば、嘱託が62.9%で最も多く、医師の所属医療機関と契約するケースが28.2%で9割を占めています。一方、正規職員として雇用している割合は4.2%にとどまります。
つまり、特養に勤務する医師の多くは非常勤であり、常に施設にいるわけではありません。
特養の医師は常駐しているわけでないので、できることに限りがあります。
特養に配置された医師が実際に行っている医療行為を調査したところ、「日常の健康管理・慢性疾患の疾病管理のための診察・診療」が最も多く93%、次いで「処方」が90.5%でした。
このように、診療所やクリニックで行われるような診察行為が多くを占めているのが実態です。また、非常勤のため利用者の急変時には不在にしていることが多くなっています。
施設側は医師がいない場合、医師にオンコール対応を求めていますが、「原則救急搬送している」という施設も約3割ほどを占めています。実際、医師も急変対応や定期以外の診察に負担を感じている割合が多く、急変時の対応については再考すべきとの声が上がっています。
専門家の間では、今後、特養で医療行為を必要とする利用者のニーズが増すと考えられています。なぜなら、2040年には総人口における死亡数がピークを迎えるといわれ、認知症の方は700万人を超えると見込まれています。
また、がんの罹患率は55歳以上から急激に上昇することがわかっています。
つまり、医療行為を必要とする疾患があり、かつ認知症になる高齢者は今後も増加すると考えられるのです。
一方、厚生労働省の調査によると、認知症になったとき最期を迎えたい場所として挙げられているのは介護施設が半数以上を占めています。家族に迷惑をかけたくないという理由から、認知症になった際は介護施設に入居したいと考える方が多いのです。
そのため、今後は医療行為と介護ケアを同時に受けられる施設の需要が増し、介護施設での医療ニーズも高まると考えるのは当然なのかもしれません。
そこで、2021年度介護報酬改定では、介護施設での看取り対応を強化する方針で改正されました。
そのため、看取りに対応するための「ターミナルケア」に取り組む介護施設も増えており、ターミナルケアに取り組んでいると回答した施設の割合は94.4%に及びました。
しかし、実際に職員が参考にするための指針を作成している施設はそれほど多くはありません。施設種別でみると、介護医療院では80.4%なのに対し、特養では57.3%にとどまっています。
また、実際には高度な医療行為に対応できず、入所を断る特養もあります。8割以上の施設が、「摘便」「浣腸」「褥瘡・創傷の処置」といった医療行為が必要とされても「入所は断らない」としていますが、「医療用麻薬の点滴以外での投与」「透析が必要な入所者の日常的な観察・送迎」などでは、7割以上の施設が「入所を断る」としています。
そこで、厚生労働省では、特養などの施設で、看取りを含めた医療ニーズへの対応の強化を検討しています。しかし、約93%の特養が「配置医師が必ずしも駆けつけ対応ができない」「緊急の場合はすべて救急搬送している」としており、夜間の看護体制は「通常、施設の看護職員がオンコールで対応」が約88%と大半を占めています。
現状の体制では、看護師に頼るしかなく、高度医療を必要とする疾患と認知症を持つ重度な利用者を受け入れるのは困難と言わざるを得ません。実際に、特養を退所した入居者の約2割は、医療機関で入院するケースが占めています。
そこで必要なのは実態を踏まえた制度改正です。厚生労働省の分科会では、「24時間365日一人の医師での対応は不可能。地域の中小病院などとの連携で、配置医師が対応困難の時に連携病院がバックアップするなどの対応が必要」といった趣旨の意見も上がっています。
つまり、一人の医師ではなく、地域全体の医療機関で対応するという地域包括ケアシステムの充実が求められているのです。
医師や看護師の充実は、制度の改正や地域全体での取り組みが待たれますが、各施設でも、ターミナルケアを行う体制づくりはできます。今後、2040年に向けてニーズが高まるのであれば、なおさら早い段階での構築が必要ではないでしょうか。
まずは、施設側と利用者とで人生の最終段階における医療・介護行為に関する話し合いを行う環境をつくることがポイントです。現在、利用者本人と人生の最終段階の医療・ケアに関する話し合いについて、「十分行っている」及び「一応行っている」と回答した割合を職種別にみると、医師が59.5%、看護師が54.5%、介護支援専門員が68.8%になっています。
少しずつ浸透していると評価できる一方で、「ほとんど行っていない」と回答した割合が、医師20.9%、看護師26.4%、介護支援専門員で25%いるのも事実。
また、こうした話し合いはたいてい死を目前とした時期に行われていることもわかっており、本来は本人がまだ意思決定をできる段階から行うことが推奨されています。
介護施設は、利用者と身近な存在でもあることからレクリエーションなどを通じて、ターミナルケアの前段階である本人の意思確認を行うことができます。そうして利用者の意思を確認した後に、医療機関や家族と連携しながら治療やケアの方針を決められるような体制づくりが求められるのではないでしょうか。