〈祝・史上初八冠達成〉好きな番組は「ブラタモリ」、らーめんは「チャーシューめん大盛り」…藤井聡太の知られざる素顔。小学生から新聞を読むのが日課で、好きな小説は…

将棋界では“400年に1人の天才”とまで呼ばれる藤井聡太八冠(21)。しかし、本人の口数が少ないこともあってか、将棋以外の話は鉄道好きやスイーツ好きといった程度しか知られていない。幼少期の藤井八冠の人物像に迫る本シリーズ最終回では、“将棋から離れた藤井八冠の素顔”をよく知る方々に聞いた。
名古屋市内、中日ドラゴンズの本拠地・バンテリンドーム ナゴヤや、徳川美術館にほど近い場所にある「らあめん専門店 陣屋本店」。ここは師匠、杉本昌孝八段の将棋教室から徒歩10分程という立地もあって、藤井八冠は一時は毎月のように通っていたという。店を切り盛りする女将さんは、藤井八冠の気さくな一面をよく見ていた。「聡太さんを知ったのは中学2年生のころでしょうか。杉本先生と一緒によく来てくださっていました。本当に麺類好きなようで、頼むのは決まって『チャーシューらぁめん』の大盛り。体は細いのに意外と食べるんですよね。キノコ嫌いは有名ですが、メンマも嫌いなようで、いつもメンマを杉本先生にあげて、替わりにチャーシューをもらっています」
藤井八冠がよく通っていた「らあめん専門店 陣屋本店」
食事をしているときと盤面に向かっているときはまるで別人なのだという。「おっとりしていて食べるスピードも遅めで、食べきるのに30分くらいかかることもありました。だから聡太さんがテレビで堂々と難しい話をしているところ見たときは、『こんな子だったの』とびっくりした覚えがあります。店で他のお客さんに『写真撮っていいですか?』と尋ねられて『はいはい、いいですよ』と応じるような、ファンにも優しい子です。ちなみに杉本先生は会計のときに、『今ではこの子のほうが稼いでいますけど、支払いは僕なんです』、なんて冗談も言ってましたね(笑)」(同)プロ棋士として、すでに数億円の収入を得ている藤井八冠。しかし、子どものころから贅沢とは無縁の金銭感覚を持っていたと話すのは東海研修会元幹事で日本将棋連盟公認の棋道師範の竹内勉氏だ。「小学校高学年か中学生のころに、街中で喉が渇いたからペットボトルのお茶を買おうとなったときに、『自動販売機で買ったら負けだ』と言ったそうです。スーパーで買えばもっと安く買えるからと。親御さんの教育がすばらしかったのでしょう。しっかりした金銭感覚ですよね」
さらに、昼食でのこんなエピソードも。「すき家の牛丼やカレー、王将の餃子セットなど、私が何種類か用意して、それを早いもの順で生徒が選ぶんです。値段を見て高いものを食べようとする子もいるなかで、彼は値段を気にせず、すき家のカレーを好んで食べていました。『小学生にはちょっと辛いのでやめときな』と言っても、『辛いの大丈夫!』って聞かずに食べて、よく腹痛になっていました。それでもまたカレーを食べるんです(笑)」
藤井八段も指導を受けた東海研修会元幹事の竹内勉氏
と当時を笑いながら振り返る竹内氏。腹痛になったときはおばあちゃんが迎えにくるそうだが、「連れて帰られたら将棋ができないので、やせ我慢でしょうが『治った!』と言い張り、居残って将棋を続けていました」と意地っ張りな面も見せていたそうだ。幼少時から将棋漬けの生活を送ってきた藤井八冠だが、小中学校を通じて欠かさず続けたことがある。プロ棋士で、『将棋世界』の編集長も務めた田丸昇九段が次のように話す。「学校から帰ったら、まず新聞を読んでいたそうです。特派員報告というコーナーが好きで、世界情勢に興味があったようです。また、小学校高学年のときに面白かった本として挙げたのが、百田尚樹の『海賊とよばれた男』と、沢木耕太郎の『深夜特急』シリーズです」藤井八冠のボキャブラリーが豊富なことはよく報じられているが、さまざまなジャンルの本を読んだことが大きいのだろう。有名な「僥倖としか言いようがない」というフレーズも将棋の雑誌を読んでいたからこそ、自然に発せられたのだ。
テレビはほとんど見ないそうだが、中学生以降、唯一見ていた番組が『ブラタモリ』なのだという。「彼は鉄道の運転士になりたかったほどの“乗り鉄”で、幼年期には踏切の前で電車を1時間眺めていても飽きなかったそうです。小学生になると、東海道新幹線や名古屋近辺の私鉄の時刻表を全部暗記したようですし、大阪の関西将棋会館との往復では、片道2時間以上もかけて、さまざまな鉄道ルートで行き来しています。それほどの電車好きだから、同じく鉄道好きで有名なタモリさんの番組も好きなようです」(田丸九段)スポーツニッポンの新春企画でタモリと対談しているが、その時も『ブラタモリ』の番組裏話で盛り上がったという。タモリが電気機関車を運転したことがあると話すと、藤井八冠は、「僕は『電車でGO!』くらいです」と話している。
新人王獲得時の藤井聡太八冠(共同通信社より)
今年8月22日、23日に行われた王位防衛戦の第5局では、それまでの車移動をやめ、JR岡山から快速マリンライナーと特急うずしおに乗って徳島入りした。対局前日の会見では、「瀬戸大橋線から高徳線で来ましたが、実は初めて乗る路線。JR四国の2700系は初めて乗る車両で、いろいろ楽しんで来ることができました」とうれしそうに話していた。「2021年の王位防衛戦第2局では、目的地の旭川空港へ直接飛ばず、新千歳空港に到着。千歳線と函館本線に乗り、景色を楽しんだ。王位を防衛できたのは、気分転換して『鉄分』をいっぱい取れたからだと言われていました」(田丸九段)10月11日に行われた王座戦第4局の会場は京都市のウェスティン都ホテル京都。果たしてどんな景色を見て現地に入ったのか。もしかしたら、その車窓から見た景色が八冠という大偉業の後押しとなったのかもしれない。取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班