シャネルやスキャパレッリらの名作を集めた「コスチュームジュエリー」展で、恍惚が止まらない

パナソニック汐留美術館で、『コスチュームジュエリー 美の変革者たち シャネル、スキャパレッリ、ディオール 小瀧千佐子コレクションより』が開催されています。日本では稀少なコスチュームジュエリーのコレクターであり研究者の小瀧千佐子さん監修のもと、小瀧さんが約40年をかけて集めた希少なコレクションを中心に、450点あまりの作品が集結。コスチュームジュエリーの展開を包括的に紹介する、日本初の美術展覧会となっています。

そもそも「コスチュームジュエリー」とは何でしょうか? それは、宝石や貴金属などの高価な素材を使用せず、ガラスやメタル、半貴石、あるいは木や貝殻、プラスチックなど“素材の制約”なく自由に作られた、デザイン性に富んだファッションジュエリーのこと。洋服と同じようにコスチュームジュエリーも、オートクチュールドレスのために作られた一点物、プレタポルテ用に限定された数だけ作られたもの、そして大量生産された広く一般向けのアクセサリー、の3段階にわけられます。
○コスチュームジュエリーは“素材の解放”で誕生した

「ファッションジュエリーというのは、その時代の世相と流行を反映して、毎日のように生まれて、流行の終焉とともにはかなく消え去っていく運命に、基本的にはあります。ところがこの展覧会には、2つの大戦をくぐり抜けてきた作品が存在します。ファッションという、急流のような流れの中を踏みとどまって残ったのには訳があって、それはデザイナーの確固たるスタイル、様式美があったからこそ」だと小瀧さんは語っています。

20世紀初頭に誕生し、パリのモード界で花開いたコスチュームジュエリーは、“素材の自由”を獲得したデザイナーたち、シャネルやスキャパレッリらがオートクチュールのコレクションごとに個性に富んだ“クチュールジュエリー”を発表し、バレンシアガやディオール、ジバンシイ、イヴ・サンローランらもそれに続きました。

小瀧さんが「必ず見て欲しい作品」のひとつとして挙げたのが、スキャパレッリのネックレス“葉”。ピンクゴールドの葉っぱが幾重にも重なったこの三連のネックレスは、スキャパレッリの自然主義をテーマとした「パガン・コレクション」で発表されました。葉の一枚一枚が葉脈のディテールに至るまで細密に表現され、実際に身に着けると葉っぱが美しく立ち上がり、置いてある展示とはまた別の味わいが感じられるそう。ああ、これを首に飾ってトータルに完成されたドレス姿を見てみたい!

「私は職人である」と言ったシャネルに対して、自分を「私はアーティストである」と言いきったスキャパレッリ。彼女はファッションに“アート”を持ちこんだデザイナーの先駆けで、その時代の世相をまっすぐ率直に、コレクションに反映しました。

「例えば、『戦争はやめろ、戦争の悲惨さはこれ以上沢山だ』というメッセージが反映された、真っ赤なハートに3本の矢が刺さったクリップ“ハートモチーフ”では、どれだけ傷ついているかというメッセージを彼女なりの方法で発信しています。日本ではシャネルほど知られていないので、この機会にぜひ彼女の名前を憶えてほしい」(小瀧さん)。
卓越した技術が光る、工房の天才職人たち
オートクチュールメゾンは、コスチュームジュエリーの制作を工房に依頼していました。展示の第2章では、コッポラ・エ・トッポやリーン・ヴォートランといった卓越した技術を持つ職人たちの工房の作品が多数紹介されています。本展担当学芸員の宮内真理子さんは、「ひとつひとつが小さな彫刻のような、リーン・ヴォートランのブロンズ製の作品はぜひ見て欲しい」と語ります。

小瀧さんはリーン・ヴォートランについて、「すごく素敵な女性です。たった3日でスキャパレッリのお店を辞めて、自分で工房を開いて。空想を現実の有形な形に作り上げる天才で、古代文明や詩、聖書などからインスピレーションを受けて、不思議でユニークな作品を作っています」と紹介。世界中に熱狂的なファンを持つリーン・ヴォートランの作品がオークションに出品されると、ずっと手が上がりっぱなしなのだとか。

好対照と言えるのがコッポラ・エ・トッポで、「デザイナーはリダ・コッポラただひとり。デザインから制作まで、1から10までひとりで行っている“色彩の魔術師”のような人」だそう。ベネツィアで学び、ベネツィアのビーズに精通していた彼女は、何万色ものビーズの中から自分で選んでグラデーションしている、その色使いの妙を楽しんで欲しい、と小瀧さん。
○アメリカで大きく花開いたコスチュームジュエリー

アメリカでも人気のあったシャネルやスキャパレッリの影響に加えて、1940年代以降はハリウッド映画の女優たちのスタイルから、コスチュームジュエリーはアメリカの女性たちにも広まりました。

「ヨーロッパには古代エジプト時代から脈々と続く宝飾の歴史があって、デザインもテーマも、どうしてもその縛りから逃げられない、その制約から外れることができません。それがアメリカに渡って、当初はコピーから始まるんだけど、そういう歴史がないことが幸いして、コスチュームジュエリーが非常にユニークで自由に花開いたと思っています」と小瀧さん。アメリカでは面白い作品がたくさん作られているので、ぜひヨーロッパとの違いを見て欲しいと語ります。

「作品との距離が近く、親密な気分で見ることができるのが当館の強みです」と担当学芸員の宮内さんが語るように、コンパクトなフロアに450点あまりの貴重な作品が大集結している同展。細工の美しさや鮮やかな色使いに魅せられ、斬新なデザインに目を見張り、素材の多様さに感心し、チャーミングな作品にキュン! ……と、筆者は展示の最初から最後まで、感性を刺激されっぱなしでした。ぜひお気に入りのコスチュームジュエリーに出会いに、足を運んでみてはいかがでしょうか。

■information
「開館20周年記念展 コスチュームジュエリー 美の変革者たち シャネル、スキャパレッリ、ディオール 小瀧千佐子コレクションより」
会場:パナソニック汐留美術館
期間:10月7日~12月17日(10:00~18:00)/水曜休、12月13日は開館
観覧料:一般1,200円、65歳以上1,100円、大学生・高校生700円、中学生以下、障害者手帳をご提示の方及び付添者1名は無料